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中原 紀生の<<書評>>
奴の小万と呼ばれた女
【講談社文庫】
松井今朝子
定価 730円(税込)
2003/4
ISBN-4062737302
評価:B
出来事に即して淡々と、かつ、メリハリをきかせた叙述が心地よい。なによりも、素材の生きがいい。木津屋の鬼娘・お雪(奴の小万)の剛毅と可憐、後の文人・木村蒹葭堂こと吉右衛門のどこか凄みを帯びた知性の輝き、里恭先生の苦楽を超えた颯爽たる挙措言動、黒舟親仁の威風堂々ぶり、お雪の二人の腰元の溌剌とした野卑、そしてお雪と愛し合った二人の男の末路の哀れさが心に残る。冒頭と終末に古書店の老女(現代に生きるお雪の霊?)を配し、お雪の晩年を史実に語らせ、読者の想像力に訴える構成も素晴らしい。文句なしに第一級の読み物だと思う。とは思うが、なにかもどかしい。快男児ならぬ快女児の胸のすく痛快・爽快な物語への勝手な期待が高まって、お雪と世間──「嘘でも人並みでありたいと願う一人一人が作り出した世間様という名の怪物。何千何万ものからだを持ちながら顔は一つしかない化け物」──との闘いの決着に、物足りなさを覚えてしまうのだ。
木曜日の朝、いつものカフェで
【扶桑社セレクト】
デビー・マッコーマー
定価 1,100円(税込)
2003/4
ISBN-4594039405
評価:C
読み進めていくうち、あまりに達者で上手すぎるデビー・マッコーマーの小説技法がだんだんと鼻につきはじめて、なぜだか突然腹がたってきました。年齢も境遇もまったく違う四人の女性をめぐる四つのストーリー──ビジネス・ウーマンの劇的で陰翳に富んだ経験談(別れた夫の死を看取るクレア)、人生後半の伴侶をめぐる初老の臆病な恋物語(年下の小児科医と結ばれるリズ)、人生の岐路を迎えた女優志願の若い女性の家族との和解(婚約者と天職を得たカレン)、そして幸福な家族を見舞ったちょっとした事件(高齢出産で家族との絆をより強めたジュリア)──が巧みに組み合わされ、あまりに流暢に語られるので、ほとんど抵抗なしに物語の世界へ入っていける。入っていけるのはいいのだけれど、そこから出てきたとき、軽い欠伸の一つとともに、なんの抵抗も屈託もなく我に帰ることができるに違いない、そんな完璧にスケジュールが組まれた小旅行のような読書体験が嘘っぽくて嫌になり、それはきっと私が四人のヒロインたちに感情移入できなかったからだと思う。それでも、読み終えたとき、よくブレンドされた逸品の珈琲を堪能した後の心地よい陶酔の香りが漂っていたのは、さすがです。
デルフィニア戦記
【中公文庫】
茅田砂胡
定価 (各)680円(税込)
2003/1〜4
ISBN-4122041473
ISBN-4122041627
ISBN-4122041732
ISBN-4122041910
評価:A
正直に言うと、それほど期待していなかった。すぐに飽きてしまうんじゃないかと思っていた。なにしろ「ティーンズノベル」、オヤジが読むものではないと思いこんでいた。(これはまったく脈絡のない話題だけれど、その昔、私がまだ十代の頃、ジュニア小説というジャンルが活況を呈していて、私もずいぶん愛読したものだが、もし今この年になって読み返すと、たぶんもうダメだと思う。)でも、ところがなかなかどうして、いったん読み始めるとこれがすこぶる面白くて、とうとう一気読みで最後まで完走してしまった。戦略小説、政治小説としても絶品、かどうかはその道のプロの判定に委ねるとして、人物の造形といい筋の運びといい、第一級の語り手の手腕に気持ちよくのせられて、まだ読んだことはないけれど、かつてサラリーマンのバイブルと言われた(かどうか記憶がはっきりしないが)かの山岡壮八の『徳川家康』もかくやと思わせる感興を味わった。とりわけ第3巻、ウォルとリィが非業の死を遂げた父の復讐を誓う場面、「この剣と戦士としての魂に掛けて」という台詞を読んで、不覚にも涙がこぼれそうになった。お勧めできます。
屈辱ポンチ
【文春文庫】
町田康
定価 450円(税込)
2003/5
ISBN-4167653028
評価:C
