『螺鈿迷宮(上・下)』

螺鈿迷宮
  1. 螺鈿迷宮
  2. 生き屏風
  3. 細菌と人類
  4. 蓬莱洞の研究
  5. 時間封鎖
  6. 猫泥棒と木曜日のキッチン
  7. ティファニーで朝食を
岩崎智子

評価:星3つ

 TVや映画になった『チーム・バチスタの栄光』で、一躍有名になったシリーズ。不定愁訴外来(別名・愚痴外来)の責任者・田口と厚生労働省の役人・白鳥のコンビが医学業界で起きる犯罪を暴いていく。シリーズものでは、白鳥の突っ走りっぷりが目立ったが、本作では彼が脇役で、語り手として、天馬大吉というおめでたい名前のとおりそのままの医学生が登場する。舞台も東城大学医学部付属病院から碧翠院桜宮病院になる。「人を生かす」目的を持ちながら、終末医療や緩和ケアなど、死とも向き合わなければならない病院の現実や、今話題となっている自殺サイトの問題も取り上げており、「フィクションでありながら、リアリティがある」とでも言おうか。そこに大吉自身の秘められた過去も絡んで来て…という姫宮という名で、「氷姫」というニックネームを持つことから、さぞかし可愛らしくて仕事も出来るクールビューティだと思ったら、真逆のキャラでびっくり。「シリーズ本篇を順番通りに読んだ方がいい」と書かれたネット上のレビューもあったが、本篇を読まなくても、さほどもどかしさを感じなかった。個人差があるのかもしれない。

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佐々木康彦

評価:星4つ

 『チーム・バチスタの栄光』シリーズ第三弾。前二作の会話中だけで登場していた氷姫こと姫宮が本作では重要な役割で登場します。ということですが、私、このシリーズ未読なのでよくわかりません。時々会話の中に『チーム・バチスタの栄光』の登場人物や事件のことが出てきますので、シリーズ愛読者にはニヤッとする場面が多いかも知れません。
  日本における終末期医療や死亡時医学検索の問題点という非常に重いテーマを、軽いタッチでミステリーに仕上げていて、この件については著者がテレビや著作で問題提起していますが、物語にすることで、こういったことに興味のない人たちにも関心をもってもらえるんじゃないでしょうか。
  シリーズの流れをくみながら、またこの作品が新たな源流となりそうな終わりかた。短期間に次々と枝葉をのばしていく〈桜宮サーガ〉にただただ驚くばかりです。シリーズ未読でも全然読めますよ。 

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島村真理

評価:星5つ

 終末期医療のありかた、死亡時医学検索の必要性に問題提起した小説。現代医学に正面から向き合っていて、著者の思いが強く反映されているのではないでしょうか。「チーム・バチスタの栄光」から連なる位置にあり、残念ながらそちらは未読なので登場人物の意外性や真意を完全に楽しむことは難しいけれど、それを抜きにしても十分に楽しめる内容でした。
  いいなと思ったのは、末期の患者たちが、ただ寝たきりにされたり、延命治療のチューブにつながれたり、切り捨てられたりするのでなく、自ら看護や給食などの仕事をすることで病気になっても生きていくことを肯定されている場面。作中、人道的にどうかと思われるところもあるし、現実としては不可能な夢物語だとは思うけれど、最後まで人として生きられる尊厳がここにはありました。
  私にとっては、「ジーンワルツ」についで2冊目の海堂作品。一貫して主張したいテーマが明確で、かつエンターテイメントとして楽しめる素晴らしい本だと思います。

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福井雅子

評価:星4つ

 『チーム・バチスタの栄光』に続く医療ミステリー!という触れ込みなのだが、こちらはかなりコメディ、劇画、空想小説の方面に針が振れている。終末医療のあり方を題材にして医療問題をクローズアップしたあたりはいつもの海堂尊らしいやりかたなのだが、今回は地に足の着いた真剣な医療ドラマというよりはドタバタ喜劇に近い。それでも、奇抜な設定と空想的なストーリー展開ながらしっかりと作品世界を構築して読者を引きずりこむ力はさすがである。文章は決して読みやすくはないのだが、発想とストーリーを展開させる力に引っ張られ、はたまたキャラクターの魅力に引きずられ、ページをめくる手は止まらない。
  コメディドラマを観る感覚で軽い気持ちで読める上に、おなじみのキャラクター・白鳥の少々悪ノリ気味の活躍も存分に楽しめ、白鳥ファンの期待は裏切らない。今回はついに白鳥の部下の「氷姫」が登場し、次回作への期待も膨らむ。

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余湖明日香

評価:星2つ

 『チーム・バチスタの栄光』も『ナイチンゲールの沈黙』もスルーしていたので、今回初めて手に取った海堂尊作品。
冒頭「アリグモという虫をご存知だろうか。その名の通り、蜘蛛の一種だ。でも名前につけられてはいるけれど、蟻ではない。それは丁度、ひとごろし、という言葉と似ている。ひとごろしは人を殺した人であるが、それはもはや人ではないのと一緒だ。」引用が長くて失礼。私はこの部分を何度も読んだがどうしても理解ができず、そして納得できず、本編通してあまりいい印象をもてなかった。「アリグモ」と「ひとごろし」は言葉の構造として似ていないし、どんなことをした人も死ぬまで人ではないのだろうか?
語り手の落ちこぼれ医大生・天馬大吉の修辞だらけの文章(友人の新聞記者に、「過剰な修辞」と文章を添削されているから、作者があえてそうしていることなのだろうけど)や、天馬と病院長の比喩たっぷりの会話は好き嫌いが別れるだろう。前半は一冊かけて物語の登場人物紹介のようでテンポが悪く、ご都合主義的な結末はテレビアニメの劇場版のような展開に思えた。終末医療という重いテーマだけに、リアリティと説得力がほしかった。

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