『彗星交叉点』穂村弘
●今回の書評担当者●福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
穂村さんのエッセイが好きで頻繁に手に取る。読み漁っていた時期もある。
そしてやっぱり噴き出してしまう。
とんでもなくユニークなのだ。
家族との普段の会話や、街中にあるお店の張り紙、友人とのメール、日常で耳に入ってきた会話など、取りこぼしてしまいそうな言葉を丁寧に掬い上げる。
言葉を拾ったら考察する。
独特の思考回路がなんとも愛おしい。
この言葉を使わずに表現したかったのだが諦める。穂村弘は天才だ。
彼の考え方は、距離を持ちつつ優しくて、ひとを尊重している。
それを感じるから安心して読み進められる。
『眩しい言葉』というタイトルのなかでは(『眩しい』に『言葉』、、、!こういう組み合わせの唐突さに私はいちいち痺れてしまう)、小学生や、小さな子供の発する言葉に感心している。
子供たち特有の世界にからだごとぶつかるような感覚、人間歴数年での経験から生まれた持論、はっとするような光る表現を見る。
かつては全員子供だったはずなのに、知識が増えると純粋な驚きが減ってしまう。
驚き続けたいのに。もっと新鮮に世の中を味わいたいのに。
私自身忘れかけていたけれど強烈に思い出したことがある。
私の娘がまだ小さかった頃のある日「ままいいにおい~」とくっついてきた。小さな子供のいる日常でよくある光景だ。
「ままのにおいすき。かまぼこのにおい。」
......たまげた。
予想外の単語に心が震えた。
「石鹸や洗剤、または美味しそうなお料理系のにおい」がくると想像した自分を恥じた。
穂村さんのエッセイを読んでいると、しまい込んだ思い出が溢れ出てくる。
誰に言うわけでもないけれど、ちょっと面白かったこと、いまだに解せぬと感じていること、好きだった習慣などなど。
穂村さんのエピソードと自分のなかにある思い出がリンクして、ふふっと笑える。
なんとも穏やかで心地よい時間が流れる。
私なんぞの言葉では穂村さんのエッセイの素晴らしさの2%も伝えられない。
なので、書店で手に取ってみてほしい。
そして噴き出して笑い、しみじみと思いを巡らせ、言葉のちからを噛みしめてほしい。
彼の言葉の組み合わせは異次元だ。単語の、日本語の奥深さを毎度思い知る。
そして読み終わる頃には、いいなあ日本語いいなあ好きだなあと、ほくほくするのだ。
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- 福岡金文堂志摩店 伊賀理江子
- 福岡県糸島市在住。2020年福岡金文堂志摩店入社。2022年頃から文芸文庫担当。夫がひとり娘がひとりの3人家族。江國香織が好き。大好き。ミステリやコワいものグロいものも大好物。整体ですべての筋肉が眠っていると言われたことがある。だからかよくつまづく。いろんな意味で。