コラム / 高橋良平

ポケミス狩り その11
「“Interlude ”または、ちょいと一服の巻」

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装丁・浜田稔
 1955(昭和30)年6月発行、ガードナーの"ペリイ・メイスン"物7点めの『吠える犬』の巻末をみると、収められたポケミス目録が、ずいぶん奇妙だ。

 この時点で、当初の刊行目標である100 点を数えつつあるポケミスの巻末リストといえば、既刊・未刊を問わず、101 番から整理番号順に書名・作者名(ときに訳者名)を並べているのが相場だったのだが、この目録は、なんの説明もなく、9ページにわたって計315 冊、書名がズラズラ並んでいるだけ。作者別なんだけれど、アイウエオ順ではなく、姓の原綴りのアルファベット順。なんだか、アチラのカタログから書き写している感じさえする不思議なリスト。

 そのうちに、探偵小説好きの読者ならば、これが刊行予定リストというか企画の大発表であることに気づくだろう。あるいは、「ヨソが出すかもしれないが、"世界探偵小説全集"を名のっているんだから、とりあえずツバつけとこう」気分の出版希望リスト......大風呂敷を拡げた、といったほうが良いかもしれない。カー(カーター・ディクスン)、クリスティー、クイーン、ヴァン・ダイン、"本格"4本柱は全部出すからね、という姿勢もはっきり現われている。それに、ガードナーは売れ行き一番だから、これも全部押さえとこう、てな態度もまた、ミエミエですね。

 よくよくリストを眺めれば、(作品未定)の文字が散見するものの、いわゆる"ミステリ黄金期"以前の古典ばかりか、ウォーレスやローマーらの、かつての改造社版大衆文学全集の収録作、あるいはストーカーの『ドラキュラ』もあり、いやあ賑々しい。

 よく知られているように、001 から100 番までは古典を入れる構想だったというが、これはそのサンプルだったのかもしれない。監修者の江戸川乱歩、相談役の植草甚一、編集部の田中潤司の3氏が、談論風発、ニコニコしながらこのリストを作成している様子を、思い浮かべてみるのも、愉しきかな。

 なお、以後のポケミスでの刊行の有無、訳題変更、他社による公刊などなどの註記は、マニアのお楽しみを奪ってはいけないと思い、割愛しました。

 では、リストをじっくりとご覧あれ。

★ディクスン・カー
『四つの武器』『曲った蝶番』『黒い眼鏡』『金網の問題』『恐怖を知らぬ男』『自殺』『死は逆転する』『死の別離』『囁く影』『眠れるスフィンクス』『疑惑の影』『ニューゲイトの花嫁』『九つの誤答』『三つの弾丸』『咽喉切り船長』
★カーター・ディクスン
『弓弦荘殺人事件』『黒死荘殺人事件』『修道院殺人事件』『赤後家殺人事件』『一角獣殺人事件』『道化殺人事件』『孔雀の羽』『五つの箱』『読者よ欺かるるなかれ』『エレベーターの殺人』『撮影所殺人事件』『キング・コブラ』『9+殺人=10』『百聞は一見に如かず』『鍍金男』『貴婦人の死』『青銅ランプの呪』『別れた妻達』『墓場貸します』『村の殺人鬼』『真紅のカーテン』『騎士の盃』
★レイモンド・チャンドラー
『さらば愛しきものよ』『湖中の女』『長いお別れ』
★J・ハドリ・チェイス
(作品未定)
★レスリー・チャーテリス
『セイント登場』『セイントの復讐』
★G・K・チェスタートン
『ブラウン神父の無知』『ブラウン神父の知恵』『ブラウン神父の秘密』『ブラウン神父の懐疑』『ブラウン神父の醜聞』
★ピーター・チェイニイ
(作品未定)
★アガサ・クリスティー
『スタイルス事件』『秘密の敵』『リンクスの殺人』『ポアロの探索』『茶色い服の男』『アクロイド殺し』『四天王』『青列車の殺人』『七つのダイアル』『犯罪協力者』『キン氏登場』『シッタフォードの秘密』『エンド館の危難』『十三の問題』『探偵パーカー・パイン』『空中の死』『何故エヴアンスに訊かないのか?』『A・B・C殺人事件』『メソポタミアの殺人』『死人の鏡』『物云わぬ証人』『卓上のカード』『ナイル河の殺人』『殺人ほど易しいものはない』『ポアロのクリスマス』『死のいとすぎ』『白晝の悪魔』『書斎の死体』『匿名の手紙』『五匹の小豚』『ゼロ時刻』『最後に死がやつてくる』『ヘラクレスの難事件』『愛国殺人』『NかMか』『イノック・アーデンの死』『ねじれた家』『三匹の盲目の鼠』『バグダッド秘密』『マギンティー夫人の死』『魔術の殺人』『葬儀を終えて』『知られざる行先』
★G・D・H&M・I・コール
『石切場の死』『百万長者の死』
★マニング・コール
『過ぎし日への乾杯』『明日への祝杯』
★ジョン・コリア
『緑の心』
★J・J・コニントン
『二枚の切符』『迷路の殺人』
★G・ハーマー・コックス
(作品未定)
★エドマンド・クリスピン
『動く玩具屋』
★フランシス・クレーン
『紫水晶の眼鏡』
★F・W・クロフツ
『グルート公園の殺人』『樽』『フレンチ警部の最大事件』『マギル卿最後の旅』『ヴォスパー号の失踪』『クロイドン発12時30分』『列車の死』

