『アカペラ』

アカペラ
  • 山本 文緒 (著)
  • 新潮社
  • 税込1,470円
  • 2008年7月
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  1. 出星前夜
  2. ラジ&ピース
  3. 七月のクリスマスカード
  4. アカペラ
  5. ディスコ探偵水曜日
  6. われらが歌う時
  7. レッド・ボイス
佐々木克雄

評価:星4つ

 お久しぶりです山本さん。でもってこの本、グーです!
 一冊に数篇ある場合、どれか一篇を取り上げて語ることにしているけれど、収められた三篇とも素晴らしく、甲乙つけがたい。
 三篇に共通するのは、家族の再生が様々な視点でゆる〜く、グダグダと綴られていく点。これがですねえ、ボディブローのようにジワジワと効いてくるんですよ。特に、それぞれに仕込まれた変な場面(どの作品にも、主人公を囲んでの話し合いや、鍋パーティなどが催されている)が秀逸で、映画のワンシーンを見ているよう。
 けれど、この三つのお話は、どれも小説として味わうことが最も美味しいのであって、紡ぎ出される言葉のひとつひとつが、見事にすんなりと読み手の中へ染みこんでくるんです。久々に、「ああ、小説っていいなあ」と読了後に呟いてしまいました。

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下久保玉美

評価:星3つ

 著者にとって久々となる中編3篇所収の作品集。『恋愛中毒』『プラナリア』以来だから私にとってもかなり久しぶりです。表題作「アカペラ」は伴奏なしで歌うアカペラのように自分の力で世界を切り開こうとする少女を、「ソリチュード」は高校卒業間際で家出してからずっと女性に頼って生きてきたが父親の死をきっかけに実家に戻る男を、「ネロリ」は体の弱い弟を守りながら生きてきた姉を描いています。
 他の作品をあまり読んでないから断定はできないけど、こう肌にまとわりつくような粘着質なもの、描かれる人間心理が読者の心に残すベトベトしたものが減ったなと感じました。これを軽やかになったととるべきなのかどうなのかわかりませんが著者のまた違う一面が見えたように思います。

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増住雄大

評価:星3つ

 元々、山本文緒の熱心な読者だったわけではない(2冊読んだ程度)私が言うのも恐縮だが、本書収録の3作、前に読んだのより好きです。
「アカペラ」は女子中学生たまこと、その学校の担任教師・蟹江の二人の視点から、たまこと祖父のトモゾウ(あだ名)の関係が描かれる作品。たまことトモゾウよりむしろ、蟹江について注目して読んだ。終盤、たまこの友達が蟹江に言った不意打ちのような台詞が印象に残る。
「ソリチュード」は(自称)駄目な男(38歳・独身)春一が二十年ぶりに帰郷する話。つかみの部分を読んだ時点では、見た目からして駄目なオーラが漂っている男の人を想像したが、実際は相当なイケメンだったので私の頭の中の春一の映像は破壊され、それ以降、始終ぼやぼやしていた。春一の決断を先送りにする感じ、でもたまに適当に決めちゃう感じに共感。そして、春一の友達の武藤がすごくいい。
「ネロリ」は病弱(病院で寝たきり、というレベルまではいかない)で無職の弟・日出男と、その面倒を見続ける姉・志保子と、日出男の恋人(?)ココアの三人を軸に、変わらない日常が変わったときを描く。綺麗すぎる締めにシビれた。収録作の中で一番好きだ。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 山本文緒さんの小説を読むのはこれが初めてで、読書好きからの評価が高い氏の作品ということで期待が大きかった。が。
 確かにうまい作家だということに異論はない。しかしながら、うまいと思う作家と好きな作家はまた違う。自分としては登場人物たちにいまひとつ魅力を感じられないことが決定的な要因だった。かろうじて共感に近い気持ちを持てたのは「ネロリ」の主人公志保子。私にも志保子と同じく弟がひとりいるが、彼女のように一時たりとも迷わず揺るぎない愛情を持ってきたという気がしない。客観的にみれば行き過ぎではあると思うが、お互いに対する無償の姉弟愛に羨望を覚えた。
 いったい登場人物たちのどういう部分に対して気が重くなるのかと考えてみて、彼らの(多くの場合若さゆえの)自己中心的なところだということに思い至った。かつては自分も子どもで周りのことなど見えていなかったのに、歳をとったということか。小説の楽しみと引き替えたのが、微々たるとはいえ成長であるなら致し方ないとしておくか。

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望月香子

評価:星5つ

 進学を考えずにこっそりアルバイトをしながら「じっちゃん」と2人で暮らす中学生のタマコ。親にも同棲中の彼女に対しても、ふがいないどころじゃない対応ばかりの「駄目な男」の俺。病気の弟の面倒を見ながら働き2人で暮らす50歳の私。
 それぞれの立場や状況は違う登場人物たち。多くを望まずに、自分の暮らしに波風の立たないことを大切に暮らす人たちの、3つの物語集です。
 特に「アカペラ」と「ネロリ」が素晴らしい。夢や目的や成長という輝く言葉は、はなから相手にしない、けれど最高にひたむきな主人公。抑制した感情の描写からよけいに心情が読めるため、登場人物の心の水源から、水を浴びせられるようです。

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