【今週はこれを読め! エンタメ編】プールを訪れる人々の心の内側と日常〜長嶋有『七、八月のストローク』

文=高頭佐和子

  • 七、八月のストローク
  • 『七、八月のストローク』
    長嶋 有
    講談社
    1,760円(税込)
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 プール小説。そんなジャンルがあるわけじゃないと思うけれど、そう呼びたくなる。

 さまざまな背景を持った老若男女が登場する小説だ。人には言いにくい思いを抱えている彼らの人生が、いくつかのプールで交差する。

 物語の中心になるプールは、東京郊外にある築50年のマンションの中にある。かつては庶民の憧れだった高級集合住宅だが、今は老朽化して価格も下がっている。住民は高齢化し、かつては賑やかだった子ども向けプールも利用者が減っている。7、8月限定でオープンするのだが、監視員はマンションに住む高校生や大学生のアルバイトが勤めてきた。今年は、高校を自主退学したばかりの樹と、このプールが大好きな季乃、優等生のかつみが働いている。幼い頃から仲の良い3人だが、それぞれが心の中に打ち明けられない思いを抱えている。

 プールを楽しんでいるのは、小さな子どもたちだけではない。樹の父・高志は長年運営委員会に参加しており、現在は会長だ。ひとり暮らしの80代女性・紺は、プールが見えるベランダで過ごすことが好きだ。こっそり夜のプールに入りこんでいる若者たちを眺めたりしている。

 この小さなプールを中心に、市民プールから東京体育館までいろいろなタイプのプール(と海)が登場し、訪れる人々の心の内側と日常が鮮明に描き出されていく。マンションのプールには危機が訪れる。修繕費や管理費で赤字が続くことを理由に、閉鎖しようという動きが出てしまうのだ。

 進む高齢化、老朽化する建造物、値上がりしていく維持費用。今の日本の縮図のようだと、読みながら思った。利用者の減った施設を廃止し、別のことに資金を投入しようという考えは正論だ。だが、どうにかして好きな場所を守りたいという気持ちだって、間違いではない。プールを愛する季乃たちの思いは、世代を超えてつながり人々の心を動かす。それぞれが、そこで新しい希望を見つけていく。

 私たちは皆、彼らのように生きられないだろうか。自分とは違う誰かの気持ちにそっと寄り添ったり、少しだけ何かに挑戦してみることは、誰にだってできるのではないか。小さな光を、心に灯してくれる小説だ。

(高頭佐和子)

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