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勝手に目利き
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大場 利子の<<書評>>


コンタクト・ゾーン
コンタクト・ゾーン
【毎日新聞社】
篠田節子
定価 1,995円(税込)
2003/4
ISBN-4620106690
評価:C
 勇敢だ。でも、見習いたくない。
 戦争やSARSが渡航先で起こっていなくても、海外旅行を敬遠する人が多い中、彼女達は向かう。経済危機、政治危機、治安悪化の揃った小さな国へ、ブランドものが安く買えるから、客が少ないリゾート地は快適だからと、向かう。勇気がある。政治情勢がいよいよ不穏となり空港が閉鎖され殺されそうになって、舟で脱出して無人島サバイバル。勇敢と言わずしてなんと言う。
 無知であっても中途半端であっても、勇気と行動力と柔軟さがあれば、巻き込まれ型サバイバルも大丈夫。人間関係ジャングルでも生き延びる。007やチャーリーズエンジェルのように、困難の中にも笑みを!は、成功していないが。
 ●この本のつまずき→言葉の壁を難無く越えている。言葉なしでは、この物語は成立しない。英語くらい話せないといけないということか。

アンクルトムズ・ケビンの幽霊
アンクルトムズ・ケビンの幽霊
【角川書店】
池永陽
定価 1,365円(税込)
2003/5
ISBN-4048734725
評価:C
 物語の終盤。「恋人でもなく、夫婦でもなく、友達でもない男と女のセックス……」となり、やはりと思った。お前もか、と思った。わざわざさせなくてもいいだろうに。わざわざ体でつなげなくてもいいのに。
 マンガン鉱山で育つ主人公章之の初恋の相手、スーイン。鋳物工場でいっしょに働くタイからの出稼ぎ青年。章之より稼ぎのいい妻。演劇を始めた息子。彼らを章之は見守るばかり。歯がゆい。
●この本のつまずき→東京入国管理局のトイレにあるつらい落書きのエピソード。本当か。

愛さずにはいられない
愛さずにはいられない
【集英社 】
藤田宜永
定価 2,100円(税込)
2003/5
ISBN-4087746453
評価:C
 あなたは作家のルーツ、人となりや私生活を知りたいと思いますか。私は知りたい。
 「赤裸々、どこまでも赤裸々。」と赤い字で打たれた気迫を感じさせる惹句には、そんなお気楽でミーハーな気分だけでは、太刀打ちできない。
 「金はいくらあってもいい。素直に受け取った。だが、金をもらうたびに、しめしめと思いながらも、金の他には、大事なものは何ひとつくれない家族だな、と暗澹たる気持ちになる。」どんなにセックスに溺れようが、女性を愛そうが、私にとってこれがこの物語のすべてとなった。
●この本のつまずき→福井名物と描かれるヨーロッパ軒のソースカツ丼。食べたい。

ボロボロになった人へ
ボロボロになった人へ
【幻冬舎】
リリー・フランキー
定価 1,470円(税込)
2003/4
ISBN-4344003314
評価:B
 リリー・フランキーに小説を!感謝します。とりあえず、幻冬舎の方に。
 六篇の短篇が収録されている。最初の「大麻農家の花嫁」、その次の「死刑」、その次の「ねぎぼうず」は素晴らしい。価値観を揺さぶられる。大袈裟でなく、ふと立ち止まって考え込まされる。でもすぐ忘れさせてくれるけど。だから、字が大きいのは仕方ない。
 ●この本のつまずき→帯裏に「なにかに、つまずいている人の方が、魅力的だと思う。リリー・フランキー」ありがとう。いつも、つまずいていて、良かった。

非国民
非国民
【幻冬舎】
森巣博
定価 1,890円(税込)
2003/4
ISBN-4344003306
評価:B
 この国から逃げたくなりました。今まで、警察官の制服姿が好きで、贔屓にしてきましたが、そういうのは止めました。知らないことを知るということが、こんなにこわいこととは思いませんでした。出来れば知らないままですませたかったです。特に、野方警察署。前を通った時、この非国民めーと叫びました、口の中で。
 警察官に詳しくなりました。「どんな高級クラブでしたたかに飲み喰いしても、しっかりと、きっちりと三千百五十円を支払う」警察官。「パチンコ店聞き込み」と称して、出る台の前に座り続ける警察官。
 バカラにも詳しくなりました。と言いたいところだが、あれだけ詳しく説明されてもよく分からない。ギャンブルの才能皆無だ。
 ●この本のつまずき→「大学に上がるか、自衛隊に入るか、警察官に成るのか、それともヤクザをやるか」の四つの道しかない世田ヶ谷のKO義塾付属高校とは?

