『変愛小説集』

変愛小説集
  • 岸本 佐知子(著)
  • 講談社
  • 税込1,995円
  • 2008年5月
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  1. 聖域
  2. 乾杯屋
  3. 風花
  4. 山魔の如き嗤うもの
  5. 享保のロンリー・エレファント
  6. 壁抜け男の謎
  7. 変愛小説集
佐々木克雄

評価:星4つ

 ここ最近、注意力が著しく低下している為か、4作目の「まる呑み」を読むまで、本作タイトルを『恋愛(れんあい)小説集』と思いこんでた。で、やっと『変愛(へんあい)小説集』であることに気付く→「……」としばし言葉をなくす→妙に納得する。
「変だ! この小品たちは、すこぶる変だ!」と絶叫する(心の中で)。
 だが、こんなことも考える──ノーマルとアブノーマルの境目は、何処にあるのか、と。人間誰しもアブノーマルな部分を抱えているハズで(特に色恋モードであらば、顕著な奴、ぜったいいる)、小説なる疑似体験ワールドに身を置いた場合、これらのズレまくった「変愛」の数々をどう読んでいけばいい? いや、もはや自分はこの作品の中に……うわあっ! アブナイアブナイ、危うくそっちの世界に行っちまうとこだったゼ。訳も「グー!」だし。
 てな具合に思考回路が痺れてきます。毒として読むか否かは、アナタ次第。

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下久保玉美

評価:星3つ

 「恋愛」ではなくて「変愛」。「変愛」という字を見たときにふと思い出した話から。中学生の頃、まだ歌詞を手書きするという文化があり、あるクラスメートが当時流行っていた歌の歌詞を書いて持って学校にきたんだけど、「恋人」を間違って「変人」って書いちゃったからみんな爆笑。面白いから「変人」のまま歌った。
 本書にも負けず劣らずの「変人」が恋をしたり、恋の対象が人間じゃなかったり、愛の表現がへんちくりんだったり。でも、考えてみれば恋する人はどこか普通と違って変になる。好きな人のそばに寄れば妙にギクシャクしたりはにかんだり、付き合ってるカップルは人前でいちゃいちゃし、恋する人々はどうも周囲が見えていない。そうみんな恋愛するとどこかで変になる。
 本書はもう少しエスカレートした変愛が盛りだくさん。木やバービー人形に恋したり、好きになった相手を丸飲みにしたり。しかし、対象や表現法が変というだけで気持ちは普通の恋愛を変わらない、小説の人物たちから見ればこちらこそ「変愛」に思われるのかも。

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増住雄大

評価:星3つ

 恋愛ではなく、変愛。これは私が小6のとき、旅行委員のHが「修学旅行のしおり」上でやった間違いだな、というのを急に思い出した。ここ10年間くらいは、意識にのぼることが全くなかったのに。それでちょっとだけ楽しげな気分になって読み始めた。ここまでは本書の内容と全く関係のないつかみの部分なので読み飛ばしても大丈夫です。
 現代英米文学のアンソロジー。SF? と言っていいのだろうか、へんてこりんな話が多かったのだけれど、それは嫌な変じゃなくて良い変、おもしろい変であった。一例を挙げるなら「僕らが天王星に着くころ」(天皇制って誤変換に気付かないところだった。危なかった)なんてのは、身体が徐々に宇宙服になって終いには(姉妹って誤変…)宇宙に飛んでっちゃう病気が世界的に流行り始める話で、今あらすじ説明書いててもやっぱり変。でもその変さが嫌じゃないんよ。良いのよ。そんで愛の話なわけだけど、その恋愛的要素も嫌な感じの入り方じゃないわけよ。これはもうこの本を好きになるしかないね。
 訳しているのは一人なんだけど、たくさんの人が書いている感じは確実に伝わってきて、翻訳小説における翻訳者って大事ね。岸本佐知子さんが訳している本は鉄板っぽい。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 昔、私にとって“本を読む”という行為はすなわち“外国文学を読む”ということだった。「あしながおじさん」「飛ぶ教室」「赤毛のアン」…。それがいつの間に変わってしまったのだろうか、ふと気づけば追いかけるのは日本文学の新刊書がほとんど。この「今月の新刊採点」の課題図書にリストアップされているため自動的に読む以外の翻訳書は、めったに手に取らなくなってしまった。
 そんな私をかろうじて外国文学につなぎ止めてくれる最大の功労者が岸本佐知子さんである。正直、その岸本さんの本にしても翻訳ものよりエッセイの方がよりおもしろく感じてしまうのだが、今回はかなりの当たりだったと言っていいだろう。本書の短編はどの作品も岸本さんが自信を持って薦められているものだと思うが、恋人同士の結びつきが描かれていて個人的にいちばん好みだったのは「僕らが天王星に着くころ」、主人公のバービー人形への歪んだ愛情に震撼させられたのが「リアル・ドール」、寓話と現実が奇妙に融合したような物語に不思議な読後感を味わったのが「母たちの島」。

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望月香子

評価:星5つ

 「恋」をテーマにした11の短編集。なのだけど、「普通の恋」とはひと味もふた味も違った変、じゃなかった、恋の物語。
 壁に恋をして、壁と結婚した(法律的には認められていないらしいですが)女性が、最近ニュースになりましたよね。この短編集は、そんな要素が満載です。一本の木を熱愛したり、皮膚がだんだん宇宙服になってしまう病気があったり…。特に度肝を抜かれたのが「まる呑み」。子供を欲しがっている夫婦の妻が、庭の手入れをしにきた男の子を、いきなり…。
 奇想天外な物語を、妙に真っ直ぐな気持ちで読めるのが不思議です。複雑なようで、シンプルに生きてる人たちを見ているようで、どこか羨ましいのかもしれません。

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