『紅蓮鬼』

紅蓮鬼
  1. ニコチアナ
  2. 星降る楽園でおやすみ
  3. BH85―青い惑星、緑の生命
  4. フロスト気質 (上・下)
  5. チャイルド44 (上・下)
  6. 紅蓮鬼
  7. やせれば美人
岩崎智子

評価:星3つ

 京に都のある平安時代。志摩の国に流れ着いた船には、八人の男の惨殺死体が。容疑者らしき娘を取り調べた加茂忠道は翌日姿を消し、娘の惨殺死体が残されていた。弟・忠行は大叔父・忠峰と若い娘・香夜とともに、失踪した忠道の跡を追う。鬼がセックスを介在して男から女へと取り憑いてゆくさまは、アメリカ映画『スピーシーズ/種の起源』みたい。男を漁って大暴れしていた映画のヒロイン・シルのように、人間が一番無防備になる瞬間を狙う鬼。ある目的を持って移動する鬼と、追跡者・忠道、そして鬼に翻弄されていく人間達の様子がスピーディに描かれ、テンポよく読み進める。夢枕獏の『陰陽師』シリーズの読者ならば、後に安倍晴明の師となる加茂(『陰陽師』シリーズでは賀茂)忠行の若き日々を描いた外伝としても楽しめるかもしれない。同じく『陰陽師』シリーズでお馴染みの悪役、菅原道真も意外な姿で登場する。夢枕作品では「哀しい運命の末にこうなったのだなぁ」などと、ときに、鬼に同情することがあるが、高橋作品では、鬼は豪快かつ単純明快な悪役キャラ。あれこれ考えず楽しみたい人にはお勧めのホラー・エンタテインメント。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 異国からやってきた鬼と陰陽師との対決を描いた作品。淫鬼という、まぐわった人にとりつくことが出来る鬼が敵なので、内容はちょっとエロティックな部分もあります。陰陽師というと安倍晴明が有名ですが、本作は晴明の師匠とも言われている加茂忠行が主人公。
 謎の難破船が志摩の国に流れ着く冒頭の部分は、これからの展開を考えると凄くワクワクする良い場面で、つかみはOKといった感じ。男子的に期待する術を使った対決は中盤以降までおあずけですが、そういうのがなくても十分面白いです。若き加茂忠行が陰陽師として成長していく様子が、ストレスなくサクサクと読める。ただ、逆にストレスなく読めることに物足りなさを感じる人がいるかも。
 平安時代は、何が起こっても不思議ではないようなそんな雰囲気に満ちていて、ファンタジーの舞台に適していますね。史実に隙間があるのも想像力をかきたてます。

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島村真理

評価:星3つ

 志摩の国・賢島に巨船が到着してから起こる連続殺人。いずれも下手人は若い娘だった。しかし、事件の調査に向かった忠道は行方不明となる。兄の汚名をはらすため、加茂忠行たちは鬼との対決を決める。
 男女のまぐあいで肉体から肉体へととりつく淫鬼。鬼の性質上(?)濡れ場がメインのお色気がたっぷり。残虐な殺人描写はあるけれど、甦った道真の怨鬼ともども、どうしても小物なイメージがしてちょっと物足りなかった。半面、加茂一族を利用して出世をもくろむ三善清行の方がずっと悪役みたいだ。人間の方が鬼より鬼らしいのかもしれない。
 加茂家といったら、陰陽師の安倍晴明の師、加茂忠行・保憲親子が有名だが、これは忠行の若いころの話で、今後のシリーズ化を予感させるようなストーリー仕立てになっているようだ。
 陰陽師と鬼との対決が見物で、わかりやすいエンターテイメント仕立てになっている。軽く読める一冊だ。

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福井雅子

評価:星2つ

 なまめかしく、妖しく、おどろおどろしいホラー小説。妖怪や鬼が性的な関係を通じて人から人へとりついていくというストーリーは、ホラーをほとんど読まない私ですらどこかで読んだことがあると思ってしまうほどありがちな展開なのだが、遊園地のお化け屋敷と同じで、わかっていても怖いし、怖いから楽しいのである。夏はもう終わってしまったけれど、真夏のお化け屋敷のように、「うわあ、怖い!」と言いながら怖さを楽しみたい人にはおすすめ。
 それにしても、怨霊や鬼がもっと身近だった時代の「怖さ」は、通り魔や子どもの誘拐事件の報道に寒々とした「怖さ」を感じる私たちからすると、どこか風流で妙に人間くささを感じてしまう。だから怨霊や鬼のほうがいいとまでは言わないけれど……。

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余湖明日香

評価:星2つ

 人から人へ性行為をしながら乗り移って人を操る鬼がどうやら行く先々で人を殺しているらしい。陰陽を学ぶ加茂忠行は、鬼に乗り移られた兄を追いながら、都で叔父の忠峯と一緒に国を救おうと立ち上がる。加茂一族、これを機会に内裏での権力を得ようと暗躍する三善、大きな力を持つ怨霊などの思惑が重なり合い、帝の体を乗っ取ろうとする鬼を追う戦いが始まる。
鬼が鬼なだけに、性的な描写が多くあるのだけれど、これって小説にとって本当に必要なのか?とうーんとうなってしまう。平安時代の鬼の話は好きだけれど、妖しさとか禍々しい雰囲気、耽美さも物足りない。鬼退治に絡む内裏や陰陽寮の政治の駆け引きなども、説得力に欠けているように感じた。
会話文が多く展開も速いのでさらっと読むには最適かもしれない。

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