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『吠える犬』巻末リスト

★ガイ・カリンフォード
『幽霊は裁く』
★ロアールド・ダール
『貴方に似た人』
★エリザベス・デイリイ
『矢印の秘密』
★C・デイン&H・シムプスン
『ジョン卿再登場』
★リリアン・デ・ラ・トール
『看破者ジョンスン博士』
★ミニヨン・エバハート
『暗黒の階段』『18号室の患者』
★スタンリイ・エリン
『ニコラス街への鍵』
★ヘレン・ユーステス
『ホリゾンタル・マン』
★A・A・フェアー
『ビガー・ゼイ・カム』
★E・X・フェラース
『私は見たと蠅は云う』
★A・E・フィールディング
『イームス・アースキン事件』『停つた足音』
★J・S・フレッチャー
『ミドル・テンプルの殺人』
★ブライアン・フリン
『孔雀の眼』
★オースティン・フリーマン
『31号新館の秘密』『フルード夫人の失踪』
★ハルバート・フットナー
(作品未定)
★レスリー・フォード
『簡単な毒』
★デヴィッド・フローム
『警視廰から来た男』
★ティモシイ・フラー
『ハーバート大学の殺人』
★ジャック・フットレル
『思索機械』
★E・S・ガードナー
『短気な娘』『幸運の脚』『管理人の猫』『夢遊病者の姪』『吃りの僧正』『危險な寡婦』『掏替えられた顔』『びつこのカナリヤ』『万引きの靴』『偽証する鸚鵡』『転がる骰子』『餌の附いた鈎』『匿名社員』『憑かれた夫』『空らの罐』『溺れたあひる』『不注意な小猫』『埋めた時計』『曲った蝋燭』『寝呆けた妻』『借りられたブロンド』『ファン・ダンサーの馬』『不精な恋人』『孤独な女相続人』『怪しい花婿』『用心深い女』『投げやりな妖精』『片目の証人』『火傷した指』『齒をむくゴリラ』『煮えきらぬ女主人』『落ちつかぬ赤毛娘』『走り去った死骸』『魅力的な幽霊』『日光浴者の手帳』『D・A蝋燭を持つ』『D・A裁判に行く』
★アンドリュー・ガーヴ
『サムスン島の謎』
★アントニイ・ギルバート
『薪小屋の秘密』
★マイクル・ギルバート
『死の根』
★A・K・グリーン
『リーヴンワース事件』
★フランク・グルーバー
『フランス鍵』
★ブレット・ハリデイ
(作品未定)
★ダシエル・ハメット
『コンチネンタル・オプ』『デイン家の呪』
★ブルース・ハミルトン
『首つり判事』
★パトリック・ハミルトン
『二日醉広場』
★トーマス・ハンシュー
『40面相の男』
★シリル・ヘアー
『法の悲劇』
★F・N・ハート
『ベラミ裁判』『闇に隠る』
★ハリントン・ヘキスト
『誰が駒鳥を殺したか』
★ドロシイ・B・ヒューズ
『落ちた雀』
★リチャード・ハル
『伯母殺し』
★ファーガス・ヒューム
『二輪馬車の秘密』
★E・S・ホールディング
『レデイ・キラー』『無罪のダフ夫人』
★H・H・ホームス
『ナイン・タイムス・ナイン』『墓場行きロケット』
★フランシス・アイルズ
『殺意』
★マイクル・イネス
『ハムレット復讐せよ』
★ウイリアム・アイリッシュ
『殺人鬼のセレナーデ』『暗闇のワルツ』
★ヘンリイ・ケーン
『地獄の肘掛椅子』
★ベイナード・ケンドリック
『菫の香』
★リチャード・キヴァーン
『古物商クック』
★デイリイ・キング
『空翔ける殺人者』『大陸横断列車の殺人』
★ルーファス・キング
『時計の殺人』『緯度殺人事件』
★C・H・B・キング
『伯母の死』『伯父の死』
★ロナルド・ノックス
『消えた死体』
★ジプシー・ローズ・リー
『母、死体を発見す』
★ヒルダ・ローレンス
『雪の上の血痕』
★ガストン・ルルー
『黄色の部屋』『黒衣婦人の芳香』
★F・&R・ロックリッヂ
『ノース夫妻と殺人事件』『順序なしの殺人』
★エドガー・ラストガーテン
『不幸な女』
★フィリップ・マクドナルド
『やすり』『Xに対する逮捕状』
★ジョン・ロス・マクドナルド
『死体置場で会おう』
★ヘレン・マクロイ
『ガラスの彼方』『無辜の人』
★J・P・マーカンド
『モトさんしつかり』
★ナイオ・マーシュ
『死の序曲』『殺人鬼登場』
★A・E・W・メイスン
『薔薇の別荘』『ロードシップ・レインの家』
★ヴァン・ウィック・メイスン
(作品未定)
★マリオン・メインウェアリング
『殺人混成曲』
★マーガレット・ミラー
『目の壁』
★A・A・ミルン
『赤い家の秘密』
★グラディス・ミッチェル
『トム・ブラウンの死体』
★アーサー・モリスン
『マーティン・ヒューイット』
★L・G・オフォード
『合い鍵』
★バロネス・オルツイ
『隅の老人』
★スチュワート・パルマー
『青い小旗の謎』『ミス・ウイザースの手柄』
★エリオット・ポール
『不思議なミッキイ・フィン』
★イーデン・フィルポッツ
『赤毛のレドメイン』『守銭奴の死』『闇からの声』
★ウィリアム・ピアスン
『素晴らしきわな』
★M・D・ポースト
『アンクル・アブナー』『ムッシュー・ヨンケル』
★レイモンド・ポストゲイト
『戸口に誰か?』
★エラリー・クイーン
『ローマ帽の秘密』『フランス白粉の秘密』『ギリシャ棺の秘密』『エジプト十字架の秘密』『Xの悲劇』『Yの悲劇』『Zの悲劇』『レーン最後の事件』『アメリカ銃の秘密』『シャム兄弟の秘密』『シナ・オレンジの秘密』『途中の家』『間のドア』『因果応報』『ハートの四』『ドラゴンの歯』『災厄の町』『フォックス家殺人事件』『十日間の不思議』『ダブル・ダブル』『犯罪のカレンダー』『惡の起原』『帝王の死』『緋文字』『ガラスの村』
★パトリック・クェンティン
『毒蜘蛛』『競技者の謎』
★クレイトン・ロースン
『帽子から出た死』『首のない女』
★ジョン・ロード
『プレエド街の殺人』『パディントンの秘密』
★クレイグ・ライス
『大はずれ殺人事件』『大あたり殺人事件』『素晴らしき犯罪』『甘美なる殺人』
★M・R・ラインハート
『ドア』

