『そして生活はつづく』星野源
●今回の書評担当者●明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
ふむ、エイプリルフールはとっくに過ぎているよな。
とても嬉しいお誘いをいただいたある日のお昼頃、職場の休憩室でスマホを片手にざっと周りを見渡した。これは世界中が私に仕掛けた盛大なドッキリなのではないだろうか。
まさか私が連載に参加させてもらえる日が来るなんて、人生何が起こるか分からない。
叫びたい気持ちをぐっとこらえて仕事に専念する。
精神衛生面爆上がりなのを微塵も感じさせることなくいつも通りの生活を生きている。
勤務中、店内の隅っこでぶつけた膝を抱えてうずくまっている私が小さく悪態をついたのはご愛嬌ということにしてほしい。
あぁ、よかった。痛みがある、これは夢じゃない。
「何かお薦めの本はありますか?」
お客様からお問い合わせを受けるたびに私が必ずお薦めするのが、星野源さんの初エッセイ集『そして生活はつづく』(文春文庫)。
星野さんのクスリと笑ってしまう日常の一コマに笑みがこぼれたり、家族の愛に触れたり、ほろりと涙を流したりと誰にでもある生活がより愛おしく思える一冊。
特に、ようこちゃんこと星野さんのお母様のエピソードが綴られた【子育てはつづく】が大好きで、我が家の暗黒期はこのエピソードに救われたといっても過言ではない。
当時毎日モヤモヤしていた私には誰のどんな言葉よりも心にしっくりくるものがあった。
毎日ぶっ飛んだ発言をして星野さんを驚かせていたようこちゃんと、毎回ようこちゃんの盛大な劇場型ドッキリに騙されていた星野さん。
学校から帰ってくるたびに暗くなっていく星野さんに無理に頑張れと言うのではなく、せめて家の中だけでは楽しくいてもらおうと思って色々したとのこと。
この章を読んだ時にようこちゃんのように家の中を最高に楽しい場にできるのは我が家で私しかいないじゃないか。それよりも、毎日嫌でも生活は続いて行く。立ち止まっている暇はないと、モヤモヤを即心の焼却炉に放り込んだ。
悲しくても辛くても生活は待ってくれない、日々続いていくものをいかにおもしろおかしく過ごすのかが大切なのではないだろうか。
花丸百点満点な日もそうじゃない日もひっくるめての日々の生活を積み重ねての人生だ。
「兄貴、本日もお疲れ様です。いってらっしゃいませ」夫の出勤時、たまに舎弟のように見送ってみる。
「母ちゃんには内緒だぞ?」とゴミ捨てに行く夫に追加の小さなゴミをそっと握らせる。
夫の実家で大変美味しいご馳走をいただいた時に「あー!結婚してよかったー!!」と大袈裟に喜んだりしているが、事実、夫と日々の生活を積み重ねていけるのが最大の喜びである。
これから1年間、この連載も私の大切な生活の一部になる。
大変喜ばしいことであると共に責任重大だ。
一年間、人2倍頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします。
SNSで絵描き歌のコックさんのアイコンで日々どうしようもないことを言っている私の、少しだけちゃんとした生活の一部をこれから大切にしていこう。
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- 明林堂書店ゆめタウン大竹店 船川梨花
- 山口県岩国市育ち。13日の金曜日生まれの宿命かホラー好き、読むのはお昼派。ジャンル問わず気になった作品は何でも読みたい欲張り体質。本を読む時に相関図を書くのが密かなマイブーム。