『山魔の如き嗤うもの』

山魔の如き嗤うもの
  • 三津田信三 (著)
  • 原書房
  • 税込1,995円
  • 2008年4月
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  1. 聖域
  2. 乾杯屋
  3. 風花
  4. 山魔の如き嗤うもの
  5. 享保のロンリー・エレファント
  6. 壁抜け男の謎
  7. 変愛小説集
佐々木克雄

評価:星3つ

 これはもう、王道じゃないですか。閉ざされた山村で、金鉱をめぐって一族が確執、でもってひとりまたひとりと殺されていく……これにモジャモジャ頭をかきむしりながら探偵さんが登場すれば、誰が見てもアレですよ。でも刀城言耶シリーズってのは想像以上にダイナミックなんですね。兄一家が閉ざされた空間で姿を消すてな本格ネタは「オオッ」てな感じ。あとは弟一家らが殺されていくトリックと動機に興味津々となり、ページを捲る指がとまらなくなるのですよ。でもって、ドンデンガラガラ(!)ですもん。
 好きな人にはたまらないミステリなのでしょう。自分としてはオドロキの展開に引き込まれたものの、読ませる為の殺人ってものに今イチ入りきれないものがありまして。それと、もつれまくった人物図解にヘコタレ気味になっておりましたゆえ、ちょいとツライ読書タイムでした。
「面白く読んでんだから、いーじゃんよ」と言われれば、それまでですけど。

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下久保玉美

評価:星4つ

 三津田信三は『ホラー作家の棲む家』など初期の作品を数冊読んだことはあります。ミステリ要素は強いんだけど、やっぱりホラーの部分が苦手でその後手をつけることができずにいる作家です。が、昨年刊行された『首無の如き祟るもの』が各ミステリベストの上位に入り、これはすごい!とあったので読みました。…、すごいです。首切り殺人事件の謎がパタパタパタ〜と解決するところなんかはミステリ読んだ〜という爽快感を感じます。
 で、そのシリーズの最新刊が本書。今回は人間消失と旧家で起こる連続殺人事件です。旧家といえば横溝正史ですが本書も横溝ばりに旧家の慣わしやら因習やら怨念やら不吉な童歌に絡めた見立てやら仕掛けがてんこ盛り。これらの風俗が事件に一層陰を落とし、暗ーく湿っーぽい印象を与えています。見所はやはり人間消失と連続殺人事件がどうリンクして解決に導いていくかでしょう。この本格ミステリをお楽しみください。

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増住雄大

評価:星4つ

 こういうやつだったのか!
 昭和の日本を舞台に、素人探偵の推理小説家が民間伝承の伝わる地を巡って云々……などと聞いたときには、何とも古めかしい印象を受けました。今どき古風な探偵小説かなあ、なんて。
 全然違った!
 設定は思ったよりこちゃこちゃとしていない。登場人物は多いけれど、混同しないような配慮がしっかり(キャラ立ってる)。会話文はライトで何とも親しみやすい。描写は簡潔でわかりやすくて映像が浮かぶ。そして、シリーズものですが、この話からでもイケる!
 いいっすね! これからもファンがどんどん増えていくであろうシリーズです。ベタ褒めする人がいるの納得。

 蛇足っぽいですが、ミステリパートについて。いつもいつもミステリ小説には、すこーん、と気持ちよく騙される私ですが、今回ばかりは早い段階で大きなからくりに気付きました。そして自ずと犯人の目星もつきましたが、私の推理だと細かい部分の謎が解明できないのと、何より決定的な否定材料が最初の方に一つ。だから、こうだと思うけど違うんだろうなあ、と思っていたら紆余曲折を経て、最後の最後で、あれ? 私が考えていた通りに? でも、それだと……って最後まで読みきって、続けて否定材料だと思っていた部分を読み返したら……ああ、注意深く矛盾が生じないように記述してある。負けました。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 みなさんは髭男爵というコンビのお笑い芸人をご存じだろうか。ここでその魅力を詳細に語るのは紙幅の制約もあるし、本稿の主旨から外れるのでやめておく。が、本書のカバー見返しに印刷されたあまりにも怖ろしげな童歌を読んだにもかかわらず、髭男爵がネタに入る前の「パンを盗んだ少年を優しく許してあーげる」「素敵なマドモアゼルをダンスにさーそう」といった口上を思い出し、恐怖心が一気に和らいだことはぜひとも明記しておきたい。さもなければ、こんなにも怖さを煽るような表紙をもつ本など読み進められたかどうか自信がない(文章だったら多少怖ろしい内容でもなんとか読み進められるのだが、漫画イラストや映像で怖いものはまったくだめ)。
 かねてより本格ミステリー者の間ではえらく評価の高かった三津田信三氏の最新作。なるほど、評判に違わぬ実力とお見受けした。怪現象がきれいに理詰めで説明される快感は、怪奇趣味的な描写(&表紙の怖さ)を乗り越えて読む価値があったと思わされる。できれば最後の最後にオカルト風味を付け加えない方がよかったと思うが、それは読者によって好みの分かれるところであろうか。

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望月香子

評価:星4つ

 洋製ホラーより、和製ホラーのほうが恐ろしい。そんな言葉を思い出す作品です。特に前半の「成人参り」の山中でのシーンは、内臓がざわつくような気味の悪さです。怖い…。その「成人参り」に出かけた郷木家の四男、靖美が遭遇してしまった数々の恐ろしい謎が軸となり、物語は進みます。奇妙な童謡、六地蔵にまつわる言い伝え、忌み山と呼ばれる恐ろしい山、連続殺人、狂気の人となってしまった人物など、恐ろしい種があちらこちらにまかれてあります。この事件に興味をもった作家、刀城言耶が解いてゆく殺人事件の行方が、これまた複雑怪奇。刀城言耶の冷静さが、唯一の救いと思えるほど。
 シリーズ3作目ということなので、未読のあと2作品を読まなきゃです。

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