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7月26日(土) 炎のサッカー日誌 2003.08

 2003年Jリーグ、ディビジョン1、ファーストステージ第14節。

 この日の相手はベガルタ仙台なのだが、なんとそのホームタウンである仙台は、この日深夜、早朝と2度に渡って大きな地震にみまわれ、TVのニュース映像では倒壊した民家や崩れた落ちた山などが映し出されているではないか。いやはや大変だ。こんな日に試合をやるんだろうか? いや試合はやるだろうが、あの黄色い仙台サポーターはやって来れるのか?

 ところが開門時には、僕の心配をよそに大型バス20数台が埼玉スタジアムに横付けされ、黄色い集団が山のように降りて来る。震災の被害地がかなり局所的だったとはいえ、それにしても心配じゃないのか、君たちは。もし試合の最中に再度大きな地震が来て、君たちの家が崩壊するなんてことになったらどうするんだ? あれ? もしかして埼玉スタジアムを避難場所にしていないだろうな。いやはやそんなことはともかく、仙台サポーターの正しいサッカーバカの姿勢に、敵ながら天晴れ!!

 しかし例え募金はしても募星はするわけにいかず、我が浦和レッズは優勝戦線に絡んでいなくても、1つでも勝ち点を重ね選手に自信を植え付けなければならないのだ。容赦はしない!

 と意気込んでキックオフを迎えたが、選手はまったく違う気分のようで、開始5分にDF<クリーンボーイ>坪井とGK<フィードは日本一>都築との連携不足から中途半端なプレーが生まれ、マルコスにゴールを決められてしまう。0対1。隣にいる観戦仲間<アル中>Kさんは充血した目を一段と充血させ「まだまだ~」と叫び、浦和レッズコールを連呼し出す。そのとおり!

 その想いが通じたのか、<日本一ため息が多いサッカー選手>永井が久しぶりのゴールを決め同点に!! 歓喜に渦巻くゴール裏で、僕は夕焼け空に向かって願いを込める。「頼む、頼む、永井よ、大人になってくれ。お前と山田が大人になれれば、浦和レッズの優勝も夢じゃない!」

 レッズのサッカーもいまいちなのだが、降格ラインにいる仙台のサッカーはそれ以上に酷く、いま3あたり。ちなみに我が浦和レッズは今まで仙台に負けたことがなく、数少ない「おいしい相手」でもある。これなら勝てる!と気合いを入れ直した前半35分。日本全国チビッコの星すなわち僕のスター田中達也が鋭い振りでシュートを放ち、逆転ゴールを決める。ワオワオワオと飛び跳ねながら、僕は大興奮。

 ハーフタイムになって「今日は楽勝だ」なんて考えていると、世の中やはりろくなことがなくて、後半に入ってしばらくするとマルコスにこの日2点目の同点ゴールを決められてしまった。既にビールを8杯を太鼓腹に流し込んでいるKさんは、「ぬぁ~に、やってんだよ!!」と怒鳴りながら座り込んでしまった。そのとおり!

 しかししかし、背中に冷たい汗が流れ出した頃、濡れ手に粟で仙台選手が退場となり、その隙に人生一度も慌てたことがないゼリッチが、落ち着いた切り返しから鋭いシュートを打ち、決勝ゴール!!

 試合はそのまま3対2で終了のホイッスルを迎え、レッズの2度に渡る逆転勝利に終わる。地獄・天国・天国・地獄・天国。こういう試合は疲れるけれど、一番興奮してしまう。吐き出した唾に血が混じっていた。

7月25日(金)

 営業を終えて会社に戻ると、社内に8月、9月のカレンダーが張り出されていた。夏休みを取る人間はそこにハンコを押すようになっているようだ。

 しかし8月は、本の雑誌社とは思えないしっかりした写真集『川物語』と木村弁護士の『ありふれない一日』の2点も新刊があって僕はとても休めそうにないし、来月は本誌人気連載の『笹塚日記』第2集を刊行する予定でこちらもキツイ。

 そんなことを考え、悶々としながら注文の処理をしていると、事務の浜田に「早い者勝ちですよ!」としつこく促される。仕方なくカレンダーを覗いてみると、夏休みの権利を放棄している金子以外は、既に全員のハンコが押されいるではないか。

 おまけに、なぜか発行人の浜本のハンコが11個も押されていてビックリ。「これ何ですか?」と突っ込みを入れると「あれ~、うそ~? あっ間違えちゃったんだ」と呟きつつ、その11個のハンコのうち4個に×を付けだした。それでも1週間は休むつもりだったのね…。