紛れもない「文学」の匂いと力を感じます。保坂和志さんが解説で、町田康の小説はひじょうにリアルだ、「リアル」とは「現実の底に横たわるもの」のことで、それは「感情」なんかを超えて「物」にちかいような「もの」だと書いているのは、「社会」(サラリーマンが住む社会)と社会の向こうの神や仏や鬼の世界に向けて書かれる「文学」との違いを踏まえてのことで、だから、町田康が描く「けものがれ、俺らの猿と」のどことなく高橋留美子を思わせるシュールな世界や「屈辱ポンチ」の摩訶不思議で危ない世界は、まさに「現実の底」であり「社会の向こう」なのであって、そのような世界を見据え叙述することこそが紛れもない「文学」の仕事なのだということになる。話の筋などはこの際関係なくて、町田康の文体というか語り口は、個人的な好みなど粉砕してしまうとてつもない起爆力を持っている。文体・語り口と話の筋と表現される世界が渾然一体となったとき、この人の書くものはきっと途方もない傑作になるだろうと思う。いや、私が知らないだけで、町田康はもうとうにそのような小説を書いているのかもしれない。
茫然とする技術
【ちくま文庫】
宮沢章夫
定価 714円(税込)
2003/4
ISBN-4480038086
評価:B
なにしろタイトルがいいですね。カバー裏の「脱力感みなぎる71篇」という評言も秀抜です。力が抜けて脱臼し、関節がはずれる感じがうまく表現されています。脱臼とか関節はずしというと、かのジャック・デリダの脱構築が思い浮かびます。筒井康隆の「関節話法」(『宇宙衞生博覽會』)は、文字どおり関節を鳴らして異星人とのコミュニケーションを図るという趣向でしたが、宮沢章夫の関節話法は、世界の根源にある力がぎくしゃくと軋み、狂気すれすれの世界が現出するその様を、ほとんど狂気そのものの精神でもって描写し尽くします。(脱構築とはつながらなかったけれど、このつながらなさ、ズレた感じもまた宮沢章夫的である、と言えば言えます。)実際、宮沢章夫のエッセイは、読みすぎると狂いますよ。それだけの力があります。「読書する犬」に収められた書評や解説は、一見まっとうなことを書いているように見えるふしがありますが、騙されてはいけません。やはりそこはハマると抜け出せなくなる狂気の世界です。要注意。
退職刑事
【創元推理文庫】
都筑道夫
定価 609〜630円(税込)
2002/9〜2003/3
ISBN-4488434029
ISBN-4488434037
ISBN-4488434045
ISBN-4488434053
評価:B
私の場合、和製・安楽椅子探偵と聞いて、まっ先に頭に浮かぶのが坂口安吾『明治開化 安吾捕物帖』の結城新十郎で、次いで、福永武彦が加田玲太郎の筆名で発表した「完全犯罪」その他の短編に出てくる伊丹英典。その加田玲太郎作品を、江戸川乱歩は「論理遊戯の文学」と評したという。都筑道夫が手塩にかけて育て上げた安楽椅子探偵・退職刑事が、息子の現職刑事から口づてに聞く犯罪現場の状況や関係者の人物像をたよりに繰り出す切れ味鮮やかな、しかし時として強引であまりに小説的な推理は、あくまで「論理的」な事件解決の道筋を示すものであって、結城新十郎や伊丹英典の華麗さはないものの、まさしく「論理遊戯の文学」の王道を行くものだと思う。ただ、この短編群を一度に読んでは、かえって興を殺ぐ。やはり月に一度の雑誌連載、あるいは週に一度のテレビ番組で、次号、次回を待ち遠しい思いで読む・観るに限る。それから、女気がないのもやや物足りない。「スリーA」こと、現職刑事の奥さんの美恵さんが会話に加わるとか、時には美恵さんが義父を相手に一本とるとか、ひねりが欲しいところ。(これは、読者の身勝手な無いものねだりですね。)
リガの犬たち
【創元推理文庫】
ヘニング・マンケル
定価 1,071円(税込)
2003/4
ISBN-4488209033
評価:B
後を引く印象的な雰囲気と、ちょっと捨てがたい味わいを湛えたスウェーデン警察小説の佳品。惜しいと思うのは、主人公クルト・ヴァランダー警部と、鳥類学者かマジシャンになりたかったリトアニアのカルリス・リエパ中佐(ミステリアスな憂愁をたたえていて魅力的)が、つかの間の出会いにもかかわらず深く心を通わせあうに至った経緯がやや説明不足であることと、未亡人バイバ・リエパ(弱さと毅然を兼ね備えていて切なく魅力的)とクルト・ヴァランダーのラブ・アフェアをめぐる顛末がちょっと淡泊すぎて食い足りないきらいがあること。そもそも、主人公がリトアニアの政情に巻きこまれ深入りしていく経緯が、心理的にもストーリー的にもかなり唐突で説得力に欠ける点が致命的。(だから、意外な真犯人が判明するクライマックスの盛り上がりに不満が残る。)このあたりのことをじっくりと書き込んでいれば、紛れもない傑作ミステリーの水準に達したと思うだけに、惜しい。
