『朱夏 警視庁強行犯係』

朱夏 警視庁強行犯係
  • 今野敏 (著)
  • 新潮文庫
  • 税込580円
  • 2007年10月
  • ISBN-9784101321523
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  1. 君たちに明日はない
  2. 朱夏 警視庁強行犯係
  3. 銀座開化おもかげ草紙
  4. カラフル
  5. 怪魚ウモッカ格闘記
  6. 童貞小説集
  7. 終決者たち(上・下)
  8. 石のささやき
  9. スターダスト
  10. 四つの雨
荒又望

評価:星3つ

 警視庁捜査一課の刑事、樋口顕の妻が誘拐された。日頃は家庭を顧みる余裕もない樋口だが、自分の手で妻を救い出すため、所轄勤務の友人とともに極秘の捜査を始める。
 刑事としての顔の陰から、夫としての顔、そして父親としての顔が隠そうとしても隠しきれずに見えてしまう樋口の人間くささが非常に好ましい。気丈な妻・恵子と心の底ではちゃんと信頼しあっている様子も、安心して読める。犯人は誰で動機は何かを追っていくミステリーでもあり、組織内での対立や警察官の心情を描いた警察モノでもあるけれど、いっぷう変わった家族小説として読むのも良いのでは。
 現代の若者像と、それを生み出した大人像を題材とする世相小説でもある。その描き方はやや悲観的に過ぎる気もするけれど、風情のあるタイトルに込められた意味を知れば、まだまだ前向きな気持ちが湧いてくる。青春時代はとうの昔に過ぎてしまったと遠い目をしている皆さんに、特におすすめ。

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鈴木直枝

評価:星2つ

 こんなにもドキドキしない警察小説は初めてかも。物語半ばで犯人がわかってしまうガッカリ。ならば、警察署内のグレイゾーンを深く抉るかと思えば、地域課の交番に鍵があったりするガッカリ。それでも何かあるだろうと読みのポイントを手繰り寄せた結果が家族小説?というガッカリ。
 仕事仕事の父親、家事とのバランスをとりながら、翻訳という在宅ワークに家庭以外の居場所を見つけた母親、大学受験生目前の娘と。何となくうまくいっているようでいて、お互いが今日何をして何処に行って誰と仕事をしたかも知らない。興味ない。関係ないし…。思い当たる節があるだろう家族が舞台であり、忙しさにかまけたお互いの無関心さの指摘がある。父親が警察署の刑事で、事もあろうに母親が誘拐されるという非常時はあくまで設定のひとつにすぎない。非常時の設定は違っても、「次は貴方の番よ」という警告にも聞こえる。
 蛇足のようになってしまったが、犯人となる人間の感情の揺れも他人事ではないだろう。スリルこそないが、犯罪の背景にある心理は、私達の日常の延長にあることを考えさせられた。

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松岡恒太郎

評価:星4つ

 いつものように家に着くと灯りが消えていて、出迎えてくれるはずの妻の姿が見えない。この展開はびびる、キュっと胆が縮む。
今朝の嫁さん機嫌悪かったか?いやいやいつもと変わりなかった。羽をのばしに何処かへ行ったのか?はたまた実家?それなら連絡くらい入れるよな。まさか浮気?ないないウチの奴にかぎって!じゃあ交通事故か?それとも誘拐?あるいは捨てられた?いらぬ考えが頭をよぎる。
 ベテラン刑事の妻がある日忽然と姿を消す。事件性があるのか確信が持てないまま、届を出さず内密に捜査を開始する夫である刑事。謎の犯人に身柄を拘束された妻とそれを追う夫、二人の視点から物語は交互に進められてゆく。
 ストーリーは比較的単純で、展開も読めるのだが、それを補って余りある緊迫感。犯人の発する狂気が、ジリジリとこちら側に伝わってまいります。
派手さはないがその分だけ、じわりじわりと確実に効いてくる、じっとりと手に汗握る珠玉の警察小説。

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三浦英崇

評価:星4つ

 三十代の男性の半分が結婚していない現在の日本において、俺なんぞが結婚できる訳がないと思うのですが、それでも、この小説の主人公・樋口の妻の恵子さんみたいなパートナーがいたら、いざという時に心強いよなあ、と、つくづく思う訳です。ま、旦那の職業が強行犯係の刑事だったりすると、しっかりしてないとやっていけないのかもしれませんが。

 この作品は、そんな妻の存在の大きさを、改めて認識する男の話です。失ってみて初めて分かる大切さ、ってのは確かにあって、家族なんてのはその最たるものですよね。そりゃ、子供も大きくなって日常会話も事務的なものになりがちで、愛なんてものはとうに冷めちゃってるかもしれないけど、でもそれは、当たり前のようにあるから貴重さに気付けなくなるだけで、ほんとは、何をおいても最優先すべきものだ、ってことです。

 今野作品は、男がかっこよくあるためにはどうすべきか、を学ぶための最良の教科書です。

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横山直子

評価:星5つ

 警視庁捜査一課強行犯係の樋口刑事、その一人娘が友達と泊りがけでスキーに出かけた。
その三泊四日の間に起こり、そして解決した一つの誘拐事件。
なんと樋口の妻が誘拐されたのだ。そして彼が自らその犯人を捕まえた。
「私は刑事だ。だから、必ず妻を見つけることができる。」と夫。
そして妻は「自分が行方不明になれば、夫が必ず手を打ってくれる。」とひたすら救出を願う。
しかしながら樋口は妻の日常生活についてあまりにも知らないことに気づき愕然とする。
 いつもは冷静な判断のできる刑事である樋口も、やはり妻の誘拐事件となれば話は別。
一緒に捜査する仲間から「なりふり構っちゃいない」とか「仮面も化粧もかなぐり捨てた人間の強さを感じる」と言われる。
そうでなくっちゃねと読みながら思わず思う。
誘拐犯人は意外な人物で、その接近方法にハラハラさせられた。

無事犯人逮捕し、妻も救出後、何も知らずにスキー旅行から帰ってきた娘と久しぶりに家族団らんのシーン。
「何事もなく家にいられるのは幸せだな」樋口の言葉がしみじみ沁みる。

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