【今週はこれを読め! エンタメ編】鈴木るりか『江崎クリーニング店の娘』がめっちゃいい!
文=高頭佐和子
鈴木るりか氏が『さよなら、田中さん』(小学館)でデビューし、中学生作家として注目を集めたのは、2017年のことだ。以来、定期的に新刊を刊行しながら、順調に進学していると聞いていたが、ついに大学を卒業したのだという。時が経つのは早いなあ。
あまりに若くしてベストセラー作家となった著者だが、一作追うごとにその個性を熟成させてきた。卒業後初めてのこの作品は、老若男女さまざまな登場人物の悲喜こもごもを描いた短編集である。読むたびに「好きだわー」としみじみ思ってきたが、これは......めっちゃいいではないですか!
「帰る家」の主人公・紅美は、財布を拾ったことがきっかけで、上品な中年女性・藤子と知り合う。紅美は高校を卒業して以来9年間、会社の寮に住んでいる。早くに両親を亡くし、義母はいるものの帰れる実家はない。3年前に夫を亡くして以来、広い一軒家にひとりで暮らしているという藤子だが、病気で亡くなった娘がおり、生きていれば紅美と同じくらいの年齢なのだという。母親のように接してくれる藤子を紅美も慕うようになり、一緒に過ごす時間が増えていくが......。
心温まるいい話なんだな、とたいていの人は思うだろう。だが、そのムードのままで話を終わらせないのが、鈴木るりかという作家だ。ためらいつつも、自分の居場所があるという幸福に身を任せようとしていた紅美の前に、予想外の人物が現れる。
主人公たちは皆、ささやかな幸福や心の安定を求める平凡な人物だ、周囲の人々も基本的には善良な人ばかりで、悪意に満ちているような人物は登場しない。だが、小さな喜びに心を浮き立たせる彼らの前には、意外な展開が待っている。思い通りにいかない人生の滑稽さと切なさが、淡々と描かれていく。
最も愉快だったのは、「裸の王様」である。コロナ禍で日光浴に目覚め、家族のいない家で全裸で過ごすことに喜びを覚えた中年男性が主人公なのだが、丁寧な心理描写と起きる出来事の情けなさのバランスが絶妙だ。電車の中で笑いを堪えるのにこんなに必死になったのは、(作風は全く違うが)岸本佐知子氏のエッセイ以来かも。昭和アイドルが好きな方には、アイドルのオーディションを一緒に受けた二人の少女のその後を描いた「渦」がおすすめだ。そして、気軽に打ち明けられない悲しみを抱えている人には、心配性の女性の心のうちを描いた「杞憂同盟」と、ある理由から旅行嫌いになった主人公が登場する「遠くへ行きたくない」を読んでほしい。唯一無二の個性を持つ作家のこれからの活躍が楽しみである。
(高頭佐和子)


