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大場 利子の<<書評>> |
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プラネタリウムのふたご
【講談社】
いしいしんじ
定価 1,900円(税込)
2003/4
ISBN-4062118262 |
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評価:B
「けれど月あかりは、星を見るのにちょっと邪魔っけですね。月には、しばらくのあいだ、かくれていてもらいましょう。なにしろ今夜は、みなさんを太陽系の外、銀河をとびだしたそのずっと先の宇宙のはてまでお連れするんですからね。では、東をごらんください」。思わず東を探す。明るいライトの下でこれだ。こんな調子で、物語の中に埋まっていった。見事にはてまで連れさられた。
ふたごの一人、タットルが好きだ。「この世の誰かと誰かが遠くでつながっている証にほかならなかった」と郵便を、配達をするタットルが好きだ。
●この本のつまずき→おそらく著者の手書きで作られた、感想を書く葉書。名前住所に交ざって、『あなたの「光のかけら」はどんなことですか』。本書と関係あるのか。読み逃したのか。 |
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葉桜の季節に君を想うということ
【文藝春秋】
歌野正午
定価 1,950円(税込)
2003/3
ISBN-4163217207 |
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評価:A
ミステリだ。しかもよく意味は知らないが本格ミステリだ。用心に用心、それに越したことはないと十分に用心を張り巡らせて、そこまでしたのに、まんまと引っ掛かり、目玉はとび出る、ウソ…と声に出す、面目ない。
「健康に関する講演会と健康関連商品の無料体験会が近所のホールで行われるという。来場者にはもれなくアルカリイオン水がプレゼントされるという。」この手のものを最近町や広告で見かてはいたが、こんなことになっていたなんて……という物語。すぐ田舎の両親に知らせなくては。
●この本のつまずき→巻末の補遺。読まないと損をする。 |
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星々の舟
【文藝春秋】
村山由佳
定価 1,680円(税込)
2003/3
ISBN-4163216502 |
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評価:B
六篇からなる長篇。目次に連なる六篇の題。意味、目的、表すことをたとい共感できなくとも、字そのものというかその字の姿に、ほっとさせられる。
「家族とは、そして、人生とはなにか。」と帯にあるが、そこまで考えなくてもいい。なにかが分らなくてもいい。それでいいと言ってくれる。「――幸福とは呼べぬ幸せも、あるのかもしれない。」この一文に出会えただけで十分。読んで良かった。
●この本のつまずき→装丁が素晴らしい。ジャケ買いしたとしても、最後まで読ませてしまう力ある装丁。もちろん装画ありきだが。物語と装画がここまではまるとは。
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重力ピエロ
【新潮社】
伊坂幸太郎
定価 1,575円(税込)
2003/4
ISBN-4104596019 |
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評価:B
冒頭一行目。すごい。すごい。もう引き込まれている。はやい。意気込みもなく期待もなく、本を開いて目に飛び込んだ一行目。もったいないので、気合い十分になる日まで本を寝かせる。
やたら博識な兄弟の物語なのが気に入らないが、一行目に受けた衝撃は裏切られない。涙涙の感動物語ではない所が好きだ。
●この本のつまずき→帯の担当編集者の言葉「小説、まだまだいけるじゃん!」の大きな赤い字。目にした時、いやな気持ちになったのでその続きは読まないでいた。読了後、本文をより際立たせることが書いてあるのかもしれないからと読んでみたら、やはり不愉快になった。 |
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アリスの夜
【光文社】
三上洸
定価 1,785円(税込)
2003/3
ISBN-4334923895 |
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評価:C
物騒だ。
偽造クレジットカード・シャブ・密輸船・自動小銃・借金・街金のオイコミ・整理屋・インチキの芸能プロダクション・殺人……。思いつく限りの悪事を並べたようだ。まったく、この世界は、あんなことこんなことだらけで、裏もあり、大変なのである。確かに主人公は大変な目に合っている。だが、感情移入も共感も応援も出来ない。他人事でしかない。物語を繋げるためだけに、盛り沢山になられても、自分は盛り上がってこなかった。
●この本のつまずき→「Tストラップ・パンプスに真っ白なオーバーニーがとても愛らしい。」オーバーニー……。考え込んだ。 |
