『蓬莱洞の研究』

蓬莱洞の研究
  1. 螺鈿迷宮
  2. 生き屏風
  3. 細菌と人類
  4. 蓬莱洞の研究
  5. 時間封鎖
  6. 猫泥棒と木曜日のキッチン
  7. ティファニーで朝食を
岩崎智子

評価:星3つ

 古武道の達人にして美少女の諸星比夏留は、私立田中喜八学園高等学校一年生。フルートが吹きたくて吹奏楽部に入るつもりだったが、笛の音色に誘われて、なぜか民俗学研究会に入部する羽目に。ところが、研究会のメンバーは、いずれ劣らぬヘンな人達ばかり。但し、主人公・比夏留もただの狂言回しではなく、太ってこそ威力を発揮する古武道の跡継ぎでありながら、食べても食べても太れない悩みを持つ、ヘンな人達の一角を担っている。
優れた学術書を出した過去を持つが、今は昼間から酒を呑む(いいのか?)ただの老人にしか見えない、顧問の薮田。長髪の伊豆宮竜胆部長。相撲取りのようにちょんまげを結っている白壁雪也先輩。『南総里見八犬伝』でお馴染みの名前を持つ犬塚志乃先輩。魔術に凝っている浦飯聖一先輩。民俗学の天才高校生・保志野春信。私立伝奇学園高等学校民俗学研究会シリーズ第一作とあって、主要登場人物の紹介がほどよく散りばめられている。神話や伝説に関する蘊蓄(うんちく)が語られるが、ユニークなキャラクターが巻き起こす騒動とまぶされているので、それほどお堅いイメージはなく、さくさく読める。

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佐々木康彦

評価:星2つ

 無理やり個性的に仕上げたような極端過ぎるキャラクター、道場で多数の門下生をかかえる由緒正しき古武道の技に名前がついていない、表題作『蓬莱洞の研究』で生徒たちが行方不明になった理由の馬鹿馬鹿しさなどなど、どうも訳が分からない。何なんだろうなと考えましたところ、私、はたと気づきました。これは漫画や。表紙や挿絵にある瀬田清氏のイラストで描かれたと仮定した学園コメディ漫画を、文章におこした風にした小説なんですよ。そう思って読みすすめると面白いもので、さっきまで気になって仕方がなかった変な設定が特に気にならずに読めました。
  ただ、〈雨はまだ電気掃除機のような音をたてて降りしきっている〉とか〈パイ生地が発酵して膨れあがるように、むくりと起きあがった〉といった独特の比喩表現には個人的についていけないものがありました。

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島村真理

評価:星5つ

 高校へ入学したら吹奏楽部に入ろうと思っていた比夏留。だが、入部したのは「民俗学研究会」。メインの活動はフィールドワーク(洞窟探検)で、彼女はなんやかんやと事件に巻き込まれてしまう。バカバカしくて愛らしい話だ。
  民族学と一口に言っても、妖怪などの伝説・伝承、歴史の古文書、宗教関係などを手掛かりとして文化の歴史を探る学問。だから、各自得意分野を持っているというところもいい感じだし、そのマニアぶりが部活のあやしさを際立てている。
  突っ込みどころも満載だが、実家の古武道〈独楽〉の跡取り娘として、大食いするのに太れず、ほっそりとした見た目なのに比夏留の体重が220キロというのが一番。食べても太らない体質、うらやましすぎる。
  毎度、比夏留を影で助ける知恵袋の保志野の登場の仕方も小憎らしく、うんちくと笑いの要素をたっぷりと楽しめる。そもそも学校の存在自体が怪しいし、部の先輩も顧問も曲者ぞろい。今後もきっと何かあるだろうと期待大。お得で楽しめる一冊だ。

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福井雅子

評価:星2つ

 伝奇、ミステリー、ユーモア、学園小説が合体した「私立伝奇学園高等学校民俗学研究会」シリーズの初の文庫化!……ということで、民俗学研究会に入部した古武道の達人・諸星比夏留のドタバタ冒険劇が繰り広げられる。
『トリック』を髣髴とさせるギャグ満載のコメディで、楽しく読めるユーモラスなストーリーなのだが、日本の古代史や神話や民俗学的な題材の絡め方がやや中途半端な印象を受けた。ノベルズとしてあくまで小説の形をとったことと、古代神話などの取り込みに中途半端に真剣味があるせいで作品全体がコメディになりきれていないように感じた。お腹の底から笑い飛ばせないのだ。いっそコミックかコメディドラマで徹底的にギャグにしてしまったほうが楽しめたような気がする。狙いは悪くないだけに、やや残念である。

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余湖明日香

評価:星4つ

 作者の「笑酔亭梅寿謎解噺」シリーズが苦手だったけれど、この作品はするする読めて楽しめた。
田喜(でんき)学園の民俗学研究会に勘違いから入部することになった諸星比夏留は古武道の達人で超大食い。民俗学の「み」の字も知らない比夏留の周りには、妖怪のエキスパート伊豆宮部長に、歴史オタクの白壁、宗教マニアの犬塚、オカルト好きの浦飯に、謎の多い顧問の藪爺、民俗学の天才保志野君といった奇妙な人たちがいっぱい。個性的なキャラやトンデモない設定を笑って許せたら、ゆる〜いノリ、洒落による解決、小ネタの数々に、はまってしまうこと間違いなし。個人的には保志野君が名付ける比夏留の必殺技がツボで、毎度毎度笑わされました。民俗学や「日本書紀」も好きなので、現在2冊出ているというシリーズ続編も読むのがとっても楽しみ。
表紙はともかく、本文に挟まれた気の抜けたイラストは必要だったのか疑問ですが…。

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