【今週はこれを読め! エンタメ編】心がざわつく短編集〜凪良ゆう『多類婚姻譚』
文=高頭佐和子
結婚をテーマにした連作短編集。
今の私にとっては、「そういうのはもういいかな」とスルーしたくなる説明である。すぐに読まずにはいられなかったのは、もちろん著者が凪良ゆう氏だからだ。何か予想外のことが起きそうな題名も気にかかっていたが、読み進めるほどに心がざわつく1冊だった。
属性の違う5人の主人公が登場する。
大手食品会社で課長に昇進した38歳の華。会社では愛想良く振る舞いうまく立ち回っているが、職場の人や家族に言えない秘密がある。紹介しづらい同棲相手を、ついに故郷に連れていくことになるが......。
丁寧な暮らしをSNSにアップしている27歳の派遣社員・花織。仕事ぶりは上司にも認められているが、キャリアを積むことより結婚に対する願望が強い。正社員の恋人に自分との未来を考えてもらうために努力をしているが、それには切実な理由がある。
夫の不倫相手に子どもができたことがきっかけで、16年の結婚生活に終止符を打ち、実家の書店を継ぐことにした一葉。会社を休職中で帰郷している初恋相手に再会し、徐々に親しくなっていく。店を新装開店したその日に、元夫から連絡が来る。
食品会社の宣伝部で働く律。同じ会社に勤める恋人がいて、結婚の約束をしている。いつからか、何かをいう時には誤解をされないように言葉を選ぶようになっており、順調だった彼女との関係にも、苦しさを覚えるようになっている。
有名レストランの支店を任されているベテランシェフの祥子。いつでも独立できる実力があるのにそうしないのは、オーナーシェフと不倫関係にあるからだ。恋にも仕事にも満足していたはずが、野心的で自由な若手の行動がきっかけとなり、バランスが崩れ始める。
自分に近い考えを持っていたり、似通った属性の人物に共感できるのではないかと思っていたが、全くそうではなかった。むしろ自分とは違う立場の人物の言葉や選択が鋭く刺さり、予想とは違う展開をする物語に自分の中にある思い込みや偏見を顕にされる。どれだけ気をつけているつもりでも、他人の痛みや苦しさに人は鈍感で、自分の痛みには敏感であることを、自覚せずにはいられなくなってくる。
私が子どもの頃と比べたら、人生の選択肢は確実に増えたのだと思う。それでも、生きづらさから解放されることはこんなに難しい。価値観が大きく変わっていく時代の中で、戸惑ったり失敗したり、苦しかったことのある全ての人に、手にとっていただきたい小説である。
(高頭佐和子)