ボーン・コレクター
【文春文庫】
ジェフリー・ディーヴァー
定価 (各)700円(税込)
2003/5
ISBN-4167661349
ISBN-4167661357
評価:AA
デンゼル・ワシントン主演の映画を観ているから、プロットや真犯人は(多少の脚色=変形加工はされているものの)おおよそ頭に入っている。それでも、いや、それだからこそかもしれないけれど(というのも、傑作ミステリーは二度楽しめるから──最初はウブな処女のごとく作者の術中にはまり、再読ではすべてを知り尽くした経験者としてその手練を味わう)、この「ジェットコースター・サスペンス」は本当に面白いですね。アームチェア・ディティクティヴならぬ寝たきり探偵のリンカーン・ライムと、美貌の巡査アメリア・サックスとの交情が丹念に書きこんであるのがなにより嬉しい。かの『青い虚空』にもすっかりハマってしまったけれど、この『ボーン・コレクター』はそれ以上の作品で、たぶんジェフリー・ディーヴァーの代表作になるに違いない。強いて難点、というか読者として不満に思う点をあげつらうならば、巧みに書き分けられる真犯人の分裂したキャラクターがなかなかぴったりと一つに結像しないこと。これがクライマックスで突然姿を現わすボーン・コレクターに迫真の不気味さ、怖さをもたらさない所以だと思うが、これはそう大した疵ではない。──読み終えて、レンタル・ビデオ屋へ走った。映画で楽しみ、原作で楽しみ、再度映画で楽しむ。この贅沢な味わい方は、アイラ・レヴィンの『死の接吻』以来のこと。ちょっと古いか。
東京サッカーパンチ
【扶桑社ミステリー】
アイザック・アダムスン
本体 9147円
2003/4
ISBN-4594039413
評価:D
この世界にどっぷりハマってしまうと、それはそれでけっこう面白がることができるのでしょうが、でも、とにかくムチャクチャな話ですね。何がムチャクチャかというと、何百年も年をとらない謎の「芸者」をめぐるカルト教団や暴力団が入り乱れてのガール・チェイス・ストーリーという、その話の本筋が荒唐無稽なのはまあいいとして、雑誌『アジアの若者』の記者にしてスーパー・ヒーロー、ビリー・チャカのデタラメな人物設定といい、登場する日本人の名前のいい加減さ(佐藤実玖勝? 奈比古武乱人? 神道裕人? 魁団?)といい、それから訳者も解説で指摘しているけれど、そもそも渋谷の街に芸者は似合わない、その似合わない芸者の名前が蜜柑花ときては、なんじゃそれ。私にはこのテの作品を楽しむユーモア感覚がない。でも、それはきっと「ユーモア感覚」とは違っていて、もっとパワフルで諸感覚がごった煮されたもの、たぶん歌舞伎の世界につながっていくものに違いない。この小説を読んで心から笑える人は、決して「クスクス」や「ガハハハ」や「クックッ」や「ニヤニヤ」ではなくて、絶対に誰もそんな声をあげて笑わない「ゲラゲラ」とか「カラカラ」といったフキダシつきの笑いを笑うのでしょう。
贖いの地
【新潮文庫】
ガブリエル・コーエン
定価 740円(税込)
2003/5
ISBN-4102002111
評価:A
これはレッド・フックという、寂れた土地の記憶にまつわる物語だ。息子に「負け犬」と呼ばれたひとりの中年男の孤独と新生の物語だ。人が無惨に殺され、憎むべき真犯人がいて、そこには様々なヒューマン・ファクターが介在している。この結構だけをとりあげてみれば、典型的なミステリーそのものなのだが、この作品はけっして犯人探しがテーマなのではない。そこに興味の焦点をあてて読み急ぐと、読者は肩すかしを食うだろう。見捨てられた街のみすぼらしいたたずまいと、自分を見失い寂寥の淵に喘ぐ男の凍りついた魂。この二つの闇が交錯し、鈍い光の射しこむ方へ向かって真実への扉がおずおずと開く時、救済への、そして赦しへの律動が高まっていく。乾いた叙情感の漂う文体で綴られた逸品。