『いたいいたいはとんでいけ』松谷みよ子
●今回の書評担当者●岡本書店恵庭店 南聡子
今月から1年間書評を書かせていただくことになりました、北海道の岡本書店 恵庭店の南聡子です。1年と言う短い期間ですがどうぞよろしくお願いいたします。
早速ですが、1冊目は私が生まれて初めて「本を楽しんだ」という経験をさせてもらった本について書きたいと思います。
表題の本で『いたいいたいはとんでいけ』、松谷みよ子さんの絵本で、絵は佐野洋子さんがお描きになってます。
この本は私がまだ幼稚園児くらいの時に母に買い与えられたもので、かなり年季が入っておりますがまだ手元にあります。
松谷みよ子さんの童謡のように語呂の良い言葉と、佐野さんの水彩画で描かれた優しい絵がとても素晴らしい絵本です。
この本の何が私を夢中にさせたのかというと、一言で「むっちゃんの泣き顔」です。
転んでお膝を擦りむいたむっちゃんが「あん あん あん」と泣くのですが、その泣き顔が幼少の私にはものすごく恐ろしかったのです。
「これがユウレイか!」と。当時の私は幽霊とは「うらめしや~」と泣くものと思い込んでいました。
でもそこはやっぱり子供なもんで、怖いもの見たさが勝るものです。
2つ年下の妹と直前のページで覚悟を決めてから、ぱらり、「きゃーーー」一目散に逃げるという遊びを飽きもせず繰り返したものです。
おまじないで「いたいのいたいのとんでいけー」という言葉があります。
それのむっちゃんバージョン(うさぎバージョン?)みたいな内容です。
泣いてるむっちゃんのお膝の痛みをむこうのお山のうさぎさんが寝具にしてしまい、
むっちゃんに笑顔が戻る。
......なぜ寝具!?
でもよく考えてみると寝具は幼児にとても身近なものです。
ピーナッツのライナスのように片時も離さないお気に入りの毛布やタオルケットがあるよっていう子もいるでしょう。
転んだ時にたいして痛くは無いけどびっくりしてしまい泣いてしまう子は、「うさぎさんがいたいのをお布団にしちゃったよ。ほら痛くないよ。」で泣き止んでしまうかも。
うーーーん、さすが松谷みよ子さん。奥が深いのである。
当時の私は買い与えられたお気に入りの絵本にはほぼ描き込み(いたずら書き)をしておりましたが、この絵本には、最初のページにオレンジ色の色鉛筆で「むっちゃん」という拙い文字と、その隣のページのむっちゃんの絵にドラアグクイーンのようなド派手なメイクと頭に大きなリボンと大きなお花が描かれているだけ。
多分むっちゃんの泣き顔のページが怖すぎて、この本にずっと触っていられなかったのだと思います。
当時の母は私たち姉妹に絵本をふんだんに買い与えてくれておりました。
絵本に書き込みをしても怒らず、今でも書店に並んでいるような名作絵本が私の周りにはたくさんありました。
それが今の私の本好きの原点であると思います。
さて時は経ち、大人になった私です。
子供の頃に恐怖の対象であった色褪せシミだらけのこの絵本は、今では宝物です。
まさかこの本が幼少時代の私の心に一番刺さるとは、母は思いもよらなかったかもしれません。
どんな本に夢中になるかはその人次第。
それも本の面白いところだと思います。
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- 岡本書店恵庭店 南聡子
- 大学生の時にアガサ・クリスティを読破、そこから根っからのミステリー好きに。読書以外ではハンドメイドと和装、テレビゲームが趣味。お店では手書きPOPを日々せっせと作っています。色んな本に出会える書店員になってよかったと思う今日この頃です。