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ローマー『愛國俠盗傅・惡魔博士』改造社

★サックス・ローマー
『フー・マンチュー博士』
★ドロシイ・セイヤース
『ナイン・テイラース』『広告会社の殺人』
★ロージャー・スカーレット
『エンジェル家の殺人』
★メイベル・シーリイ
『耳のある家』
★M・P・シール
『ツアレスキ侯爵』
★ジョルジュ・シメノン
『死せるギャレ氏』『男の頭』
★アンドレ・スティーマン
『六死人』『十八人の幽霊』
★ハリスン・スティーヴス
『お休みなさい、シェリフ』
★ブラム・ストーカー
『ドラキュラ』
★レックス・スタウト
『毒蛇』『ブラック・マウンテン』
★K・C・ストラーン
『足跡』
★T・S・ストリブリング
『ジャラッキ侯爵釣に行く』
★ジョセフィン・テイ
『双生児の秘密』
★P・A・テイラー
『コッド岬の惨劇』
★ローレンス・トリート
『流砂』
★アーサー・アップフィールド
『ジェリイ氏の仕事』
★S・S・ヴァン・ダイン
『ベンスン殺人事件』『グリーン殺人事件』『ドラゴン殺人事件』『カジノ殺人事件』『ガーデン殺人事件』『キドナップ殺人事件』『グレイシー・アレン殺人事件』『ウインター殺人事件』
★ピエル・ヴェリイ
『ザンジヴァールへの道』

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ウオーレス『正義の人々』改造社

★エドガー・ウォーレス
『リーダー氏の心』『正義の四人』
★カロリン・ウエルズ
『手がかり』
★パトリシア・ウェントース
『帰って来た女』
★E・L・ホワイト
『消え失せた女』
★パーシヴァル・ワイルド
『インクェスト』『ティンスレイの骨』『モラン氏の冒險』
★コーネル・ウールリッチ
『夜は千の眼を持つ』
★ジェームス・ヤッフェ
『安楽椅子のママ』

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