WEB本の雑誌

9月2日(火)

 珍しく午前中に出社した発行人浜本改めトーマス浜本が、会社に入ってくるなり大声をあげる。「今日は助っ人の及川君は出社するのか?」

 事務の浜田があわてて助っ人出勤予定表を確認すると○がついていたようで「来ますよ」と答える。トーマス浜本は「そうかそうか」と嬉しそうに呟き、及川君を予約し自分の席へ向かう。

 しばらくすると顧問目黒が降りてくる。こちらも開口一番「今日は及川君来るの?」と同じことを聞く。今度は確認する必要がないので、すぐさま事務の浜田が「ええ」と答えるが、浜本が席から声をあげる。

「目黒さん! 及川君は僕が先に予約しているからダメですよ!!」
「え~~、ちょっと貸してよ、部屋掃除するんだからさぁ」
「しょうがねぇなぁ~。じゃあ、3時以降にしてください」

 現在、助っ人及川君は大人気だ。浜本や目黒はもとより編集部も何かがあると「及川く~ん」と叫ぶし、校正のIさんも及川君を一番に指名する。

 仕事が速い。何せ彼にお届け物を頼むと走って向かうのだから。
 それから非常に礼儀正しい。大きな声で挨拶が出来る。
 話をちゃんと聞く。もちろんこちらの目をしっかりみて、しかもメモも取る。
 だから間違いがない。

 などなど彼の良さをあげたらキリがない。そんな彼だからこそ、いつもは人の名前を一切覚えない目黒までもが彼の名前を覚え、指名するのだろう。

 ちなみに僕は目黒に名前を覚えてもらうまで3年かかり、普通に話せるようになるまで、5年かかった。
 ……。

9月1日(月)

 週末。
 我が浦和レッズはヴィッセル神戸に余裕の勝利。これで2ndステージ2勝1分。

 素晴らしい気分で会社に行くが誰もそのことに触れてくれない。サッカーどころか、スポーツの話題が一切でない会社も珍しい。敵チームのサポーターでも良いから、昨日のあの試合見た?なんて話がしたい。

 そんな会社で唯一の例外は事務の浜田で、彼女は姓名判断で「水商売が向いている」といわれただけあって、まったく興味もないくせに「昨日は浦和レッズがどうでした?」なんて一応聞いてくれるのだ。右の耳から左の耳へ一気に抜けているのがわかっていても、こっちはとにかく話されて気が済むのだ。

 ところがその浜田が今週は夏休み。その夏休みの行動が凄まじいのだ。

 まず日曜日。田舎から出てくる友人を羽田に迎えに行き、その足で御殿場のアウトレットに向かうそうだ。それだけで驚いていたところ、その夜には、月島へもんじゃを食べに行き、翌日の月曜日はディジニーシーで開園から閉園まで過ごすという。おまけにそのまた翌日の火曜日は、六本木ヒルズへ早朝から繰り出すという。

 全部友人の希望らしいのだが、いやはや恐ろしい。
 いや、そんなことより、僕の夏休みはどこへいってしまったんだ?