『レイコちゃんと蒲鉾工場』

レイコちゃんと蒲鉾工場
  1. カラシニコフ(1・2)
  2. ハチミツドロップス
  3. レイコちゃんと蒲鉾工場
  4. 聖域
  5. マイナス・ゼロ
  6. 虚空の旅人
  7. 黙の部屋
岩崎智子

評価:星4つ

あなたはどうしますか? 上司が、蒲鉾にさらわれたら。そう、あの、食卓でお馴染みの蒲鉾です。想像できますか? 本作に登場する蒲鉾は、暴走したり、あろうことか、人間に化けたりするんです。これがほんとの、食品偽装。いやいや、違うでしょう。それはさておき、物語の中では、蒲鉾は兵器なんです。それも、平和のための兵器。「そんなものあるか!」と、またもや言いたいでしょうが、いちいちつっかかっていると読めません。ま、ここは一つ、そういう世界なんだなぁと思って、読んでみて下さい。不思議なことはそれだけではありませんから。私達の代わりに、それらのフシギなことを体験するのは、蒲鉾工場に勤める「甘酢君=ぼく」と、小学生のレイコちゃん。それなりに、現実社会と似たような所もありながら、ちょっと違う物語世界は、多少の理不尽さも笑い飛ばしていける軽さを持っています。でも、この軽さに心地よく載せられていくと、最後に、ちょっとひんやり。うーん、いかにも夏向きって感じですね。

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佐々木康彦

評価:星4つ

 タイトルから連想される「チャーリーとチョコレート工場」のようなファンタジー系のコメディですが、あれよりはちょっとSFよりです。何せ、本作で登場する蒲鉾っていうのは「蛋白質素材とシリコン基板とを貼り合わせてハイブリッド化したもの」なのですから。蒲鉾で造った人工知能で工場が運営されているといっても過言ではない状況なのです。本作中にも登場しますが、2001年宇宙の旅のHAL9000と本作中での蒲鉾は等価なのですね。と、最新鋭の人工知能と蒲鉾が同じってどんな話やねん、って感じですが、そういう設定を当たり前のものとして行われる蒲鉾工場の従業員のやりとりが笑えます。
 笑いだけではなくて、虚構と現実が入り乱れる後半には何か深いものを感じました。最後のページでの「暗転中の注意事項」なんかは、人生の不遇の時期における注意事項として読んだ。

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島村真理

評価:星3つ

 蒲鉾工場に勤めるぼく。あらすじのこの一文だけで、昭和の牧歌的な風景が一瞬脳裡にうかびますが、冒頭の「管理不行き届きが原因で品質が劣化してしまった蒲鉾に出子山係長がさらわれてから……」というとこで、あっというまにあったかな空想は吹き飛ばされてしまいます。いったいなんなのでしょうこれは。と、まず不可解な気分に襲われます。
 ぼくが勤める「蒲鉾工場」は、私たちが考える普通の場所ではないようです。食べ物を作る場所というよりも、工業機械的な、いや、生物兵器的なものを作る場所で……。だって、蒲鉾が人を食べちゃうのですから。
 タイトルについている「レイコちゃん」のいる喫茶店も不思議な雰囲気。ちょっとノスタルジックな場所で、レイコちゃんの素敵なママがいて、大盛りスパゲッティとかがさりげなくだされる。もちろん、ママ目当ての常連さんがいる。蒲鉾工場の面々と合わせて、奇妙でばかばかしい感じがして、全体的に嫌いな場所ではなさそうです。
 でも、読者はどこへ連れて行かれるのでしょう。滑稽さに笑い転げていたら知らない場所にいたりして。最後に怖くなって泣きべそかくことがなきゃいいのですが。

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福井雅子

評価:星2つ

 これはいったい何なのか? 蒲鉾工場に勤める主人公が、怪物化した蒲鉾に同僚が食べられるなどおかしな事件ばかりに巻き込まれる話なのだが、そもそも物語の設定が奇怪で滑稽で、現実と虚構の区別があいまいなのだ。かといって、ファンタジーと呼ぶにはやけに不気味で、滑稽なのにどこか影がさしているような暗さがつきまとう。
 だいたい、なぜ蒲鉾なのか?「人間だって、ごちゃ混ぜにしてねりもの(蒲鉾)にしちゃえばみんな同じ。生も死も、現実も妄想も、たいした違いはないんだよ……」という暗喩なのだろうか? とにかく「なんだ、なんだ?」と好奇心をくすぐられて、気づいたら最後まで読んでいた。ちょっと変わったSFのような、ファンタジーのような、不思議な味のある作品だ。少なくとも、「おっ、なんだなんだ? で、このあとどうなるの? これって何か深い意味があるの?」と頭の中にクエスチョンマークを点滅させ、その答えを探しながら読む楽しみが存分に味わえることは確かである。

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余湖明日香

評価:星2つ

蒲鉾工場に勤める甘酢君は、ずるがしこくて自分勝手な豚盛係長やませた小学生レイコちゃんに振り回されてばかり。そんな甘酢君が巻き込まれた事件を書いた連作短編集。
みごとに蒲鉾ばかりが関わってくる、寓話のようなコメディのような都市伝説のような、不思議な短編。私が一番気に入ったのは「消化」という一編。避難訓練の危機感をあおるために暴走してしまった危機管理蒲鉾の調査をしに行く甘酢君と豚盛係長。防護服に守られた豚盛係長と、なんとか防護服の恩恵にあずかりたい甘酢君のやり取りが滑稽。そのシュールさに笑いながら読んでいたら、ただ笑っているだけではいられない奇妙さが、蒲鉾の後ろから現れてくる。
記憶の入れ替えをして代替可能な人型蒲鉾、兵器として戦地に派遣される蒲鉾……。蒲鉾はそのまま人間に置き換えられる。スーパーで蒲鉾を見るのがちょっと怖くなってしまうような、不思議な読後感を残す小説だ。

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