『ドミノin上海』恩田陸

●今回の書評担当者●精文館書店中島新町店 久田かおり

 連続テレビドラマを見続けるのが苦手だ。堪え性がなく飽きっぽいので、毎週決まった時間に少しずつ話が進むのがつらい。

 話題のドラマの第一話は嬉々として観るけれど、翌週にはうっかりすっかり観忘れてしまう。そんなときには録画が役立つ、と撮りためてはみるものの、結局観ないうちに次週で終わりとか。で、最終話くらいは観ようと思ってテレビの前に座るのだが、まぁ、知らない人がたくさん出てくるし、当然だが全く話がわからない。そりゃそうだ。

 そんなこんなで恩田陸である。初めての出会いは『六番目の小夜子』だった。しかもNHK教育テレビ(今はEテレ)の子供向けドラマだ。栗山千明が吊り上がった目と黒い長い髪で登場して話題になった。第一話のあと、気づいたら最終話。なんかこれちょっと面白かったんじゃないか、と慌てて原作を読む。ドラマとは違っていたものの納得の面白さ。 

 二度目の恩田陸は『夜のピクニック』だった。2005年の本屋大賞受賞作は高校生が24時間歩き続けるというだけの内容なのにその中にこれほどまでに濃厚で新鮮であざやかな青春を込められるのかとほれぼれとした。

 三度目は『蜜蜂と遠雷』。いや本当はこの間に何冊も読んでいるのだけど個人的な理由でこの小説は特別。2017年の本屋大賞受賞作。大賞発表の会場で実行委員のお手伝いとして恩田さんのアテンドという大役を果たした。大役といっても隣で目印の風船を持って立っていただけなのだけど、超個人的自慢のツーショット写真を持っている。

 そして、今回。『ドミノin上海』である。これが発売されると決まったとき書店員界隈がざわついた。なんと約20年ぶりの続編なのである。あの、伝説の『ドミノ』の続編だ!! アタクシもざわついた。あの伝説の『ドミノ』を読んでいないっ!! だがしかし、なんといっても20年ぶりの続編である。続編といっても別の話になっているに違いない。きっと上海を先に読んでも問題ないはず、きっと。と、書店員仲間の忠告を無視して読んだのである、続編を、先に。

 いや、もう、なんじゃこれ!というくらい面白かった、大げさでなく。全く関係のない25人と3匹が別々の場所でそれぞれの「問題」に直面しているうちに少しずつその輪が狭まっていき、ある瞬間、同じ場所で、一気に怒涛のドミノ倒しが起こるのである。読みながら、どうやってこの無関係な人々がつながっていくんだ?これ収拾つくのか?と不安になるのだが、いつの間にかドミノが一列に、あるいは枝分かれしながら、そしてクロスしながら並んでいるのに気付く。
 
 そこからはもう、一気だ。楽しい楽しい。満足して読み終わった後、おもむろに第一作『ドミノ』を開く。

 結論から言おう。忠告を聞かなかった私を許して。そしてこんなに面白い小説を文庫担当になってから自店で推してこなかった私を許して。

 よく本の感想で「コーヒー吹いた」とか「腹を抱えて笑った」というけれど、実際そこまで面白いものは少ない。けれど、自信をもって言おう。これは本当に声を出して笑う。控えめに言って「めっちゃくちゃ面白い」。

 わっさわっさと出てくる人(人以外の生き物も)全てが主人公なんて信じられるか? こんなに出てくるのに全く混乱しない。そこもすごい。個性ががしがし光る。

 大満足してドミノを倒した後、再び上海に戻る。
 最初にわからなかった人間関係がゆらゆらと立ち上る。
 そういうことだったのか! こういう関係だったのか! おおおう。二冊で三度楽しめた。

 ということでドミノ二作。超絶面白いぞ!

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精文館書店中島新町店 久田かおり
精文館書店中島新町店 久田かおり
「活字に関わる仕事がしたいっ」という情熱だけで採用されて17年目の、現在、妻母兼業の時間的書店員。経験の薄さと商品知識の少なさは気合でフォロー。小学生の時、読書感想文コンテストで「面白い本がない」と自作の童話に感想を付けて提出。先生に褒められ有頂天に。作家を夢見るが2作目でネタが尽き早々に夢破れる。次なる夢は老後の「ちっちゃな超個人的図書館あるいは売れない古本屋のオババ」。これならイケルかも、と自店で買った本がテーブルの下に塔を成す。自称「沈着冷静な頼れるお姉さま」、他称「いるだけで騒がしく見ているだけで笑える伝説製作人」。