WEB本の雑誌

12月26日(木)

 直行で横浜へ向かう京浜東北線のなか、目の前に座ったサラリーマンが文庫本を開いていた。電車のなかで他人が読んでいる本を思わずチェックしてしまうのは、出版業界人の宿命だろう。どんなに混雑していようと、ついつい擦り寄り何を読んでいるのか確認してしまう。

 そういう観察のなかで一番うれしいのは、単行本の既刊書を読んでいる人を見つけたときだ。思わず頬ずりして、あなたのような方が出版社を支えているんですと力強く握手したくなるほど。しかししかし最近そう思って近づいていくと、その単行本にビニールコーティングがなされ図書館の蔵書印がされていることがあまりに多い。その場合は、10冊に1冊は買ってね!なんて耳元で呟きたくなってしまう。

 さてさて、本日京浜東北線で文庫本を読んでいたサラリーマンには別の意味で話かけそうになってしまった。なんとそのサラリーマンが読んでいたのは、僕が『おすすめ文庫王国2002年度版』で声を大にしてプッシュし1位に輝いた『火怨』高橋克彦著(講談社文庫)だったのだ。

 読んでいるページを確認するとまだ上巻の30ページあたり。僕はその辺で既に涙を流していたので、目の前のサラリーマンが突然泣き出すんじゃないかと気が気でなくなり、もしそうなったら「あなたの気持ちはよくわかりません」と声をかけ、ハンカチを差し出そうと考えていた。

 サラリーマンが涙を流す前に、京浜東北線は横浜駅にたどり着き、僕はあえなく電車を降りた。おじさん、幸せですよ。その後まだ『炎立つ』もあるし、『天を衝く』もありますから、きっと家族に相手にされない正月休みも楽しめますよと呟きつつ、電車を見送るのであった。