芥川賞・直木賞贈呈式レポート

文=大森望

 8月20日午後6時から、東京・丸の内の東京會舘で第143回芥川賞・直木賞の贈呈式が開催された。
 芥川賞受賞作は、『アンネの日記』を題材にした赤染晶子さんの『乙女の密告』。選考委員を代表して挨拶した池澤夏樹氏は、「今回は議論が白熱した、大変いい選考だった。受賞作が"感じる小説"ではなく"考える小説"だったからだと思う」と選考経過についてコメントした。
 受賞者の赤染さんは、アンネと同じ強制収容所にいたラーヒェル・ファン・アメロンヘンが残した、「こんなことはアンネは望んでいなかった」という言葉が、『乙女の密告』を書くきっかけのひとつになったと語る。戦後、アンネの隠れ家を訪ねたアメロンヘンは、パチパチ写真を撮る人々(とくに日本人観光客)の姿に強い違和感を覚え、ノートにそう書き記したのだという。「いま現在、アメロンヘンの言葉は私自身に突き刺さっています。『こんなことはアンネは望んでいなかった』。私はこれからもユーモアとともに文学に携わっていくつもりですが、このアメロンヘンの言葉を一生背負っていきたいと思います」
 一方、『小さいおうち』で直木賞を受賞した中島京子さんは、「(受賞の会見を終えたあと)受賞で相当舞い上がっていたようで、ハロルド・ホッターフィールドというイギリス人の作家がが今回の直木賞を獲ったという夢を見ました(笑)。夢の中では『ハロルドは人気作家だからしかたないわ』と思っていて、『でも私が獲ったと思ったのは何だったのか。二作同時受賞だったのかしら』と悩んでいました」と場内の笑いを誘った。

(大森望)

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