WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2007年11月のランキング>横山直子の書評
評価:
タイトルにドキリとする。明日はない?ないっってどういうこと?
リストラ話なのだ。主人公はちょっとイケメンの33歳、真介。
彼がリストラ請負人で、一日数人のノルマをこなす。仕事ぶりは、見た目そのままのスマート&ストレート。
リストラ対象者との面接では、相手の出かたをしっかりと見極めて話を進める。
感情的に迫られようがどうしようが、理路整然と説得し、自己都合退職への誘導をする。
「やなもんだ。」とため息をつくものの、なぜかこの仕事に愛着を感じているのだ。
そんな彼が面接を担当した八歳年上の女性に好意を持つ。彼女は自分の仕事に誇りを持っている建材メーカーの課長代理だった。
この出会いからストーリーが断然面白くなってくる。
面接で奇しくも旧友に出会ってしまった時の彼の態度にはジンときた。
彼が北海道出身で、懐かしく故郷を思い出す時、あの日があるから今日の彼があるんだなぁとしみじみ思う。
いろんな出来事に直面しても持ち前のバイタリティーで日々をかっ飛ばしていく彼の姿が実に好感度が高く、読後の爽快感がなんとも言えない。
評価:
警視庁捜査一課強行犯係の樋口刑事、その一人娘が友達と泊りがけでスキーに出かけた。
その三泊四日の間に起こり、そして解決した一つの誘拐事件。
なんと樋口の妻が誘拐されたのだ。そして彼が自らその犯人を捕まえた。
「私は刑事だ。だから、必ず妻を見つけることができる。」と夫。
そして妻は「自分が行方不明になれば、夫が必ず手を打ってくれる。」とひたすら救出を願う。
しかしながら樋口は妻の日常生活についてあまりにも知らないことに気づき愕然とする。
いつもは冷静な判断のできる刑事である樋口も、やはり妻の誘拐事件となれば話は別。
一緒に捜査する仲間から「なりふり構っちゃいない」とか「仮面も化粧もかなぐり捨てた人間の強さを感じる」と言われる。
そうでなくっちゃねと読みながら思わず思う。
誘拐犯人は意外な人物で、その接近方法にハラハラさせられた。
無事犯人逮捕し、妻も救出後、何も知らずにスキー旅行から帰ってきた娘と久しぶりに家族団らんのシーン。
「何事もなく家にいられるのは幸せだな」樋口の言葉がしみじみ沁みる。
評価:
銀座にこことルビがふってある。
ここ銀座にガス灯設置の工事が始まった頃、明治初期の話だ。
主人公は久保田宗八郎、三十歳。
「一生のうちで自分がどの季節にいるのか、人はおのずと知らなくてはいけない」
この若さでもはや自分には出番がないと決め込んでいる。
それには、目立たぬよう息を潜めた暮らしを余儀なくされる過去の出来事があったのだ。
とはいえ、兄に乞われて銀座の一角で住むこととなる。
彼は「人間いざというとき捨て身になれば、思わぬ力が出る」のを知っており、さらにそうでなければ、人としてのほこりが保てないと思っている。
「身を捨てる勇気なくして、新たな世は生みだせぬと、維新の修羅場を垣間見た男は信じる。」
宗八郎、その発言といい、正義感あふれる行動といい、その男っぷりの良さといい、文句なくかっこいのだ。
あまりの理不尽さに立ち上がり、最後には兄に遺書まで書いて、ハラハラさせられホロリとくるが、
そこは読んでからのお楽しみ。
新しい時代の到来を肌で感じる一冊。
評価:
「ホームステイだと思えばいいのです。」
「せいぜい数十年の人生です。」
プラプラという名の天使がそうささやいた。
主人公が死んだはずのぼくの魂。ひょんなことから自殺した少年の身体に宿ることとなり、いきなり中三の受験生の日々が始まる。
現世のガイド役は天使のプラプラ。
知れば知るほど少年の複雑な家庭環境がわかり、最初は投げやりの日々を送っていたものの、ここは一つ懸命に生きてみようと思い直す。
そのきっかけは「人間ってのは良くも悪くもたいしたもんだ」という少年の父の言葉であったり、少年にありったけの気持ちで対応する母の姿であったり、クラスメイトとのなにげない会話からであったり…。
「みんなそうだよ。いろんな絵の具を持っているんだ。きれいな色も、汚い色も」
生きることに悩んでいる女友達に少年がそう語る。
大きな壁を乗り越えた彼がまぶしいくらい輝いている。
つらい涙ばかりじゃないよ、しみじみ心が動いたときの涙があるよ。
ぜひ中学生に読んで欲しいなぁと、読後に強く思った。
評価:
とにかく熱い。
心の奥底から湧き上がるような高野さんの熱い気持ちがひしひしと伝わった。
前作「アヘン王国潜入記」ではミャンマーの奥地でゲリラと七ヶ月ケシ栽培をした彼、今回はインドへ、怪魚ウモッカを探しに行くのである。
まずは事前調査から始まり、ウモッカつながりの人に会い、現地の言葉を習い、旅の準備をこつこつ続ける高野さん。
そんな彼の前にこれでもかというくらい困難の嵐が吹き荒れます。
そうそう旅のパートナーは昔の仲間であるキタさんです。
