『七月のクリスマスカード』

七月のクリスマスカード
  • 伊岡 瞬 (著)
  • 角川グループパブリッシング
  • 税込1,995円
  • 2008年7月
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
  1. 出星前夜
  2. ラジ&ピース
  3. 七月のクリスマスカード
  4. アカペラ
  5. ディスコ探偵水曜日
  6. われらが歌う時
  7. レッド・ボイス
佐々木克雄

評価:星3つ

 ふたつの事件があり、それぞれで苦しんでいる当事者が出会うことで真相が明らかになっていく──その構築がかなり高度な分、読み手は物語の中へグングンと引き込まれていく。ただし、話の導入部分は読むのがツライ。主人公の少女の家庭環境ってば、父親は家庭を捨て、母親はアルコールに溺れ、幼い弟は赤子の末弟を殺めたとの嫌疑があり……ひゃああ、救いのなさってば昼ドラを軽くこえております。ここへ行方不明となった娘を捜す元検事が現れるのだが、ふたつの事件に光は射すのだろうか? 出会ったふたりは救われるのだろうか? このあたりが読み所ではないかと思うわけです。
 すこぶるエキセントリックな脇キャラが登場したり、謎解きが一筋縄でいかないあたり、横溝正史ミステリ大賞を獲った作家さんらしいなあと感じたのですが、タイトルが本筋とはあんまり関係ないと思ったのは、自分だけでしょうか。

▲TOPへ戻る

下久保玉美

評価:星2つ

 本書はそれぞれに心に傷を抱えた少女と元検事が出会い、元検事の死後に少女が傷を抱える原因となった事件を解明していくことで心を癒していく話。サスペンス色が濃厚で、人間や家族の暗部に深く沈着していく過程をじわ〜と描いています。少女の事件や最後の展開には驚く点があったけど、元検事の事件や物語の他の箇所でもそこいいの?とちょっと消化できない点があったのが残念。
 タイトルを見たとき恋愛小説か?と思ったのは、韓国映画の「八月のクリスマスカード」の影響です。あの映画はいいね、ってこの小説には全然関係のない話です、すみません。その次に思ったのは横溝正史ミステリ大賞くささ。ああ、なんかこんな感じこんな感じみたいな。江戸川乱歩賞にも同じことを感じるんですけどね。

▲TOPへ戻る

増住雄大

評価:星3つ

 父は出て行き、母はアル中で入院中という小学六年生の美緒。母の従妹の薫にひきとられ、ひょんなことから、元検事の初老の男と知り合う。彼は数十年前に幼い娘を誘拐され、その事件は未だ解決されていなかった。
 種を蒔かなくとも、不幸は訪れる。美緒自身が原因を作らなくても、嫌なことは美緒を襲い続ける。過酷な環境におかれる美緒はしかし、辛い辛いと嘆き悲しむわけではなく、明るく元気よく立ち向かうでもない。では美緒はどうするのか。そして、その美緒が、(ミステリ的な驚きを含む)結末までに何をどのように考え、どのような変化をとげるのか(あるいは、とげないのか)というあたりが本書の読みどころであるように思った。

 帯や背表紙であらすじを紹介するのは一般的だし、それを見て本を買うかどうかの指針とする人も多いと思う。けれど、私は(特にエンタメ系作品において)あらすじが「詳しく」載っているのが嫌いです。本を読む楽しみが減ってしまう気がする。何が言いたいのかというと、この本の帯の背はあらすじを詳しく載せすぎなのではないでしょうか。
 でも、あらすじを少しは紹介しないことには書評や感想も伝わりづらいと思うので、こういう文章を書くときはあらすじを書かざるをえないところが何とも。

▲TOPへ戻る

松井ゆかり

評価:星4つ

 本書の主人公美緒は、自分の家族たち(ある日突然姿を消した父、酒浸りで入退院を繰り返す母、そして赤ん坊だった下の弟穰を死なせたのではないかという疑いのある上の弟充)によって心を閉ざすようになった少女。投げやりに生きる彼女が出会ったのは、誘拐されたまま戻らない娘瑠璃を待つ初老の元検事丈太郎。瑠璃はいまどこにいるのか、穰を死に至らしめたのはほんとうに充なのか…。
 本書はもちろんミステリーであるが、それほどあっと驚く謎解きがあるわけではない(事件そのものは込み入っているが、犯人はそれほど意外な人物とは思わなかったので)。やはり肝は家族というものの描かれ方だろう。
 家族たちに憎しみのような感情を持ちながら、ぎりぎりのところで彼らを見捨てられない美緒。誘拐事件から何年経っても娘の姿が脳裏を離れることはない丈太郎夫妻。保護されるべき存在だった赤ん坊を手にかけた犯人。愛情も憎悪も、すべては家族というつながりが存在したからこそ起きたことだ。他人ならばこんなにもがき苦しむことはなかったのに。家族というものの不思議さを思う。

▲TOPへ戻る

望月香子

評価:星3つ

 母はアルコール中毒、父は蒸発という家で暮らす小学生の姉の美緒と弟の充。2人の面倒をみてくれる母の従妹の薫に連れられ、美緒と充は元検事の永瀬丈太郎の家へと遊びへ行くようになる。
 前半は点在するように存在していた人物と事件が、物語が進むにつれいっきに絡まってゆき、霧が晴れるように真相が明らかになってゆきます。薫と永瀬の関係、永瀬が遭った悲劇、その悲劇を生んだ者に対しての永瀬の心…。家庭環境を愛せない美緒は、永瀬の心を知りたいと、そこから何かを見つけたいと切望し、答えを見つけようとする姿に緊張の糸はゆるみません。「犠牲者」である美緒、充、永瀬たちと、いとも簡単に他人を地獄へ突き落とす者の構図が見えるようで、堪らない気持ちになります。人が人を憎むことと、赦すことの出発地点は同じではないかと思いました。

▲TOPへ戻る

<< 課題図書一覧>>