『星降る楽園でおやすみ』

星降る楽園でおやすみ
  1. ニコチアナ
  2. 星降る楽園でおやすみ
  3. BH85―青い惑星、緑の生命
  4. フロスト気質 (上・下)
  5. チャイルド44 (上・下)
  6. 紅蓮鬼
  7. やせれば美人
岩崎智子

評価:星3つ

 NHKのドラマにもなった、助産師探偵シリーズ『赤ちゃんをさがせ!『赤ちゃんがいっぱい』。その原作者が、本作の著者、青井さんだ。本作では、無認可保育室「アイリス」に二人組の男が籠城し、園長・早紀と園長の姪・淑恵、5人の子どもが人質になる。身代金はひとり500万円。身代金を持って来た順に子供を返すだなんて、子供を先に返された親が、警察に通報してしまったら、事件はあっという間に知れてしまうだろうに。でも、こんなツメの甘い犯人達を、なかなか出し抜けない状況が続く。内部の様子に詳しい犯人達に、「協力者がいるのでは?」と疑心暗鬼に陥る早紀と、右往左往する両親達が交互に描かれる。ところで、一点のみ気になった。「あとになって早紀は…疑心暗鬼に駆られることになる(p10)」「……早紀は臓腑をえぐられるほど後悔することになる(p12)」などという前フリはなくても良いのでは? 事件が起こるまでにもう少し間があれば、こういった描写は「何が起こるんだろう?」と読者の興味を惹く伏線たり得るだろうが、本作の場合、13ページめで事件が起こるので、前フリと事件との間にそれほど間が空いていないのだ。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 一人当たり500万円、無認可の保育室に降りかかった身代金目当ての保育室ジャック。警備員のいる普通の保育園や幼稚園でもこういった犯罪の起こる危険性を秘めているのに、無認可で細々とやっている保育室では余計にありえる話だと思うと、二児の父親としてはゾッとするところもありました。園長や保育室の従業員、児童の保護者、そして犯人、それぞれにスポットが当たると見えてくる複雑な事情。これが事件の解決に向けてハラハラドキドキするだけじゃない深みを話に与えています。また、その中に事件の発端に係わることもあったり、事件自体も単純な犯行じゃないところが面白い。
 ただ、今だったら脱出出来るじゃないか〜!と思うところもあったり、期待させた展開に対するスカシ(期待通りだったら期待通りでまた文句を言うんですが……)、ものすごく力技な事件の幕引き、など個人的にちょっと納得できないところもありました。

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島村真理

評価:星3つ

 小さい子供を今育てている人じゃないとわからない事情を垣間見せてくれる作品。「赤ちゃんをさがせ」などの助産婦探偵シリーズを手掛ける作者なので、陰惨な内容じゃないのが救われる。
 無認可保育室とは?共働きの両親と片親の本音と事情は?人質に取られている子どもたちの家庭の内情が、いやがうえにも浮き彫りにされている。それぞれの家庭のごたごたはゴシップ感覚で面白いが、作者が投げかけた問題点の大きさも感じてしまう。
 夫婦間の育児や仕事観の対立、シングルで子育てする大変さなどありきたりな風景で、なにか起きないと見過ごされるようなことだ。そういう、人質の家族の問題点だけじゃなく、経営者の早紀と姪との確執、はたまた犯人側の内面まで盛り込まれていている。しかし、事件のスリルと謎解きもおろそかにしていない。見事に結末まで持っていけている力はすごいと思う。いっき読みした。
 それにしても、身代金の五百万円。子どもの命がなにより大事だが、「出せないほどのお金じゃない」とはなかなか言えない。

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福井雅子

評価:星3つ

 保育園で起きた人質たてもこり事件をベースにしたミステリーであり、社会派問題提起小説でもあり、園に子どもを預けるそれぞれの家庭の家族の物語でもある。
 文章が青井夏海氏独特のほんわかトーンであるため、人質立てこもり事件の描写は緊迫感と迫力という点でややリアリティーに欠けるのだが、それぞれの家族の人間模様を浮き上がらせるように描いているところはやはり上手い。それぞれの家族の事情や心情が静かに染み渡るようにすっと心に入ってくる。決してハッピーエンドではないのだが、読後に読者を暖かい気持ちにさせてくれる作品だ。子育てをめぐる問題をわかりやすく問題提起している点でも、とても評価できる。作品中の母親たちからは経験者でないとわからないようなリアルな愚痴も発せられていて、丁寧な取材の跡がうかがえる。

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余湖明日香

評価:星5つ

 アパートの一室を使って営業している無認可保育園で、園児を人質にした強盗事件が起きる。無認可保育園は通常の保育園よりも保育料が高いため、親も子どもかわいさにすぐお金を差し出すだろうという身代金目的の犯行だ。
この保育園を舞台に、従業員に共犯者がいるのではないかと疑心暗鬼に駆られる園長や、身代金の工面に奔走する園児の両親たちの姿が、タイムリミットが迫るという緊迫感を持って描かれる。
ところが蓋を開けてみれば、この両親たちが、犯人が想像していたような裕福で仕事ばりばりの共働き家庭ではないことが明らかになってくる。シングルファザーや、常に自分の仕事ばかり優先する夫に苛立ちを募らせる母親や、自分の唯一の時間を作るために夫に内緒で親を預ける母親…。私の好きな角田光代さんや山本文緒さんの小説に出てくるような、妻の役割・母親の役割に悩むリアルな女性の苦悩が描かれる。家族という一生離れられない責任をもてあましながらも生きていく、私たちの身近にいそうな人々の物語がここにある。
それぞれの家庭のエピソードが少し短く感じられるが、それを補って余りある魅力がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。

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