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11月29日(水) 炎のU2日誌

 中学生のとき、5歳離れた兄貴の部屋に潜り込み、兄貴の高校進学祝いで買ってもらったステレオに1枚、1枚レコードを載せ聴いていた。兄貴は大学を自主休校したバンド野郎の楽器店アルバイト店員で、いわばニック・ホーンビィの『ハイ・フィデリティ』(新潮社)の主人公ロブみたいなヤツだったのだが、その兄貴の持っているレコードで唯一気に入って、のちにかっぱらったのが、U2だった。

「War」や「Under a Blood Red Sky」の向こうから聞こえて来る、まさに魂の叫びに、サッカーボールと女の子ばかり追いかけていた男の子(僕)はビンビンに感動したのである。そしてこの人たちはいったい何をこんなに向きになって歌っているんだろうと辞書を片手に翻訳に挑戦したのが「Sunday Bloody Sunday」で、その意味を知って、さらにU2にのめり込んだのであった。

 そのU2の「VERTIGO//2006 TOUR」にレッズ仲間のキリとさいたまスーパーアリーナに向かったのであった。キリ曰く「なんでFC東京戦にU2にガンバ大阪戦と週に3回も杉江さんと会わないといけないんですか?」なんだけど、たとえ身長差は30センチ以上あっても趣味が似てるんだから仕方ねえだろう。

 チケットにはアリーナ立ち見と書かれていたのが果たしてどこだ?と思いつつ会場に入ったのだが、いやービックリした。なんとそこは舞台の前で、すぐそこにボノが、エッジが、いるではないか。もはやもうまったく現実感がなく、しかも過去2回の来日より気合いが入っているようで、静から動へ一転するまるでカウンターサッカーのような各曲に失禁寸前。ボノ~。

 しかも「Sunday Bloody Sunday」の曲後には、バックモニターに「共存」の文字が出るし、世界人権宣言の条文が流れたり、ホットケナイメッセージなど、U2はいくつになっても戦っているんだと実感しつつ、その頭の良さというか、人間としてのあまりの器(経験値)の違いに打ちのめされる。

 約2時間の講演を聴き終え、外に出ると興奮冷めやらぬキリが呟いた。
「ああ明日も行きたいなぁ。チケットないかなぁ」

 キリよ、週に4回、俺と会うか?