WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年10月 >『やせれば美人』 高橋秀実 (著)
評価:
一月号の課題本『はい、泳げません』の著者、高橋さんが再登場。前作では、カナヅチの高橋さんが、遂に泳げるようになるまでが描かれた。さて、本作の主人公は高橋さんの妻だ。彼女が倒れて救急車で運ばれ、ダイエット宣言するところから物語は始まるが、『泳げません』と決定的に異なるのは、その終わり方。それもそのはず、彼女は目標達成に向かって、努力をするのが大嫌い。見かねた周囲の助言、あまりの重さに壊れる体重計など、「これでもか」と目の前に立ちはだかる現実にも、彼女の気持ちは動かない。でも待てよ。ダイエットには、特別な技術なんて要らない。もともとの体質があったとしても、要は、適切な食事と適度な運動をしていれば、そんなに太らない。そもそもそんなに意思が強いのなら、その気持ちをダイエットに向ければいい。それなのに、なぜ太ったままなのか? さあ、そこが人の心の不思議なところ。今度は筆者が当事者でなく、傍観者となったことで、いくぶん冷静な描写がふえ、そのためか、読者との間に若干距離がある印象をうけた。
評価:
肥満体でいることは、高血圧や様々な生活習慣病になる確率が高いとのことですが、だからといって、それだけで痩せろというのもどうかと思います。それって、車に轢かれるから外を歩くな、と言われているような(極端でしょうか)気がして、どうも納得出来ません。ただ、本書に登場する著者の奥さんは肥満が原因と思われる心臓の不調を経験し、ダイエットをすることを決意します。それならば納得。で、痩せるまでの奮闘記かと言うと、そんな単純なものではありません。何せ、この奥さんは「努力して何かを得ても、当たり前(中略)努力せずに得てこそ、しあわせなのよ」と言ってしまう人なのです。思ってても言えないことをサラッと言えてしまうところは凄いと思いますが、果たしてそんな人がダイエット出来るのでしょうか。それは読んでみてのお楽しみ。著者の作品は2月の課題書『はい、泳げません』以来でしたが、今回もかなり笑えます。電車では読めません。
評価:
やせたい。たいがいの女性はこう思う。ダイエットをちょっとでもやったことのある女性は、それこそ数限りなくいることだろう。なぜならその先に間違いなく夢と希望があるからだ。ダイエットを決意した妻をフォローするためというよりは、かなり熱心に夫が情報集めに奮闘する。最初から最後まで爆笑は必至。
おもしろいなーと思ったのは、ダイエットについて詳しい出版社の女性との話だ。例えば、(痩せもしないのに)次々に現れるダイエット法になぜ飛びつくか。「新しい方法なら成功するかもしれない・・・」それは、ダイエット=恋みたいなものだから。まさに目からうろこ。目的達成の方法だからという理由とは違う、思わぬ視点の変化を楽しめて納得してしまった。
この本は、ダイエットを扱った本だからといって成功体験記でもないし、たぶん失敗話でもない。やせたいと思う女性の観察記というべきか。著者が、「妻」の的を射たすばらしい発言をひけらかしているようでもあるので、ホントのところは妻自慢の本であるかもしれない。
評価:
妻のダイエットを著者が3年間に渡って観察し、ああでもない、こうでもないと考察し続ける爆笑ノンフィクション。やせたいけれど運動はキライ、汗をかくのはもっとキライ、やせている女性は美しくないと思うけれど、健康のためにはダイエットしなくちゃと思う。でもダイエットに成功したらずっと続けなきゃいけなくなるから、やっぱりダイエットしたくない・・・そんな矛盾だらけの女性心理と生真面目に向き合い、分析を加えようとする夫の姿がコミカルで可笑しい。そしてヒロイン?である妻のキャラクターがまたとてもいい。ちょっとズレた几帳面さと大胆さが絶妙に混ざり合った憎めないキャラは、こんな人が友人にいたら楽しいだろうなと思わせる。二百ページの薄めの本だけれど、とても楽しめた。
そして、この本はへたな恋愛小説よりもよほど「愛」を感じる本だった。夫である著者の妻に向けるまなざしのあたたかさはもちろんだが、ダイエットをめぐって交わされる平和でコミカルで飄々とした夫婦の会話は、大きな愛が根底にあってこそだ。面白いだけでなく、あたたかい読後感が残った。
評価:
『はい、泳げません』というカナヅチの著者がいろいろな方法で水泳に挑戦するというノンフィクションを以前紹介したが、同じ著者が今回はダイエットをテーマに、様々なダイエット成功者に話を聞き試してみてはその方法を考察する。ダイエットってそもそも何?というところから始まり、食事制限、運動、自己暗示、セルフヘルプダイエット、催眠術まで。こうすればやせますよ!という方法を紹介しているわけではないので、そのつもりでは読まないほうがいいだろう。
このノンフィクションの特徴は、ダイエットをしているのが本人ではなくその妻である。しかしこの特徴が、どうも女性の私からするとマイナスに働いているように思える。
『はい、泳げません』が微笑ましくも面白いのは泳げないのが著者本人だからだ。人が出来ないことをネタにしたユーモアは難しい。しかもその妻も体重が多くたっていいじゃない!と開き直っているのでもなく、がむしゃらにダイエットをしてがんばっているのでもなく……そのキャラクターを面白いと感じる人は楽しめるのかもしれないが私は苦手だった。夫にとって妻は太っても太っていなくてもかわいい存在。客観的な視点を欠いた対象との距離の近さも苦手に感じた原因かもしれない。
WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【文庫本班】2008年10月 >『やせれば美人』 高橋秀実 (著)