『円卓』西加奈子

●今回の書評担当者●福岡金文堂志摩店 伊賀理江子

  • 円卓 (文春文庫 に 22-1)
  • 『円卓 (文春文庫 に 22-1)』
    西 加奈子
    文藝春秋
    517円(税込)
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切れ味抜群の言葉の乱れ撃ち。
少しでも気を抜こうものならやられてしまうこの勢い。ふと日常の中に張り詰める緊張感。
見ていないようで鋭い、こっこのその観察眼に夢中になる。
「うるさいぼけ」
「凡人が!」
こっこの毒がクセになる。

この物語は、公団住宅で三つ子の姉と両親、祖父母に愛されて暮らす「こっこ」こと渦原琴子が、日々を生きる姿を描かれている。口が悪く、偏屈で硬派な、孤独に憧れる小学三年生。こっこの日常は、不満と問題と驚きと発見に満ち満ちている。
八人暮らし渦原家の居間のテーブルは円卓だ。
そう、作品のタイトルでもある「円卓」である。
潰れた駅前の中華料理屋からもらってきた、円卓。とても大きいから居間のほとんどを占拠している。このとんでもない存在感を放つ円卓は、この家族によく似合う。

文字を、自分ひとりでこの本を読み進めているはずなのに、このにぎやかさはなんだと驚く。
決して不快ではないこの騒がしさ。西加奈子さんの文章は、声や周りの会話が聞こえてくる。
その場所の空気がそのまま伝わってくるようだ。逞しい言葉が飛び交うなかで物語はぐんぐん進む。

こっこは、ある日ものもらいにより眼帯をしてきた香田めぐみさんに憧れる。初めて知る病気、そして白くて格好いい「がんたい」。
こっこは、ベトナムからボートで日本へ来た両親を持つゴックんの生い立ちの「ドラマティック」さに眩暈を覚える。こっこは、なんというか色々複雑な家庭のちゅーやんのことを羨む。こっこは、新生児のときからの幼馴染ぽっさんの吃音に、その話し方に心底憧れている。

周りの人間の特別さに敏感になる時期、というのがある。(しかしこっこはさらに独特だ)
憧れ、羨み、自分と見比べて自分の平凡さに退屈になる。そういう時期が、確かにあった。比べることなど出来ないのだと、ずいぶん後から気付くものだ。
個性的な登場人物ばかりだが、こっこの周りの世界がユニークなのではない。
おそらく、私たちはユニークな現実世界に生きている。当事者すぎて面白がれていないだけだ。 ・・たぶん。

思春期よりも少し手前の、自分の感情がうまく言葉に出来ないこの時期の、このこっこが愛おしい。初めて出会うことに驚き、考え、咀嚼し成長する。
テンポの良い会話と、作品のエネルギーに押されてぐいぐい読んでしまう。
からだを突き破って湧き出るような、抑えきれなくて爆発するような物語だった。

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福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
福岡県糸島市在住。2020年福岡金文堂志摩店入社。2022年頃から文芸文庫担当。夫がひとり娘がひとりの3人家族。江國香織が好き。大好き。ミステリやコワいものグロいものも大好物。整体ですべての筋肉が眠っていると言われたことがある。だからかよくつまづく。いろんな意味で。