【今週はこれを読め! エンタメ編】最もキケンな1冊が復刊!〜氷室冴子『少女小説家は死なない!』

文=高頭佐和子

  • 少女小説家は死なない! (集英社オレンジ文庫)
  • 『少女小説家は死なない! (集英社オレンジ文庫)』
    氷室 冴子,やべ さわこ
    集英社
    847円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

 おおお、懐かしい!と思わず声に出してしまった。80年代に刊行されたコバルト文庫の異色コメディ小説が、復刊されたのである。少女向け文庫レーベルとして多数の人気作家を生み出してきたコバルトだが、紙の書籍としては既に新刊の発行を停止している。とはいえ、web上には今も存在していて電子書籍の刊行も行なっており、今年で50周年なのだそうだ。氷室冴子氏とコバルトに対する愛を書き始めたら多分1万字くらい費やしてしまいそうなのでやめておくけど......。数ある名作の中で、最もキケンと思われるこの1冊を記念イヤーに復刊するセンスが愉快で、ニヤニヤしてしまう。

 北海道の温泉町で育った米子は、東京の大学に進学したばかりだ。土地成金の親(時代を感じるわね)のおかげで懐は温かい。2LDKのマンションで、ひとり暮らしを楽しもうとしていたのだが、狂暴なモンスター小説家に急襲されるのである。

 火村彩子センセは、少女向け小説誌『月刊Jr.ノベルス』の新人賞で佳作をとった小説家だ。ひょんなことから雑誌を手にした米子は、地元が同じ北海道の若い女性作家に親近感を持ち、手紙を書いたことがあった。それは確かなのだが、別にファンというわけではないし、会ったこともない。なのに彩子センセは、ここに居候して小説を書くと主張する。

 それは、いくらなんでも図々しすぎる。っていうかヤバすぎる。さすがに米子も拒否するのだが、初恋のことなどを打ち明けた小っ恥ずかしい手紙を公表すると脅され、あっさり広い方の部屋を奪われてしまうのだった......。

 原稿がボツになれば怒号をあげて電話機を床に叩きつけ、襖を突き破る狂暴な彩子センセ。その小説は、本人曰く格調高いファンタジーだが、ご都合主義と冗長な表現が目立ち、ツッコミどころ満載である。一刻も早くひとり暮らしに戻りたい米子は、センセをおだてつつ執筆環境も整え、編集部への訪問にも付き合うのだが、さらなるトラブルに巻き込まれてしまう。

 連載枠を巡って彩子センセと競うことになる4人のライバル作家たちが、これまた強烈なのである。真っ当に執筆をがんばって勝ち取ればいいんじゃないかと思うが、彼らはとんでもない手口で敵を潰すことに情熱を傾ける。

 美少年と美青年が登場するネチっこい殺人描写小説(マニアなファンがつきそうだ)を書く策略家の富士奈見子は、暴力的な彩子センセとはいい勝負である。互いに口も手も出まくるバトルは、毒気たっぷりでスリリングだ。名門お嬢様女子校出身の美人作家・都エリは、ハートマークが飛びまくる「ルンルンポルノ小説」を書いているのだが、上品な口調で次々に恐ろしい発言をして米子を(そして純真な読者の少女たちを)怯えさせる。超危険な武器を片手にライバル宅に乗り込んでくるシーンは最高にインパクトがあり、思わず拍手をしそうに......。そんな具合で、全員が村山由佳氏『PRIZE−プライズ−』(文藝春秋)に登場する天羽カイン先生(直木賞どうしてもほしい作家)もびっくりのモンスターぶりなのである。

 この小説はもちろんフィクションだ(と思う)けれど、国民的コミック雑誌などの華々しい出世コースから外れ、個性的すぎる作家たちに振り回される編集者たちのぼやきは、やけにリアルだと思うのは私だけだろうか。それぞれ作家の小説に対して辛辣かつ的確な感想をコソッと吐きつつ、彩子センセを励まして原稿に向かわせる米子は、編集者に向いている気がする。卒業後は故郷に戻らず、ぜひ出版社に就職してほしい。(本人は嫌だと思うけどね)

 時代の変化を感じるところもいろいろあるけれど、面白いものは何十年経っても色褪せず、読者を楽しませてくれるんだなあと嬉しい気持ちだ。著者と同時代に活躍した久美沙織氏の解説にも、胸が熱くなる。

 氷室センセが亡くなってから、もう18年も経つ。まだお元気でいてほしかったな。大人になった私たちにも、書いてほしかった。最後には、ちょっと切ない気持ちになってしまう元コバルト読者であった。

(高頭佐和子)

« 前の記事高頭佐和子TOPバックナンバー