『ラジ&ピース』

ラジ&ピース
  • 絲山 秋子 (著)
  • 講談社
  • 税込 1,998円
  • 2008年7月
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  1. 出星前夜
  2. ラジ&ピース
  3. 七月のクリスマスカード
  4. アカペラ
  5. ディスコ探偵水曜日
  6. われらが歌う時
  7. レッド・ボイス
佐々木克雄

評価:星3つ

 筆者の絲山さんとは年代も近く、たぶん同時期に同じ場所でセイシュンを過ごしていたこともあって、彼女の描く世界は「イッツ・オンリー・トーク」や『沖で待つ』など、共感できるものが多かった。ご本人がHPで紹介している日記も楽しいし。
 表題作「ラジ&ピース」は、そんなご本人が実際に暮らすからっ風の町で、さらに隔週で出演しているFM局がモデル。この主人公である女性パーソナリティの野枝さんが……あ、はじめて相容れない感じのキャラだった。マイクの前以外では、頑なに他者を拒絶する態度をとる彼女。それでも飲み屋で知り合った女医と懇意になったり、リスナーと接触したりと矛盾を抱えているわけであり、「なんだかなあ」って気持ちになってくる。
 でも思う。十人いれば十人の考えがあり、主人公が思う通り「みんながその人なりの受けとめかたをしてくれればいい」と。そうなんだよなぁ……って、また共感してるじゃん。

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下久保玉美

評価:星2つ

 今、ラジオの電波がうまく入らないので聞く機会が減ってしまいましたが、学生の頃から20代半ばまではテレビを見るよりもラジオを聞く時間の方が長かったのです。ラジオ局によって洋楽中心の番組構成であったり、最新Jポップ中心であったり。地方のラジオ局では地元の話題が多く、私の実家のAMなんかは方言丸出しです。ラジオのDJたちは顔は見えないけれど、テレビよりもなぜか親近感を感じてしまいます。マスメディアでありながら、1対1のような感覚はどこからくるものでしょうか。声の持つ魅力なのでしょう。
 本書の主人公である女性DJは自分を醜いと思っている女性であり、都市部のラジオ局よりも地方のラジオ局を好み、そこで働いています。彼女にもまた私と同じように彼女に親近感を抱くリスナーが多く存在し、最初そうしたリスナーに疎ましさすら覚えていた彼女はリスナーたちによって変化します。著者はその変化を丁寧に描いています。

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増住雄大

評価:星3つ

 不機嫌。
 読み返してみたら違うだろう。けれど、表題作も併録の「うつくすま ふぐすま」も、主人公が始終不機嫌だった印象。特に表題作の野枝は不機嫌が板についていて、不機嫌が普通の状態だったような。そのせいで損してるなあこの人って感じるのは傲慢……ですね。
 でも言う。
 何つーか、世間の約束事? みたいなものに順応すれば傍から見てもっと幸せな風になれると思うのに。けれど別に本人が求めていないし、期待もしていない(今月の課題図書は、求めない、期待しないタイプの登場人物が多かったな)んだよね。だからいいのか、これで。
 あ、本書は群馬県のFMラジオのお昼の番組を担当する女性DJ野枝の話。東京生まれで、仙台のラジオ局に就職し、群馬のラジオ局に転職する野枝は昔からコンプレックスの塊。いつも不機嫌で、色々なものを放棄している。
 美丈夫の造形に上手さを感じました。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 最近こういう感じの女子の話を読んだな、と記憶をたどってみたら、先々月の課題図書の青山七恵著「やさしいため息」だということに思い至った。友だちとよべる相手がおらず、周囲と気軽にうまくやっていくことのできない主人公。自分に近いのはどちらかというと「やさしい〜」のまどかだという気がするが、読んでおもしろいのは本書の野枝だ。勝ち気でそこはかとなく滑稽なところとか。
 絲山さんの描く女子はなるべく恋愛問題がからまない方が魅力的だ。何故かと考えてみるに、彼女らがこんな相手とでなくてもいいだろうにと思うような男とつきあうことと、その相手の男が私自身の好みのタイプでないことが原因のようだ。「ラジ&ピース」の美丈夫はそれほど不快には思わなかったが(そもそもあれこれ思い浮かべることができるほどの手がかりがない)、長編「袋小路の男」の小田切孝など読了までイライラさせられ通しだった。きっぱり縁を切らなかった理由が、どうにもわからない。
 おそらくそれがリアルなのだろう。どんな風に生きていても恋愛と無縁にはいられないということが。人間とはなんと面倒な生き物か。

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望月香子

評価:星4つ

 午後の2時間番組のラジオDJとして群馬県で喋る野枝。野枝の抱えるコンプレックスや恐ろしいほどそっけない態度のいつもの自分とは、別人のようになめらかに話せるDJとしての時間。
 自分を好きになれない、他人と上手くやれない野枝に、自分の心にある貧しさを見せられているようで、なんだか他人と思えなくなってゆくような…。
 野枝が出逢った人たちとの関わりによって、ひとつの答えをみつける、というか、それは答えと言っていいのか分からないけれど、野枝のその感じ方に惹かれます。
 併録作も、秀逸。たくましい女のこの物語は、抑制されたユーモアが愛しくなってゆきます。物語を読むというよりも、著者の才能を読んでいるような気にまでさせられます。

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