『時間封鎖(上・下)』

時間封鎖
  1. 螺鈿迷宮
  2. 生き屏風
  3. 細菌と人類
  4. 蓬莱洞の研究
  5. 時間封鎖
  6. 猫泥棒と木曜日のキッチン
  7. ティファニーで朝食を
岩崎智子

評価:星5つ

 ある夜、巨大な膜にすっぽり覆われてしまったため、空から星や月が消え、地球の時間だけが1億分の1の速度になっていた。人類は、太陽が膨張して、やがて地球を呑み込んでしまう運命にあることを知る。SFというと、天文用語や科学用語のてんこ盛りを想像して敬遠しがちだったが、この小説は主役達の感情表現がきっちり描かれていて、最後まで飽きなかった。裕福な家に生まれ、優秀なリーダーの素質を持ち、現代の危機を科学で解明しようとするジェイスン。高圧的な父と酒びたりの母に反発して、宗教に救いを求めるジェイスンの姉・ダイアン。医師というジェイスン寄りの職業を選びながら、ダイアンに惹かれている二人の幼なじみ・タイラー。危機に陥った時に、人間が救いを求めるもの「理性=科学」「感情=宗教」を対照的な姉弟に仮託し、その狭間で揺れるタイラーが人間の象徴のようだ。政治家の暗躍、火星人の出現、謎の病出現による世情不安など、次から次へと事件が起きて。読み始めたら止まらない。どんな時でも人の善意を信じて、希望を胸に前進する。理想とする生き方は、現代だろうと近未来だろうと変わらない。本作は3部作の1番目だそうで、続きが読みたくなった。

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佐々木康彦

評価:星5つ

 ある日、漆黒の界面に包まれてしまった地球は、外の宇宙に比べ時間の流れが1億分の1の速度になってしまった。赤色巨星となった太陽に地球が呑み込まれてしまう前に人類はこの危機を乗り越えられるのか。界面内外で時間の進み方が違う時間傾斜というアイデアがすばらしい長編SF。
  界面外の時間が速く進むことがこの物語中での死活問題になっているわけですが、そのおかげで他惑星のテラフォーミングの結果を数ヶ月で見ることが出来るという夢のようなことも可能で、気分はまるっきりシムアース。そして本作は、危機からの脱出という流れともうひとつ、地球をこのような状態にした存在(物語内では仮定体と呼ばれる)とのファーストコンタクトものとしての楽しみもあり、大興奮の内容でした。いろいろと説明不足の部分もあるのですが、それはシリーズで追い追い明らかにして頂けると期待します。

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島村真理

評価:星5つ

 ある日、夜空から星と月が消える。一瞬にして地球は黒い幕に包まれ、宇宙の時間の流れから閉ざされてしまう。それを目撃した3人の子供を中心に地球の未来をえがいたクライシスパニックものだが、ごたごた難しいことを並べたてるのではなくわかりやすいテクノロジーで説明してくれたSFでした。すっかりハマっちゃいました。
  しかし、人類が「仮定体」と名付けた知的生命体に対抗し、地球の平和を……と前向きなことばかりじゃありません。突然はじまった「人類の危機」に不安でボロボロになっていく人たち、心の置き場に戸惑う人たちの話がきちんと取りこまれているところがすばらしくいい。実にリアルでした。
  特に、中心的な存在である「大きな家」で育った双子の姉弟、ジェイスンとダイアン、幼馴染のタイラーが、それぞれ、自分の知性を活用して地球を救う活動する人、不安にからめとられていく人、中間で揺れ動く語り手という立場で絶妙なバランスを保っている。彼らの友情と愛情の連鎖が思わぬスパイスとなっていた。本書はシリーズ三部作の第一部だそう。続きはぜひ読んでみたいと思う。

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福井雅子

評価:星5つ

 これはたぶん傑作である。作品のスケールや構成力、物語の厚みなど色々な面で圧倒的な迫力を感じる。大掛かりな構想の下にこれだけの長い物語を、破綻なく書き通せるということだけでも相当な力量を要すると思うが、地球最後の日が迫り来るという緊張感を最後まで持続させていることがさらに驚きである。SFはあまり好んで読むほうではないが、そんな私にも、秀作であることははっきりとわかった。
  宇宙の謎が完全に解明されていない以上、こんな事態が明日にでも現実のものとなるかも……などとすぐに考えてしまう気の弱い私にとっては、読んでいて楽しい気分になれる本ではないし読後感も重いため、好きかと聞かれると正直あまり好きにはなれないのだが、個人的趣向抜きで作品を評価するならこれは高く評価したい。これぞまさに正統派SFであり、SFファンには絶対おすすめの作品だと思う。

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余湖明日香

評価:星5つ

 ある夜、星と月が見えなくなった。帰還した宇宙船乗組員によると、地球は何かの膜に覆われている。地球の外では1億倍の時間が流れ、太陽は地球を飲み込もうと膨張を続けている…。
火星を人が住める環境にし、人類を送り込んで一億倍のスピードで進化をさせるというアイディアにわくわく、ページをめくる手が止まらなくなる本格SF。だけどそれだけで済まさないのは、死を恐れたり、真実を求めようとしたり、諦観したり…といった様々な人間の描写がすばらしいからだ。
物語は、SF好きで後に医者の道を歩む主人公と、少年時代をともにすごした双子の姉弟を中心に進む。姉は地球の終わりを恐れて宗教に走り、弟は貪欲に知識を求めて宇宙科学を学び、火星地球化プロジェクトのリーダーとなる。3人がどのように死にゆく地球で生きるかを選択していく過程に、パニックに陥ったり暴動が起こったり自殺をしたり、金儲けをしたり国の利権を争ったりといった人間の行動が絡み合う。
主人公が生きる「西暦4×10の9乗年」という現在と、星と月が消えた日から思い起こして書き進めている過去とが交互に話が展開して行き、徐々にそれぞれの関連が解きほぐされていくプロットも秀逸。
SFをあまり読まない人でもきっと楽しめる一冊。

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