 果たして今夏、僕は休みを取れるのか?
 それともついに僕もワカーホリック金子になってしまうのか。おお、浜本がニヤニヤしながら僕を見つめているぞ。
 

7月24日(木)

 ここのところの涼しさは営業マンにとって幸せなことなのだが、その分、雨が多く、こちらは売上不振を招くので大きな不幸。

 しかし営業マンにとって最もツライことは、そんな天候ではなく、営業先でまったく相手にされないことだろう。担当者さんに顔も視線も合わせてもらえず、名乗った時点で「用ありません」と断られることだってあるし、「いないって言って…」と壁の向こうから聞こえてくることもある。そこへ入れ違いに名の通った出版社が来て、その担当者さんが満面の笑みで出てくるなんてこともある。

 かつて勤めていた専門出版社で、ときたま一般書を出していたのだが、そのときは毎日がこんな感じだった。注文をもらうなんて夢の話で、10件廻って2、3件、目を見て口を聞いてもらえれば良い方だった。

 今だったら、その対応が自分自身にではなく、会社への評価なのだと気持ちを切り換えられるけれど、あの頃はまだ経験値も低く若かったので、自分が否定されたような気がして深く落ち込んだ。駅のベンチで何度もため息を付き、本屋さんが嫌いな場所になりつつあった。そのとき思ったのは、とにかく出版社は売れる本を1冊でも作って「○○の××社」ですと名乗れるようにならないと相手にしてもらえないってことだ。


 『本の雑誌』というのは創刊時の成り立ちからして独特のスタンスがあって、それはわりと書店さんに応援されやすいスタンスなのだろう。だから今は営業に行っても、丁寧に対応されることが多い。話は聞いてもらえるし、注文も頂ける。ときには予想外のフェア依頼まで来て、大きく展開してもらえたりもする。

 昔を思えば夢のような話だ。

 けれどここで勘違いしちゃマズイのは、それは会社の看板があるからこそってことで、自分の力なんてそもそも何もないんだし、だからこの夢が覚めないようしっかり売れる本を作っていかなきゃと強く感じている。

 もう、あのツライ日々に戻りたくないから。

7月23日(水)

 完全なる不調…。
 他はいつも不調だからどうでも良いんだけど、日記が書けないのはツライ。

 つらくなって考え込んでいるうちに気づいたのは、何でこんなことで営業マンが落ちこまなきゃいけないんだってこと。とほほほ。

★    ★    ★
 
 とある町の本屋さんを訪問。

 そこは店長さんがとても熱心な人で、お店の規模とはうらはらにかなりしっかりした品揃えをしているお店だ。棚前で話し込んでいると平台に積まれた新刊に妙な違和感を感じた。気になって手を伸ばしてみると、スリップが入っていない。もしかして…。

 店長さんに話を振ると、やはりそのもしかしてで
「いやー、配本が0でさ…。元々指定もかけられない出版社だし、仕入れに行っても手に入らないしさ。でもこれだけ有名な作家で新聞広告もドーンと打つような本がないなんてお客さんに言えないじゃない。だから本屋に行って買ってきたよ」
と、さも当前のように話される。

 本屋さんが本屋さんから本を買ってそれをお客さんに売る。
 つまり儲けはないわけで、誰がどう考えてもおかしな話なのだが、大・小の差がハッキリ出るこの業界では割とよくある話でもある。うーん…。

 その後、かなり長い時間、店長さんと話し込んだ。
 小さな書店にとって状況は最悪に近いのに、それでも店長さんは前向きで、しかも常にその目はお客さんに向けられていて、どういう本屋が喜ばれるかを真剣に考えられている。

 お店を出るとすっかり辺りは暗くなっていた。
 商店街を歩いていると、ふっと自分の足取りが軽くなったのがわかる。今日からまた日記を書こう。

7月14日(月)

 今月の新刊『よりぬき読書相談室』の事前注文の〆切日が近づき、いつも通りジタバタのジグザグ営業だ。朝は神奈川県、午後は千葉県、夜は東京都と1都2県を駆けずり廻る。それでも本日は幾分涼しい気候なので営業のツラさも半減か。

 それにしても相変わらず本は売れてなくて、どこの書店さんを訪問してもグッタリしているし、顔を合わす他社営業マンも表情が暗い。そんななかL書店さんが取次店N社さんに買収というか株を90%譲渡したなんてニュースもあって、いったいこの業界はどこへいってしまうんでしょうか。

7月12日(土)

