評価:★★★★★
表紙まで魅せられる。「北村薫」だけで「静かなワクワク」を感じてしまう私だが、おなじみネコ付きイラストもなかなかだ。初めは単に館と缶のシャレだと思ったが、「ミステリー館の愉しみ」を読んで、さらなるおもしろさに気付く。正に「(ミステリー)館 can
can 館」Can can can can.(カンは館をカンづめにできる)で、最初の最初から深く楽しめる。で、肝心の内容はというと、そのへんではやたらにお目にかかれない古今東西の短編の盛り合わせである。一番長い奥光泉の「滝」も一番短い、たった6行の「本が怒った話」も印象深い。笑えたという意味でおもしろかったのは「少量法律助言者」。要は一寸法師のことだが、文節の変換ミスも含めて翻訳機にかけた話が変身してしまうという新鮮で不思議な世界を見た。塚本邦雄や高橋克彦の作品もよかったし、ミステリーファンでなくとも様々な味を堪能できる盛りだくさんの作品集である。
評価:★★★★
No second chance. ー誘拐犯が身代金要求の電話で使う脅迫の言葉だ。妻を殺され、生後6ヶ月の娘を誘拐され、自らも瀕死の重傷を負ったマークは、警察の疑いが自分にも向けられる中、娘を取りもどすため必死の行動に出る。しかし、失敗。そして一年半後、再び身代金要求の電話が来る。今度は元FBI捜査官で恋人だったレイチェルという強力な助っ人を得て、警察の目をごまかしながら犯人を追い、手がかりをつかんでゆく。そして……
ほとんどは娘が生きているという一縷の望みを託しての追跡劇だ。この手の小説を多く読み、勘のよい読者なら真犯人の姿がまさかと思いつつも予測できる。しかし、娘の生死、つじつまの合わない疑問の真相は?と最後までひっぱる。読みやすさと程ほどのおもしろさの中で夫婦や家族関係の問題が一つ重いテーマとして流れている。難をつければ、マークの個性が乏しく、強い魅力がないのが物足りない。