『フロスト気質 (上・下)』

フロスト気質 (上・下)
  1. ニコチアナ
  2. 星降る楽園でおやすみ
  3. BH85―青い惑星、緑の生命
  4. フロスト気質 (上・下)
  5. チャイルド44 (上・下)
  6. 紅蓮鬼
  7. やせれば美人
岩崎智子

評価:星4つ

 少年の惨殺死体がゴミ箱から発見されたが、捜査権限を持つ警部と警視はパブで酔っぱらっていた。たまたま煙草をくすねようとやってきた非番のフロスト警部が、とりあえずの担当として使命される。おいおい、いいのか?仮にも殺人事件の担当が、こんな感じで決まってしまうなんて。そして彼はとにかく口が悪い。レイプ犯を探す時に、「XXXXがまだあったかくて、先っちょが興奮に震えてるやつがいたら、問答無用で容疑者ってことにしてよろしい。(p49)」なんてのは序の口(なんて大雑把な容疑者特定!)。レイプ被害者の娘に向かって、「こういうセクシーなズロースを穿こうと思ったら、嬢ちゃんの場合、おっぱいの嵩上げが必要になりそうだな。(p112)」とセクハラ発言。こんなオヤジが職場にいたら、絶対イヤだ。食いしん坊で自分勝手な推理を振り回す、赤川次郎さんの『四字熟語シリーズ』に登場する大貫警部とも、キャラがかぶる。大貫警部はそれでも最後に犯人を逮捕するが、さて「感じるんだよ、直感でわかる」と豪語する警部の推理は?

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佐々木康彦

評価:星4つ

 少年失踪事件がメインなのですが、大きな犯罪から小さな犯罪まで他にも事件が次々と舞い込んで来ます。ですから登場人物も多く、一気に読まないと相関図がわからなくなって、読み直すことも何回かありました。でも普通に考えると警察署で、ひとつの重大事件にかかりきりということはないわけで、そういう意味では実際の警察の臨場感溢れる現場の状況が読んでいて伝わってきました。
 自信たっぷりのフロスト警部ですが、推理は空振りばかりで口を開けば冗談ばかり、と言うか下ネタばかり。このおっさん、実はダメな奴ではないのか?と思いきや、後半は前半の借りを返しておつりがくる大活躍。それに、彼は自分が解決した事件の手柄を横取りされても、いつものような飄々とした態度を崩しません。彼にとっては事件が解決することが一番なんです。これってすごくカッコ良いですよねえ。上巻はちょっとストレスが溜まるかもしれませんが、下巻でストレス解消。読み応えがありました。

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島村真理

評価:星5つ

 フロスト警部シリーズ第4弾。少年の失踪事件に死体発見、連続幼児刺傷事件に誘拐事件。ハロウィーンの夜からたたみかけるように発生する難事件。これが仕事の鬼のフロスト警部が指揮をすると、面白いように事態が悪化して・・・。
 短編集の「夜明けのフロスト」でも、この人大丈夫なのかと思ったが、今回もずいぶんとひどい醜態をさらしている。そもそも、抱え込む事件の量が半端じゃないうえに、足を引っ張る嫌な上司に同僚と悪条件は尽きず、フロストともども、読んでいるこっちまでノックアウト寸前だ。
 警官としては見過ごせない不正も平気でするし、セクハラまがいの下品なジョークは言うし、清廉潔白さとは程遠い困ったおじさん。いつものように、ひらめきで捜査をするが、優しいところをみせたり、自己利益の追求なんてちっとも考えてない純粋さをみせたりと不覚にもちょっとカッコイイと思ってしまった。
 フロスト警部、前よりも成長したのだろうか。いい感じに角が取れてきたみたいだ。初め眉をひそめていても、気が付いたら彼に一喜一憂して応援してしまうだろう。

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福井雅子

評価:星5つ

 まるでコメディー映画を見ているように、九百ページの長編を飽きることなく隅々まで楽しめた。フロスト警部はもちろんだが、脇を固めるキャラクターたちまでがなんと魅力的なこと。どことなく『踊る大捜査線』を髣髴とさせる。ストーリーの大きな流れに関係あるものも関係ないものも入り混じって次々と事件が起き、フロスト警部は大忙しなのだが、この矢継ぎ早な展開がまた、飽きさせずに読者を楽しませる秘密だろう。とにかく面白く、九百ページ丸ごと楽しめる。
 ただ、物語がスピーディーにどんどん展開していき、しかも長いため、登場人物がとても多い。外国人の名前を覚えるのが苦手な人はやや苦労するかもしれない。冒頭の登場人物リストをチェックしながらじっくり読みましょう!

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余湖明日香

評価:星4つ

 よれよれのマフラーにレインコート姿。見かけは冴えないが頭は切れる警部となると、多くの方は警部コロンボを思い浮かべるだろう。
しかししかし、コロンボ警部よりも下品でだらしなくて口が悪い。ゴミだらけのポケットからは警察の身分証明書もなかなか出てこない、なんとも型破りなフロスト警部。その物語も普段読みなれている推理小説と比べてみると型破りだ。行方不明の少年の捜索に、同じ年齢の少年の殺人事件、盗難事件に数ヶ月前の腐乱死体の発見。あらゆることが同時進行でごちゃ混ぜに起きる。そうだ、現実の事件は小説と違って、捜査するもののタイミングなんて考えちゃくれないんだ。
そうした万年人手不足の警察署で起きる様々な事件が、伏線になるのかと思いきやならなかったり、新事実を発見して捜査を進めてみたら空振りだったり。いつのまにか、手柄を横取りされたり、署長に操作人員の経費削減についてお小言を言われたりするフロスト警部を全力で応援してしまっている。そして「時と場所をわきまえず、最も言ってはいけないタイミングで悪趣味きわまりない冗談を口にすることにかけて」天才であるフロスト警部の軽妙なやりとりに何度も笑ってしまった。腐乱死体に死亡宣告をした警察医に向かって、「助かったよ、先生、先生に死んでるって教えてもらわなかったら、今ごろまだあの気の毒なおっさんにアスピリンを呑ませようとしてた」。こういうブラックジョーク、日本人の小説じゃ絶対読めないはず。
シリーズ作品を読んでいなくとも楽しめる。

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