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三谷幸喜のありふれた生活 2 怒涛の厄年
【朝日新聞社】
三谷幸喜
定価 1,155円(税込)
2003/4
ISBN-402257836X |
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評価:A
布団に入って、眠気が襲ってくるまでのつかの間にこの本を開けるか、もしくは、朝、トイレに座っているほんの少しの間に開けるか、このどちらかをおすすめしたい。間違いなく、気分のいい眠りになるし、気分のいい朝の始まりになる。もしくは虫の居所の悪い時に読んでみるのもいいかもしれない。居所を忘れるから。
新聞連載を毎週読みながら、もうそろそろ連載を終らせるべきだと何の根拠もなく思っていたが、第三弾の単行本がやはり読みたいので、それは訂正します。単行本にまとまるまでは、とりあえず、連載を続けて下さい。
●この本のつまずき→和田誠の挿画。動く三谷幸喜を見ても、この挿画が重なるほど。 |
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玉の輿同盟
【角川書店】
宇佐美游
定価 1,575円(税込)
2003/4
ISBN-4048734652 |
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評価:D
読んで字のごとく。真里、佳南子、明日香の32歳独身女性が結成する。白いタイツをはいた王子様が白馬にまたがって現れると、今だに信じて疑いたくないことにしているので、共感、共鳴、賛同の連続だわと思っていたら、残念、そうではなかった。
この三人の見分けがまずつかない。何度もこれは何をした人ぞと考えた。真里は真里、佳南子は佳南子、明日香は明日香でなくてはならない理由など何処にも見当たらない。書き手ひとりが言いたいことを、ある時はこの人、ある時はあの人と、変えていったに過ぎないように感じた。
●この本のつまずき→本書は、惹句「玉の輿小説」らしい。そういう括りがあるとは。 |
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サイレント・ゲーム
【新潮社】
リチャード・ノース・パタースン
定価 2,940円(税込)
2003/4
ISBN-4105316044 |
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評価:A
「面白かった。」友達にただそれだけを言って、この本を手渡したい。2段組・510頁・厚さ4cmのこの本を手にして、げぇと言うかもしれないが。
「自分が殺していないと知っている唯一の人間」であることが、どう作用していくのか。法廷の中、人生の中で、それは大きく割合を占める。読み手は誰を信じるか。それは法廷の中の陪審員さながらである。「わたしが殺人罪から救った依頼人はひとりとしてその後殺していない。少なくともわたしには、多少の慰めになる。」と、主人公の弁護士は言う。陪審員になったつもりの私も少なくともそうでありたいが、果たしてそれでいいのだろうかと戸惑いながら読み進んだ。
●この本のつまずき→「瑕疵」読めなかった。 |
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深夜のベルボーイ
【扶桑社】
ジム・トンプスン
定価 1,500円(税込)
2003/3
ISBN-4594039316 |
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評価:B
「ノワールの鬼才 ジム・トンプスン!」と帯に。ノワールとは何か。これを読んで理解した。物語にのめり込めばのめり込むほど、ノワールをより深く理解できる構造だ。こんな痛い目に合うくらいなら、ノワールなんて理解出来なくてよかったのに。
いらつきが、物語を支配する。主人公の青年はいらつきに捕まったまま、ずっと。大学、夢、父さん、ベルボーイの仕事、弁護士など、いらつきの原因にしかならない。そんな主人公を見ながら、つらい気持ちになりつつも、悲劇を待ち望んでいた。
●この本のつまずき→キングの序文の中から。「この男は限度というものをまったくわきまえていない。」と著者について。そのまま、キングに返したい。
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スパイたちの夏
【白水社】
マイケル・フレイン
定価 2,310円(税込)
2003/3
ISBN-4560047634 |
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評価:C
一生懸命読んだ。
中等学校に上がる前のキースとスティーヴン。彼らはスパイ。さて誰をスパイするのか。彼らが動き回る景色は、自分の周りにはないもので、匂いまで強烈に漂ってくるようだ。物語は心躍るもので、ラストに向かう時、急がずにはいられない。
それなのに、最後まで文体に馴染めないまま、リズムに乗れないままだった。きっとこういう文体こそが、物語のリズムを作り乗ってくるものだと言う人もいるだろう。だが、私は苦手だった。どうしても、つまずいてしまう。誰が悪いって、自分が悪い。
●この本のつまずき→文体そのもの。 |
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