 朝8時に家を飛び出し、埼スタへ。

 一部の狂人以外誰も信じてくれないけれど、こんなに早くから行って試合開始は夜の7時だ。
 それまで約11時間もあるのだが、日影のまったくない競技場の脇にレジャーシートを敷いて、酒を飲んだり、タオルを顔に眠ったり、本を読んだりし、とにかくどうにか時をやり過ごし、キックオフを待つしかない。いったいサッカーを観るためにこんなに待つ世界があるというんだ? いや、ここは世界のサッカーの中心<浦和>だから仕方ないか。

 しかしその苦労の分だけ報われればまだ幸せなのだが、この日のレッズはDFラインでボールを右から左へ動かし、なるべく相手ゴールからほど遠いところでサッカーをしようというとんでもないプレーをするではないか。たまに相手ゴールに近づくと、こりゃまずいとばかりにあわてて後ろへ戻しやがり、その後はあっちこっちでポストプレー。いつまで経ってもボールはセンタライン上に張り付いたままで、誰かが突然思い出したようにシュートを試みるが、なるべくゴールの枠とは一向に関係ないところへ向かって蹴るのがお約束。

 ああ、こうなってしまったらこれはサッカー観戦という苦行でしかない。
 いやはや、酷い。とにかく醜い。とても11時間も待って観戦するようなサッカーではないし、正直いえば金を貰っても見たくないサッカーだ。

 その結果、同じように酷いサッカーをしていたFC東京の、教科書どおりのコーナーキックにやられ0対1の敗退が決まる。

 おーい、レッズの選手達よ!
 この11時間+2時間の間に僕が失った家族からの信用を返してくれ!!
 こっちは、2歳半の娘の前でわざわざ一度スーツを着て「パパは会社だからね!」と嘘を付いて別れて来たんだぞ。おまけにその嘘をついているとき妻に「パパの仕事って何なんだろうね?」と嫌味まで言われてさ。もし今日サッカーがなければ、その娘をプールにいれて、幸せな家庭を演じられたというのにだ。

 自転車に乗り、誰も僕を必要としていない家へ帰る。
 「バカ!バカ!バカ!」と叫びながら自転車を漕いでいたら、通常20分かかる道のりを15分で走破してしまう。早く帰りたくなんかないのに…。ああ。

7月8日(火)~11日(金)

 先週半ばから途切れることなく飲み会が続き、とてもこの日記を書く時間が取れませんでした。更新を楽しみにしている人がどれほどいるのかわかりませんがどうもすみませんです。

 飲み会というのはなぜか固まりでやってくるもので、この2週を過ぎたらあとはスケジュール帳も空白だらけ。不思議なもんです。

 ではでは来週からはしっかり更新していきますので、よろしくお願い致します。

7月7日(月)

 我が故郷「春日部」から乗り換えなしで行ける「六本木」。しかし、僕にとってはまったく縁のない街だ。夜は眠りたいし、リズム感もないし、サッカー選手以外の外人に興味はないし、そもそも乗り換えなしっていっても各駅で2時間くらいかかるのだから行くわけないか…。

 その六本木へ営業に向かうが、A書店さんもT書店さんも担当者さんが不在であえなく撃沈。芋洗坂をトボトボと下りつつふと顔をあげたら、真っ正面にとてつもなく大きな建物があるではないか。おお、これが噂の六本木ヒルズ! そういえば書店さんが3軒入っているはずだ…。

 ところがところが、とりあえず芋洗坂の真正面にあるT書店さんは見つけられたのだが、それ以外のY書店さんとV書店さんがどこにあるのかわからない。地図を見ても見当がつかないし、人に聞こうにもみんな僕と同じ状態で右往左往しているのでは仕方ない。それにしてもここも丸ビルと一緒でおばさんばかりではないか。

 30分ほどうろついていたが、結局Y書店さんもV書店さんも見つけられず、疲労困憊で退散することを決意。何だったんだ「六本木ヒルズ」。

 それからググッと四谷に移動し、浜本の代役として椎名誠写真展のレセプションパーティーに参加する。こちらもかなり場違いな気がしつつ、乾杯用に頂いた缶ビール一本で急速に酔っぱらい、すぐさま退散する。何だか、今日は逃げてばかりだ。

 会社に戻り、夜遅くまで座談会の収録に立ち会う。
 これは自分で立てた企画なだけに逃げるわけにはいきません。

7月4日(金)

 とある書店さんの話。

「杉江さん、出版社に勤めてるでしょ。まあ、杉江さんは営業ですけど、出版社って本を作る会社ですよね。わたしたち書店員は出来上がった、その本を売るのが仕事ですよね。わたしは売るのが好きだから、もちろん書店員でいることに満足してるんですけど、でも、本を作れるっていうのはスゴイことですよね。幸せなことですよ。だって世の中に自分の考えた本が出せるんですもの。文芸書だったら好きな作家…って私もいますけど、その人達に会って話をして、本を作れる。ほんとにほんとに幸せなことだと思います」