PAY DAY!!!
PAY DAY!!!
【新潮社】
山田詠美
定価 1,575円(税込)
2003/3
ISBN-4103668091
評価:A
 やっぱり、好きだー、山田詠美。
 「PAY DAY!!!」好きだーと叫ぶより、山田詠美好きだーと叫びたくなる。不思議だ。
 ハーモニーとロビンは双子の16才の兄妹。アフリカ系アメリカ人の父を持ち、イタリア系アメリカ人の母を持つ。舞台は、ニューヨーク・マンハッタンとサウスキャロライナ。またなんで、舞台は日本じゃないのか、日本人が主人公じゃないのかと言いたくなったけれど、そんなこと、重要じゃない。
 改めて、学ぶことの多さに、自分が学んでこなかったことの多さに、愕然とする。「生きる技術の習得のために貪欲に健気であろうとしている」ロビンの足下にも及ばない。恥ずかしい。ことあるごとに読み返すことになると思う。
 ●この本のつまずき→「それは、はり裂けんばかりの心に凪を呼び寄せるということ」この言葉、忘れられない。

ぼくらはみんな閉じている
ぼくらはみんな閉じている
【新潮社】
小川勝己
定価 1,575円(税込)
2003/5
ISBN-4106026562
評価:B
 早いとこ死んでくれないかなと父のことを思う女に、シャブ中の女。12才の男子中学生に心奪われる46才の女。少年と浮気する女。多種多彩な女が、9つの短篇に揃い踏み。
 自分にはありえない、とは言い切れない物語を連発。「自分の観念の世界でしかないものを、現実だと思って生きている。それを他人も共有していると信じて疑っていない。現実のかたちは人の数だけある。」ほんとうの自分なんて、いない。とんでもない、いやだ、と叫んでも、もう遅い。
●この本のつまずき→惹句。「手のひらを太陽に」の替え歌か。声に出して唄ってみる。

ピエールとクロエ
ピエールとクロエ
【新潮社】
アンナ・ガヴァルダ
定価 1,365円(税込)
2003/4
ISBN-4105409026
評価:A
 パルコ劇場で300回記念公演を迎えるリーディング・ドラマ「ラブ・レターズ」に対抗できる。
 夫に去られたクロエと、その夫の父ピエール。二人の会話がほとんどの物語。
 ピエールの言葉は読み手の私へ向けられ、クロエの嘆きは夫に去られることはまだあり得ない私の嘆きと重なる。
 ピエールは言った。「いつも成り行きに任せたんだ。そうして、そうしなければならなかったんだと自分を慰めた。自分はそういう受け身の人間なんだとかみしめつつ。僕は実現不可能なことを夢見るか、あるいは後悔する生き方が好きだったんだ。その方がずっと簡単だから。」図星。言い訳はすまい。
●この本のつまずき→「もやい綱を解かれて」は「捨てられて」、「胃に結び目ができる」は「不安で胃が痛くなる」を表すそうだ。フランス語も素晴らしい。

ストーリーを続けよう
ストーリーを続けよう
【みすず書房 】
ジョン・バース
定価 3,045円(税込)
2003/4
ISBN-4622070308
評価:B
 題名の通り、続けてみるつもりで読み始める。ストーリーを続けようにも、読み進めることがまず出来ず、読み終えてもストーリーを続けるどころの騒ぎではなかった。意味がまるで分からないのである。雰囲気やなんというか物語の強弱のようなものは分かっても、ストーリーを続けていけるほど分かってはいない。だからと言って、おもしろくないわけではない。おもしろい。興味津々だ。ただ、私には、たくさんの試練があり、忍耐が必要だっただけだ。
●この本のつまずき→何と言っても、玖保キリコの装丁・装画。

HOOT
HOOT
【理論社】
カール・ハイアセン
定価 1,449円(税込)
2003/4
ISBN-4652077270
評価:B
 「カウボーイの故郷、モンタナから来ました」と自己紹介してしまったばかりに、「カウガール」なんて呼ばれるようになったロイは、中学の転校生。スクールバスのガラスのむこうに、裸足で走る不思議な少年に気付いて、追いかけるが……。
 ほとんどの漢字にふりがなが。親切だ。幼い頃に、この物語に出会えば、本を読む喜びを発見出来るかもしれない。ロイみたいに勇気があって優しくて賢い子供になろうと努めるかもしれない。学校一の乱暴者ダナをやり込める場面は、特に学校生活に役立ちそうだ。やっぱり、そうでなきゃ。と思う反面、ロイのような姿勢を自分に求められたらイヤだろう。大人は何も分かっていないと思うだろう。
●この本のつまずき→『全米書店員が選んだ「いちばんお気に入りの本」』だそう。「いちばん笑った本」「いちばん怒った本」とかありますか。