『バッタを倒しにアフリカへ』前野ウルド浩太郎
●今回の書評担当者●田村書店吹田さんくす店 渡部彩翔
幼少期からファーブルに憧れて、バッタに喰われる夢に一心不乱になる研究者のお話。
見知らぬ土地で、一文無しになってもバッタの研究で生活していく夢を追い続けた先に得たものとは......。
研究者の話っていうから難しそうだし、私は虫が大嫌いだから全く興味がなかったのに、「変態好きやん! 読んでみて! めちゃくちゃ面白いから!!」と強く、そして何度もお勧めされて1年越しにようやく手にとった1冊。※ここでいう変態は、『変態的に何かを強く愛している人、それに強く情熱を傾けている人』を表しています。
まず装丁の写真を見て、最後まで読めるか不安と抵抗を覚えました。
が、しかし、読み始めたが最後。
何これ、めちゃくちゃ面白い。
変態的で執拗な、変質者的な濃厚なバッタへの愛が溢れて止まらないのが伝わってきます。
執念深いバッタへの熱意。ここまでくると著者をたまらなく好きになってしまうし、尊敬せずにはいられません。
ユーモアのある冗談と言い回しに不意を突かれてクスクスしてしまい、時々見せる精一杯のかっこつけ方には絶妙に共感してしまうダサさがあって、思わずニヤニヤしてしまいます。
そして何より言語の壁へのぶつかり方が最高に面白かったです。
車がファティゲ、頭がファティゲ、ボクファティゲは笑わずに読めません。
サソリに刺されたときの対処方法も不安すぎて笑ってしまいます。
自分ごとだと絶対に笑えないのですが、漫画の主人公を見ているように『この人なら絶対に大丈夫』『この苦難にどう立ち向かうのか楽しみ』と、安心感をもって読めました。
「この人だったら」と思わせる力がある強烈な魅力の持ち主です。
そして何一つ中途半端を見せず振り切っています。
気持ち悪いも、怖いも、不安も、振り切っているからこそ笑えてしまう凄さがあります。
頭の良い人が真剣に変なことをしている。丁寧に真面目に狂っていて面白い。
虫が大嫌いなのに、サバクトビバッタの生態にどんどん詳しくなっていく。
普段であれば虫の写真が掲載されている本を触ることすら苦手なのですが、『前野さんが可愛がっていたのってこの虫なんだ。』と思わず興味をもってしまいます。
大好きなものに一心不乱になって追いかける姿勢は、冷静に見るとすごくクレイジーだけど、ついその先が気になってしまいます。
人の夢に、夢を見てしまう。
人が何かについて熱く語るとき、たとえそれが私の嫌いなもの、苦手なものであったとしても、その人の熱量や愛情に魅せられて、つい好きになってしまうことがあります。
私はその瞬間が大好きです。
また、著者の物事の捉え方がとにかく前向きで、その姿勢に学ぶ点が多かったです。
不運が続いても、切り替えが上手。どんな出来事でも楽しませてくれます。
縁も運も味方につける人の素敵な思考を知りました。
著者の名前の「ウルド」の由来にも頷けます。
明日が来るのがこんなに楽しそうで待ち遠しそうな人は見ていて楽しく、ワクワクさせられます。
背表紙の風の谷のナウシカのオマージュシーンまでいくと、感動と面白さが同時にこみ上げました。
4月には新刊「バッタを倒すぜアフリカで」も発売されました。
その帯には『自分の婚活より バッタの婚活』の文字。
本書と新刊、2冊とも笑わずに読めた人がいたら是非教えてください。
- 『愛を伝える5つの方法』ゲーリー・チャップマン (2024年6月20日更新)
- 『ミシンの見る夢』ビアンカ・ピッツォルノ (2024年5月23日更新)
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- 田村書店吹田さんくす店 渡部彩翔
- 田村書店吹田さんくす店に勤務して3年弱。主に実用書・学参の担当です。夫と読書をこよなく愛しています。結婚後、夫について渡米。英語漬けの2年を経て、日本の活字に飢えに飢えてこれまで以上に本が大好きになりました。小さい頃から、「ロッタちゃん」や「おおきな木」といった海外作家さんの本を読むのが好きです。今年の本屋大賞では『存在のすべてを』で泣きすぎて嗚咽しました。