7月3日(木)

 禁煙3日目。

 昨夜、深夜。
 唐突にタバコが吸いたくなり、あわや唯一タバコというかシケモクが残っている車の灰皿に向かいそうになる。それをしたらこの二日間の死に物狂いの苦労は何だったんだと反省し、じっと我慢。

 蒲団にくるまり身もだえしつつ、頭に浮かんでくるのは、タバコが美味かったシーンだ。
 例えばレッズ戦のハーフタイム。不甲斐ない選手達を罵りながら階段際で立て続けに吸うあの苦い味。俺はもうあの幸せを手にすることが出来ないのかと考えると、つい起きあがって車に向かいそうになる。

 知らないうちに眠りにつき、そして朝となり、起き抜けが一番タバコが吸いたくなる瞬間だったはずなのだが、今日は、自分がこの時間にタバコを吸っていたことすら忘れてしまって、気づいたら家を出ていた。

 どうも禁断症状の山場が過ぎたようで、本日はほとんどタバコのことを考えずに過ごせた。

 しかししかし。
 この日の夜、仲の良い営業マンYさんと酒を飲みに行くことになり、大きな誘惑と戦うことになる。酒とタバコ。これは切っても切れないアイテムだ。おまけにYさんは愛煙家。

 そしてついに誘惑に負けて……。

 ところが、美味くないんだ、タバコが!!
 この3日間あんなに夢見たタバコが、こんなにマズイとは…。
 俺は、こんなものに身もだえし、そして今まで約20年間も吸ってきたのか。
 なんだかショックを受けつつ煙を吐き出す。
 その瞬間、僕がこの禁煙に勝利することを確信した。

7月2日(水)

 いやはや驚いた。

 何に驚いたって、それはとある出版社から新創刊されたノベルスのラインナップなのだが、なんとそこに並んだ本、どれもこれもつい最近、単行本で発売されたばかりのいわばまだ<新刊>として通用するものだったのだ。

 単行本から文庫化への期間が短縮される一方の昨今だが、単行本発売から3、4ヶ月でノベルス化とは驚くばかり。このスピードなら年内中に文庫化もありえそうで、親本発売一年以内での単行本→ノベルス→文庫という最速出版グランドスラム達成になるのではなかろうか。

 それにしてもこの短期間で単行本がノベルス化されたのを考えると、実はその単行本の発売時期には、既にその出版社内部ではノベルスの制作が進んでいたのではなかろうか。とすればノベルス化することが決まっていながら、その単行本を書店さんから注文を受けたり、あるいは読者が買っていくそのシーンを、この出版社の人達はどのような気持ちで見ていたのだろうか。

 出版業界の常識を覆す!なんていうつもりなのかどうかわからないけれど、こういうことをされると、全体的に単行本の価値は下がっていくし、読者の信用を落とすことにも繋がるだろう。小さな業界だけに1社が全体に及ぼす影響をきちんと考えた上で、こういうことは取り組んで欲しいものだ。なんだか、なんだか、なんだかなぁ…。

 

7月1日(火)

 タバコの値段(税金)が上がるのきっかけに、禁煙することにした。
 そう話すと社内のみんなが「無理だ」と笑う。家族も同じ対応だ。
 しかし僕の意志は固い。

 今まで一日1箱、月に約30箱をタバコを消費していた。これを昨夜何気なく計算してみたら月7500円、年で9万円も口から煙にして吐き出していたのだ。これに今まで吸ってきた年数20年をかけると、およよよ180万円にもなるではないか。車一台分の煙か…。

 健康にはそれほど興味がないが、いわゆる1000円亭主の身として、あまりに無駄遣いなのは間違いないし、このお金がもしそのまま手元に残るなら、レッズの地方遠征3回分くらいになるだろう。しかもその無駄遣いの半分くらいが税金だという。こういうカラクリを真剣に考えれば、きっと辞められるはずだと、一日中タバコのことを考える。

 いやー、吸いたい。
 朝起きて一服。
 コーヒーを飲んで一服。
 食後の一服。
 営業後の一服。
 会議の一服。
 サカつくの一服

 辞めてみてわかるのは、月7500円分以上、タバコが僕を幸福にしてくれていたってことだ。おまけにニコチンの中毒症状のせいか、頭はぼんやりしているし、仕事もまったく集中できない。

 ならば、吸うか?
 いや、俺は辞めたんだ。
 一日中、数千回、それをくり返していた。

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