『ノラネコぐんだん パンこうじょう』工藤ノリコ
●今回の書評担当者●文信堂書店長岡店 實山美穂
子どもの頃好きだった絵本と言われると、『ぐりとぐら』『あおくんときいろちゃん』『ねずみくんのチョッキ』など数々のタイトルを思い浮かべます。しかし、大人になるにつれ、大抵は絵本とは縁がなくなっていくものです。
仕事柄、絵本に触れる機会が多く、定番・新作絵本でも気になるものがあれば、目を通します。その中でハマってしまった絵本のひとつが、この『ノラネコぐんだん パンこうじょう』です。
丸くて黄色のネコらしき生き物(しっぽがないので、ネコではなく、ノラネコという生き物だと認識しています)がずらりと並んだこの表紙。何を企んでいるのか、不気味に思うかもしれません。私は第6回MOE絵本屋さん大賞2013で第4位となったこの作品の、表紙に一目ぼれしてしまいました。
ストーリーは、パン工場をのぞき見(絶対に怪しい)して、パンを自分たちでも作ってみたくなったノラネコぐんだんが、夜、工場に忍びこんで(ほっかむりして)、勝手にパンを作り、窯と工場を爆発させ、工場主のワンワンちゃんに怒られます。その後罰として、労働させられるというオチもあります。
名物は、正座して怒られるシーン。
"あなたたちは よなかにしのびこんで こんなことをして いいとおもってるんですか"
"いいとおもってません"
"ニャー"
"では、わるいことをしたとおもっていますか"
"おもいます"
"ニャーニャー"
"よろしい。それじゃこれからしごとをしてもらいます"
その後、ノラネコたちが勝手に作った大きなパンでパン祭りが開かれますが、それが成功したら終わり、ではありません。壊れた工場をノラネコぐんだんは作らなくてはなりません。
この作品のすごいところは、「悪いことをしたら謝りましょう」などとは言わない。自分のしでかしたことは、責任もって落とし前つけなさい。そうでなければ、やるな!ということ。
ノラネコぐんだんは、工場を建て直す技術も能力も持っているのに、それを活かした何かをするわけではない。パンを作りたいから、工場に忍びこむ、というシンプルなことしかやっていない。なんて自由な生き物なのか。私には工場を建て直す技術など持ち合わせてはいませんが、ノラネコぐんだんに入れてほしい。弟子入りしたいとさえ思っています。こんなヒーロー(ヒールかも?)がいたっていいじゃないか。
このノラネコぐんだんにハマった人(子どもだけじゃないはず)が全国で続出したおかげで、今やシリーズは5作。10月に発売される『ノラネコぐんだん おばけのやま』で6作目になります。ほかにも『ノラネコぐんだん あいうえお』や『ノラネコぐんだん かるた』、長編読み物の『ノラネコぐんだんと海の果ての怪物』も出ています。今からでも間に合うので、たっぷり楽しんでください。
- 『崖の館』佐々木丸美 (2018年9月13日更新)
- 『完璧な涙』神林長平 (2018年8月9日更新)
- 『負ける技術』カレー沢薫 (2018年7月12日更新)
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- 文信堂書店長岡店 實山美穂
- 長岡生まれの、長岡育ち。大学時代を仙台で過ごす。 主成分は、本・テレビ・猫で構成。おやつを与えて、風通しの良い場所で昼寝させるとよく育ちます。 読書が趣味であることを黙ったまま、2003年文信堂書店にもぐりこみ、2009年より、文芸書・ビジネス書担当に。 二階堂奥歯『八本脚の蝶』(ポプラ社)を布教活動中。