『細菌と人類』

細菌と人類
  1. 螺鈿迷宮
  2. 生き屏風
  3. 細菌と人類
  4. 蓬莱洞の研究
  5. 時間封鎖
  6. 猫泥棒と木曜日のキッチン
  7. ティファニーで朝食を
岩崎智子

評価:星4つ

 2001年秋の同時多発テロ事件で注目された、炭疽菌に代表されるバイオテロ。遺伝子組み換え製品の安全性や、クローンの是非が議論され、菌・ウィルスをテーマとする漫画『もやしもん』が大ヒット!今、私達にとって、細菌はずいぶん身近な存在になった。本書では、そんな細菌が「見えない敵」として恐れられていた時代から、細菌学者達によって研究が行われる現代までの歴史を、綴っている。要点を的確に抑えており、ちょっとくだけたエピソードも挿入されているので、入門篇としては読み易いだろう。予防法が優れていたから病気にかからなかったのに、逆に「病気の原因」呼ばわりされて迫害を受けたユダヤ人のエピソードは、「思い込みの愚かさ」に対する警鐘となろう。「コロンブスがヨーロッパに持ち込んだあの細菌」についての有名なエピソードも登場する。法王アレクサンドル六世、ブランデンブルグの司教など、当時の著名人ほどこの病気にかかるというのは何ともはや…。

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佐々木康彦

評価:星3つ

 時には人間に死をもたらす恐ろしい細菌と人類との闘いの歴史を、ペストやコレラといった人類に大きな被害をもたらした16種類の細菌別にたどった作品。一冊で16種類の細菌について書かれているので、あまり深く掘り下げていない部分もありますが、ここで取り上げられている細菌は先進国に暮らす現代人にとっては馴染みのうすいものばかりなので、とても勉強になりました。疫病をもたらす細菌は天候とともに人類の歴史に大きな影響を与えてきました。そういった意味では細菌が歴史をつくったといっても過言ではないのかも知れませんね。また、細菌による感染症は、様々な差別を生む要因にもなっており、ユダヤ人が十四世紀流行したペストの原因であると迫害された結果、当時彼らに対して寛容だったドイツやポーランドなどの東国に避難し、それによりユダヤ人の大きな居留地が出来たという事実は、後のナチスによるホロコーストを考えるとあまりの皮肉さに悲しくなりました。

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島村真理

評価:星4つ

 人類と細菌は古い付き合いだ。だが、目に見えない彼らが見出され、彼らが引き起こす病気に対抗できるようになったのはそう昔ではない。ペスト、コレラ、赤痢、チフス、梅毒、破傷風……、細菌と人類の闘いの歴史をとてもわかりやすく紹介してくれているのがこの本だ。
  難しそうな内容に思えるが、細菌がもたらす症状を歴史の中から紹介し、病気にまつわるエピソードも豊富。細菌初心者の好奇心を程良く刺激してくれて、満足させられる構成になっている。病気の周囲につきものの偏見や差別、研究者同士の嫉妬までもさらりとふれられ、時々日本人(北里柴三郎など)が登場するのも確認できる。
  さまざまに苦しめられてきた長い歴史があるのに、名前は知っていても(予防接種はしたことがあっても)恐ろしさを知らないものがなんと多いことだろう。「炭疽菌」は、近年細菌テロでニュースとなって初めて聞いたぐらいだ。そして、すでに根絶されたと思っていたものが、今もまだ現役であることに驚かされた。過去の研究者の勇気と努力を垣間見える入門書としておススメしたい。

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福井雅子

評価:星4つ

 病を引き起こす細菌と人類との戦いの歴史を、病気ごとに16編にわけてつづったノンフィクション。蔓延する病の原因が目に見えない小さな細菌であるという事実にたどり着き、予防法や治療薬を見つけ出すまでの人類の戦いは、紆余曲折と数々のドラマに満ち、医学の進歩が長い年月と大きな犠牲の上にあることを改めて思い出させてくれる。そして、いま我々が正しいと信じている治療も「偏見や誤解による誤った治療法」かもしれず、私たちもまた人類対細菌の戦いを引き継いで戦い続けているのだと強く実感する。エイズや癌も「昔は怖い病気だったのよ」と語られるようになる日が早く来ないかな、とか、ひとつ病気を制圧するとまたひとつエイズのような新しい病気が出現するのはなぜだろう、などととりとめもなく考えながら読んだ。
  事実の記録として読んでもドラマに満ちた内容は十分に面白いが、いろいろなことを考える起点になるという点でも有意義な読書が楽しめる本だ。

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余湖明日香

評価:星3つ

 神による罰、悪霊のたたり、個々の堕落の結果、遺伝などと考えられていた感染症は、どのように発見され治療や予防をすることが出来るようになったのか。多くの研究者の絵や写真、当時の治療の様子を描いた絵などが多く収録されているので読みやすく、研究とは別の、感染症が流行した当時の状況やエピソードを語ったコラムが面白かった。内気で女性恐怖症の医者が聴診器を発明したという話や、ヒツジの小腸・ブタの膀胱などで作られた18世紀のコンドームは「楽しい雰囲気を醸しだすため、赤いリボンなどで飾られていた」という記述には思わず笑ってしまった。
訳者あとがきの中で、「自らの危険を顧みず、人々の救済を目的として医学の探求に没頭した研究者に対しては手放しの賛美を禁じ得ない」とある。しかし人々の救済が目的だったとしても、20世紀においてもアメリカの黒人専用病院で、梅毒の経過を観察するために治療を施されなかったことや、淋病の研究のために罪人に淋病患者の膿を接種したという事実は忘れてはならないことだと思う。
病気ごとに章が分かれて、歴史・細菌の発見・予防や治療の仕方の発展という構成になっているので、時系列で整理しにくく、同じ人物が出てきたり、同じ病気だと混同されていたものの記述が少しわかりにくいように思う。

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