「あ〜じゃあ、いいよ」とあっさり同行の承諾をしてくれた彼。
実に魅力的な存在なのですが、今回の旅においてはものすごく重要な役どころなんです。
最後の最後まで彼の行動には目が離せません。
で、高野さんとキタさんの旅はどうだったか〜って? わくわくあり、ハラハラあり、しみじみあり。
これはもう読んでいただくしかないですなぁ。
「ほんとうに人生はわからない」という高野さんの言葉、「本気の人間のすごさっていうのを久しぶりに感じたよ。」というキタさんの言葉、そのままを私はこの本から感じ取りました。
★を10個差し上げたいくらいです。
評価:
オブラートに包まれることなく、語られている。
まえがきに『ここに集めた「童貞小説」そのものずばり、童貞を描いた小説である』とあり、続いて「童貞であることは、往々にして苦悩の形をとる。」とあった。
九つの小説が集められていたのだが、その中でも一番私の心を捉えて離さなかったのは武者小路実篤の「お目出たき人」だった。
まずはタイトルが秀逸。まさに主人公の青年は正真正銘、誰がなんと言おうとお目出たき人なのだ。
それも悲しいくらい。
26歳の青年が主人公。鶴という名前の近所に住んでいた美しく、やさしく、その上可憐な女性にひたすら片思いをしている。
彼女を妻に迎えるために、まず自分の両親を説得し、次に間に人をたてて彼女の家に出向いて求婚する手はずを整えた。
しかしあまり色よい返事をもらうことができなかった。
それでも彼は日々彼女への想いに胸を焦がし、「彼女の心が見たい」と切に思う。
そして想像に想像を重ね、もはや自分と彼女が夫婦になることを確信するほどになる。
しかし、現実はまた別の話であって…。
青年の一途な気持ちに圧倒されて、読了。
その続きが読みたいものだ、例えば、彼の40年後。
評価:
つくづく宿命の恐ろしさに打ちのめされる。
「わたしは自分が何をやっているかわかっているんだから」
「父さんと同じだとは思わないで」
姉のダイアナはそう言うが、弟のシアーズから見ると、どう考えても姉は正気ではなかった。
晩年の父は精神をわずらい病院に入院していたが、姉はそんな父を引き取り懸命に世話をしていた。
その甲斐もなく、父は死亡。
その後、姉は結婚し息子が誕生するものの、幼くして息子は亡くなってしまう。
それからの姉は父の跡をたどるように壊れはじめ…。
ダイアナとシアーズの姉弟は厳格な父のもとで育てられた。母は二人の子どもを捨てて不在だった。
息の詰まるような子ども時代、姉だけを可愛がる父。
そうとしか生きられなかった子ども時代の二人に想いを寄せると、あまりにも切ない。
自分の娘に恐怖の手が忍び寄るのを見て、行動を起こすシアーズの心の奥を考えると、あまりにも痛ましい。
「あなたは世界一の弟だわ」いつか言っていたダイアナのこの言葉に嘘はないはずだけれども。
評価:
「恋する人間はみんな頭がいかれているし、心は吟遊詩人です」
17歳の少年・トリストランは堂々と言った。
その純真さがなんともまぶしい。
なんとこの彼、大好きな片思いの少女から「流れ星を拾ってきてくれない?」と言われて、その気になり、流れ星を見つける旅に出かけてしまうのだ。
出かけた先は妖精の世界、そして彼を待ち受けるのは相続争いをする七人の王子やちびもじゃ男、不気味な魔女…。
冒険に次ぐ冒険の末、少年の捜し求めていた流れ星を見つけるものの、その星の正体はなんと…、とうてい予想すらできないかわいらしい存在であった。
「自分がここまで旅を進めてこれたのは、さしのべられた手に助けられてきたからだ」と旅の途中で気づくトリストラン。読みながら、彼の株が一気に上がる。
少年は旅をしながら着実に大人へと成長していくのだ。
映画化され、その写真が表紙を飾っている。
スケールの大きな冒険ファンタジーだから、期待も大きい。
評価:
「人生を無駄にした?この町のヒーローなのに?こんなに他人のために尽くしてきたのに?」
50歳過ぎた男の悲哀の叫びが胸に迫る。
心理療法士ボブ・ウェルズ、彼は実直な人柄と仕事ぶりはそこそこ認められるものの、私生活では妻に逃げられ、生活レベルもきわめて低かった。
そんな彼の前に現れたジェシー。
彼女との夢のある将来のためにと、彼は一大決心の末、犯罪に手を染める。
そんな最中、彼はひょんなことからこれまでの善行が認められて、一躍ヒーロー扱いを受けるようになる。
あれよあれよという間に有名人になる一方、犯罪の付けが回ってきて、窮地に追い詰められる…。
まさに天国と地獄、ふり幅の激しいことこの上なく。
一気に読まずにはいられなくなる。
犯罪に身を染めながらも「誰かを助けられるときに、見て見ぬふりをしたら、それは罪悪だ」という父の言葉、「魂を失うくらいなら、死んだほうがましよ」という母の言葉を思い出す時おりボブ。
ただただ、せつないなぁ〜。
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