WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年9月 >『ハチミツドロップス』 草野たき (著)
評価:
なんとも甘い名前のタイトルは、とある中学のソフトボール部の別名。「試合に出て勝ちたい」だの「ソフトボールの腕を磨きたい」なんて目標を持たず、「ただお気楽にやってられればいいな〜」と思ってる女の子達の集まり。その筆頭が、キャプテンに選ばれたカズこと水上果豆子(かずこ)。BFもいるし、出張中の父と母と妹と平凡に暮らしている。このまま3年生になって、何となく引退という道筋が出来ていたのに、熱心な妹チカがソフトボール部に入部してきたことから、平凡な暮らしが崩れ始める。おや、どこかで読んだようなストーリー。例えば、日常に無自覚だった働く女性が、会社のリストラやら組織改編で、自分を見つめ直す…なんて、平安寿子さんの小説にありそうだ。「自分らしさ」と「本当の自分」の狭間で悩む姿は、古今東西、いつでも、どこでも、同じこと。やせ我慢も意地悪も、悲しみさえも、みんな自分の肥やしにしてゆくオンナノコの逞しさは、こんな頃から培われてゆくんだなぁ。
評価:
恋に部活に家族の悩み。悩み多き中学生の日常をお気楽なソフトボール部、通称ハチミツドロップスのキャプテン、カズの視点から描いた作品。
等身大の自分で良いんだよ〜♪ とか、自分らしく生きるんだ〜♪ みたいな歌詞がよくありますが、誰だって少しくらい演技して生きているんです。それも含めて自分なわけで、自分らしく生きられないからとか、自分のつくったキャラを続けられないからって悩む必要はないんだと思います。自分が生きやすい様に使い分けたら良いんじゃないでしょうか。そんなことを主人公のカズが、色々な経験を通じて理解するまでが描かれている作品と読みました。ハチミツドロップスの個性的なメンバーも面白く、「こんな奴いたなあ」と学生時代を懐かしんで読みました。ただ、青春ド真中過ぎて赤面してしまう場面もあり、私みたいなオッサンが読むには少々辛いところもありました。
評価:
時は新入生歓迎の4月。舞台はソフトボール部。だけど、主役たちは決して真面目に部活動しないソフトボール部員なのだ。自称「ハチミツドロップス」。なんとなく集まれる憩いの場が、カズがキャプテンになる今年は雰囲気が一変してしまう。
リアルな中学生たちだなと思う。ここには公明正大な青春の感動とか、汗臭さとか無縁。でも、恋とか失恋とかはあるからやっぱり青春なのか?私の頃よりは、恋愛事情が大人っぽい気がしましたが、中学生なんてまだ大人には程遠いし、自分の周りのことでせいいっぱいで、友達関係を円滑にすることだけに心血を注ぐころ。学校と家が世界のすべての彼女たちのぬるーい日常に、共感するところは大です。
彼らは自分たちを「ドロップ集団でおいしいところだけ味わってるやつら」とクールに分析していたり、必死で自分らしい演技を繰り返していたりと、妙に大人だけど、本当は傷つきやすい子供たちなのだ。彼女たちに、現実という試練をあたえるのが、真面目にソフトボールをする後輩たちというのがとても面白い。やっぱり最後は、甘酸っぱくてすがすがしいお話しなのでした。
評価:
お気楽でラクチンな居場所を突然失った女子中学生たちが、もがきながらもそれぞれに精神的自立への一歩を踏み出す物語。
ちょっとデフォルメしすぎのような気はするが、中学生の女の子たちそれぞれのキャラクターが面白く書き分けられていて、なかなか楽しめる。ヤングアダルト小説にはあまりなじみがないのだが、少女マンガかコメディータッチの学園ドラマのような明るく楽しい雰囲気は好感が持てるし、さらっと楽しく読める親しみやすい物語だ。ただ、登場人物の会話や行動が全般的に、中学生というよりは高校生のもののような気がして、気になった。中学生って、本当にこんなふうだったっけ? という違和感が最後まで消えなかった。
評価:
うーん、好きだっ!うまいなあ、うまいなあ、と何度もうなりながら読んでしまった。
不真面目でお気楽なソフトボール部のメンバーと、その部長のカズ。練習一筋のバレー部の一年生が、ソフトボール部に揃って入部してきたことから、ソフトボール部(通称ハチミツドロップス)は変化してしまう。ときたら、練習に打ち込み、まじめな部になったのかと思うのだが、そうではない。厳しい一年生の練習についていけず、メンバーは部から離れていってしまう。
ぬるま湯のような居心地のいい空間を失ったカズは、メンバーそれぞれが部から離れて抱えている悩みや問題を見ることになる。それぞれのキャラを守って居心地よく付き合っていくだけでは中学生はやっていけないと気づくのだ。
それぞれの人物の個性や、中学生の生活の描写が、抜群にうまい。私は野球拳(ソフト部の面々が教室で野球拳をしていたらしい)のところで爆笑してしまった。児童文学・ジュブナイルにありがちなステレオタイプの中学生は登場しない。リアルで、読者にこびない。草野たきさん、これからも応援したいなと感じた作家さんだ。
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