『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』室井昌也、谷田貝哲
●今回の書評担当者●HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
こんにちは。沖縄におります中目と申します。これから1年間担当いたします。よろしくお願いします。
生まれてから大阪を離れたことがなかったのですが、思いがけず沖縄の店舗へ異動となり3年半が経ちました。最初は見るもの聞くものすべてが新鮮で、日々驚きに満ちていました。しかし段々と慣れはじめ、今となっては我ながらずいぶんと落ち着いたように感じます。
沖縄の海は本当にきれいで、ずっと眺めていても飽きることがありません。今でも見るたびに感動する美しさで、晴れた休日にはちょっと海でも眺めに行きたくなります。そんなときには路線バスに乗り、30分ほど揺られたらビーチに着いて、アイスコーヒーなんかを飲みながら海を眺めるのが楽しみです。
『沖縄の路線バス おでかけガイドブック』は、沖縄県内の路線バスの乗り方やルートを乗客目線で解説したガイドブックです。これは路線バスを普段使いする者としては待望の1冊なのです。
まず思い浮かぶ疑問として「県内のバス路線ガイドだけで1冊の本になるのか」と思われるでしょうが、私は逆に「よく1冊にまとまったな」と思いました。膨大で複雑なルートを、持ち運びできるサイズの本に収められたのは著者の大変な労力の賜物です。
そして特に出版業界の方は「これって売れるの?」と思われるでしょう。はい、売れてます。沖縄県内の書店ランキングの常連です。2023年に沖縄版の本屋大賞といえる「沖縄書店大賞」の沖縄部門で大賞を受賞しました。県内の書店員の投票によって選ばれる賞であり、この本は書店の現場からも支持を集めているのです。
この本がここまで注目されるのには沖縄特有の事情があります。
沖縄は全国で唯一鉄道のない県で、その理由は様々ありますが「日本復帰」から50年を経ても県内の主要な交通手段は自動車であり続けています。モノレールはありますが路線距離は山手線の約半分しかなく、県全体をカバーすることはできません。そこで、主要な公共交通機関となっているのが路線バスです。路線バスのルートは、まるで人体における毛細血管のように県内にこまかく張り巡らされています。しかし全体を把握するのは難しい状態でした。それをこの本が解決したのです。
観光客はもちろん、学生、高齢者、妊娠中の方など多くの人に頼られる沖縄のバスは、もはやひとつの文化といっていいほどに深化してきました。沖縄=車移動のイメージがありますが、レンタカーがなくても沖縄の魅力を十分に味わうことができます。この本を機に沖縄の路線バスに興味を持っていただけたら嬉しく思います。
ここから私の推し路線である「120番」について本気で語りたかったのですが文字数が尽きてしまいました。2時間30分かけて104の停留所を走り抜ける120番の路線図を初めて見たときは言葉が出ませんでしたが、またいつかの機会にしましょう。
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- HMV&BOOKS OKINAWA 中目太郎
- 大阪生まれ、沖縄在住。2006年から書店勤務。HMV&BOOKSには2019年から勤務。今の担当ジャンルは「本全般」で、広く浅く見ています。学生時代に筒井康隆全集を読破して、それ以降は縁がある本をこだわりなく読んでみるスタイルです。確固たる猫派。