4月14日(木)とても愉しい映画の話

 よしだまさし『懐旧的香港電影妄想譚 新・君の夢で逢おう』に、「九三沖天大火災」(タワーリング・インフェルノ93)という映画製作に関するレポートが載っている。

 この大作映画、スティーヴ・マックイーンが主演した1974年の「タワーリング・インフェルノ」のリメイクを作りたい、とブルース・ウィリスが企画したものであった。その「タワーリング・インフェルノ1990」は、トム・クルーズを相手役に確保したところまでは順調だったが、制作費確保の目処がつかず、結局は製作中止。

 この企画に、一時は日本の勝新太郎も意欲を示したが、やはり制作費の問題で棚上げ。次に登場するのが、ジャッキー・チェン。ここで「タワーリング・シンフェルノ1990」は、「九三沖天大火災」となる。ゴールデン・ハーベストに話をもちかけて了解を得ると、特殊撮影から撮影を開始。その特殊撮影に平行してキャスティングが進んでいく。サモ・ハン・キンポー、ユン・ピョウなどがすぐに決まるが(他にも、フェイ・ダナウェイが演じた役をサリー・イップ、あとはアンディ・ラウにレスリー・チェンなど、香港映画のオールキャストだ)、いちばんは、1974年版でポール・ニューマンが演じた建築家を誰が演じるのかということだ。当初から大物俳優Xの名前が上がっていたが、その大物俳優とゴールデン・ハーベストには接点がなく、香港映画の最終兵器ともいうべきジャッキー・チェンとの組み合わせは無理かと思われた。だが、ついにその大物俳優が出演を許諾。チョウ・ユンファだ。公開は香港・日本同時で、1992年クリスマスと決まったのである。

 ところが、撮影中の事故により撮影スケジュールが大幅にずれ、そのうちに日本側のスポンサーが撤退。バブルが弾けて日本の好景気は終了したのだった。

 結局、三年以上の月日をかけたこの映画は製作中止。撮影された三時間以上のラッシュフィルムは倉庫におさめられたまま二度と日の目を見ることはなかった。

 という映画製作のレポートが載ったのは、香港映画の同人誌「電影風雲」で、上記のレポートが載ったのは1993年。『懐旧的香港電影妄想譚 新・君の夢で逢おう』のあとがきによると、この「電影風雲」が出たあとで、「映画芸術」誌に「こんな話があったとは知らなかった」と書かれるに及び、「ごめん、全部嘘でした」と白状したとの経緯があるという。こういう妄想譚を、当時の「電影風雲」に不定期に連載していて、今回はそれを1冊にまとめたと、よしだまさしはそのあとがきで書いている。

 なぜ「新」が付くのかというと、札幌の映画雑誌「バンザイまがじん」に「君の夢で逢おう」という名物連載があり、で、「新」を付けたというのだが、その本家本元の連載はのちに宝島社から単行本になっていると書いてあったので、調べてみると、ばか高くて買えません。読みたいけどなあ。

 よしだまさしさんの『懐旧的香港電影妄想譚 新・君の夢で逢おう』(A5版120ページ)は送料込み1000円で買えます。関心のある方は検索してみてください。

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