『BH85―青い惑星、緑の生命』

BH85―青い惑星、緑の生命
  1. ニコチアナ
  2. 星降る楽園でおやすみ
  3. BH85―青い惑星、緑の生命
  4. フロスト気質 (上・下)
  5. チャイルド44 (上・下)
  6. 紅蓮鬼
  7. やせれば美人
岩崎智子

評価:星3つ

 製薬会社に勤務する水木恵は、利用者・別府から「毛髪の伸びるスピードと色がヘンだ」と電話で相談を受ける。実は、開発部から営業部に異動になった毛利理が、出荷時に紛れ込ませた〈BH85〉というまだ実験段階の薬が原因だった。しかもその薬にはある秘密があって、次から次へと人間や鳥を同化してゆく。どん臭い理系男・理としっかり者の恵が事件の真相を追ううちにお互いが気になり始めるノというのは、ロマコメにありがちな展開。でも、ここからもパターン通りの展開を期待すると、肩すかしを喰わされる。バイオハザードという恐ろしい事態を扱っているのに、当事者達がやけにのんびりしているのだ。スリルとサスペンスの中で、行動を共にするうち恋愛感情が湧き上がる……なんて事にはならず、さしたるドラマティックな展開もなしに、二人は、これから生まれてくる子供の将来について話し合っていたりするのだから不思議だ。映画『スターウォーズ』シリーズのチューバッカや、アニメ『エヴァンゲリオン』のヒロインが例に挙げられたりと、ある世代の大人達のオタク心を刺激するアイテムがいっぱい。吾妻ひでおさんのイラストも、どこかすっとぼけたキャラのイメージにぴったり。

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佐々木康彦

評価:星5つ

 実験段階の養毛剤「BH85」が引き起こす地球規模でのバイオハザード。だのに、この登場人物のユルさは何なのか。吾妻ひでおのイラストも相俟って、全く緊迫感が感じられません。しかし、BH85から生まれた生物が他の生物と次々に融合し、全ての生物の記憶を持った存在へと変貌していくところから物語は深みを増していきます。何かこれって、エヴァンゲリオンで言うところの「ATフィールドを失った自分の形を失った世界」に似ています。「全生物の完璧な記憶の器」とは一体どういうものなのか。自我とは何か、環境問題、宗教、恋愛、いろんな問題全部この黒緑色の生物がお答えします。56億7千万年後に如来となって人類を救済にやってくる弥勒菩薩も、その時の地球の姿に驚愕することでしょう。全人類、いや全生物を巻き込んだ冒頭からは想像も出来ない壮大なお話。長嶋有さんの帯の文章は決して大袈裟ではありません。

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島村真理

評価:星3つ

 BH85とはなんぞや?笑えて考えさせられるSFファンタジー。
 BHとは「バイオヘヤー」の頭文字。こいつが、毛生えの効用以外の効果を持っているから大変なのだ。要するに、養毛剤が巻き起こすバイオハザード。大切な髪が抜ければ恐怖を感じそうですが、生えすぎていったい何が起こるのか。
 毛精本舗の毛髪ダイヤル担当の恵が、客からの「良く効く」というお礼の電話に奇妙な感じを覚える。君たち効かない薬を売っていたのかーと突っ込みたくなるが、事態を重くみた関係者たちがかなり暴力的に「回収」を試みるところが笑える。
「緑色の髪」が増殖に増殖を重ね・・・と、パニックもスムーズに進み、ストーリーもとてもシンプル。恐怖や気味が悪いというよりちょっと微笑ましいというか。「なんかこういう未来もありかも」と素直に受け入れてしまう気分になる。吾妻ひでおのイラストのせいだろうか?
 ドタバタパニックアニメといってもいいかもしれない。未来はどうとでもなるさっという明るさがいい気分にさせてくれる。

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福井雅子

評価:星2つ

 製薬会社の研究者が作った新しい発想の育毛剤のせいで、地球上がとんでもない事態に陥るファンタジーノベル。着想がとても面白く、導入部分はおっと思わせる展開なのだが、話が進むにつれて、ストーリーにもう少しひねりがあったらな、と思ってしまった。着想が斬新なだけに、なんとなく先が予想できてしまうようなストーリーではもったいないように感じてしまうのだろう。製薬会社内の様子や社員同士の会話場面などにリアリティーがなく、かといってファンタジーとしては作品世界に読者を引きずりこむ力強さに欠ける、その中途半端さが落ち着かない。
 老夫婦の静かな別れの場面など随所にキラリと光るうまさが見えているだけに、期待度が高くなり、結果としてもの足りなさを感じてしまった。

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余湖明日香

評価:星3つ

 インチキ育毛剤の電話応対係の恵は、(効くはずのない)育毛剤を使用して緑っぽい毛が生えてきているという電話を受ける。それを聞いた開発者の毛利は、自分の作った育毛剤BH85の成功を知る。その育毛剤とは、髪の毛そっくりの生物を頭の上に生やすという代物だった!
そこから始まるとんでもない緑色の生物の大増殖とありとあらゆる人間動物植物が飲み込まれていく様子はコミカルなのに恐ろしい。緑の生物が京都・大阪からあっという間に近畿へ、日本全域へ広まっていく描写は圧巻。緑の生物に飲み込まれない、残された一部の人間達は、さてどう生きるのか……。人間達のその後、地球のその後を読み終わったあとゆっくりと想像したくなる一冊。
ところどころに出てくるオタク的知識がわからない部分もあったが面白く、吾妻ひでおのイラストもノスタルジックでいい味を出している。

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