第229回:蛭田亜紗子さん

作家の読書道 第229回:蛭田亜紗子さん

2008年に第7回「女による女のためのR‐18文学賞」大賞を受賞、10年に『自縄自縛の私』(受賞作「自縄自縛の二乗」を改題)を刊行してデビューした蛭田亜紗子さん。現代人の日常を描く一方で、『凜』では大正期、開拓時代の北海道を舞台に過酷な環境を生きる男女を描き、最新作『共謀小説家』では明治期に小説執筆にのめりこんだある夫婦の話を描くなど、幅広い作風で活躍中。では蛭田さんが親しんできた作品とは? リモートでたっぷりおうかがいしました。

その4「学生時代の読書」 (4/7)

  • ドグラ・マグラ(上) (角川文庫)
  • 『ドグラ・マグラ(上) (角川文庫)』
    夢野 久作
    角川書店
    572円(税込)
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  • ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)
  • 『ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編 (新潮文庫)』
    春樹, 村上
    新潮社
    737円(税込)
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  • 1973年のピンボール (講談社文庫)
  • 『1973年のピンボール (講談社文庫)』
    村上 春樹
    講談社
    550円(税込)
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  • 海の向こうで戦争が始まる (村上龍電子本製作所)
  • 『海の向こうで戦争が始まる (村上龍電子本製作所)』
    村上 龍
    G2010
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  • 悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)
  • 『悪徳の栄え〈上〉 (河出文庫)』
    サド,マルキ・ド,マルキ・ド・サド,渋澤 龍彦
    河出書房新社
    858円(税込)
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――高校生になってからは。

蛭田:活動範囲が広がって、学校帰りに大きい本屋さんにも行くようになって。いわゆる昭和の文豪、太宰治や三島由紀夫、谷崎潤一郎などをよく読みました。小学校の頃に行っていた図書館にあった「少年探偵団」のシリーズは表紙が怖くて読めなかったんですが、高校生になってからは江戸川乱歩もすごく読みました。怪奇っぽいものが好きでしたね。夢野久作の『ドグラ・マグラ』なども読みました。
 出版社が毎年、「夏の100冊」というような文庫キャンペーンをやりますよね。そういうところから、いろんな本を知りました。海外だったらカフカやカミュ、トーマス・マンなどの有名文学を結構読みました。なかには読んでも全然分からないものもあって。今だったら分からないと立ち止まってしまいますけれど、当時は分からなくても気にせずにゴリゴリ読んでいました。

――現代作家は読みましたか。

蛭田:通過儀礼的に当時ハマったのはW村上ですね。修学旅行に読みかけの『ねじまき鳥クロニクル』の単行本全3冊を持っていって、結局1ページも読みませんでした(笑)。ただ重いだけで、今思うとすごく恥ずかしいですね。修学旅行の後で読み切ったんですけれど。

――それぞれ、どの作品が好きでしたか。

蛭田:今だったら違う作品を挙げる気がしますが、当時好きだったのは村上春樹なら『1973年のピンボール』、村上龍なら『海の向こうで戦争が始まる』。どちらも2作目の著作なんですよね。当時なんで好きだったんだろう......。

――友達と本の貸し借りをしたりとかは。

蛭田:友達に物静かな美少女がいて、みんなその子に自分の好きな音楽や本を貸したがっていたんです。私も春樹なんかを貸しましたし、その子も読んでいました。

――部活は。

蛭田:高校では美術部で油絵を描いていましたが、描いているよりも喋っている時間のほうが長かったです(笑)。

――小説は書いていましたか。

蛭田:ノートに3行くらい書いて終わり、という感じでちゃんと書いてはいませんでした。作家になりたい気持ちはあったのに。

――卒業後、東京の大学に進学されたんですよね。また生活ががらっと変わったのでは。

蛭田:家から離れて暮らしてみたいという気持ちがありました。最初の2年間は寮に入るという約束だったんですが、寮のルールが厳しかったんですよね。狭山の茶畑の奥の奥にある寮で、門限に間に合うように帰るためには池袋を7時半に出なきゃいけない。1分でも遅れるとしばらく外出禁止になって、罰として掃除当番をさせられたりして。部屋も相部屋だったしテレビも共有スペースにあって、一人きりになれる時間がなかったのも辛かったんです。そうした集団生活があまりに嫌で、1年で出て2年生の時から一人暮らしを始めました。

――晴れて一人暮らしになった時は相当な解放感があったのでは。

蛭田:そうですね。また行動範囲が広がりました。サブカルチャー寄りの本屋で今までとは違うタイプの本が手に入るようになりましたし。吉祥寺のヴィレッジヴァンガードなどによく行きました。その頃は澁澤龍彦のエッセイが好きでした。

――当時のサブカルチャーって、今のサブカルと言われているものとはまたちょっと違いますよね。

蛭田:私は1999年に20歳になったんですけれど、当時は世紀末のあやういムードがありました。サブカルチャーも「危ない1号」などのアングラ系のムックが流行っていましたね。今読んだら自分もきっと腹が立つだろうけれど、当時はそういうものを面白がっていました。
 これは高校生の頃からなんですけれど、18歳未満のうちはマルキ・ド・サドの『悪徳の栄え』とかをエッチなものとして読んでいたんですよ(笑)。沼正三の『家畜人ヤプー』とか、『O嬢の物語』などを性の教科書にしていたので、かなり偏った知識を得てしまいました(笑)。
 それと、ちょうど大学に入った頃、J文学が流行っていたんです。J文学の旗手と呼ばれていた阿部和重さんの『インディヴィジュアル・プロジェクション』や、町田康さんの『くっすん大黒』を読みました。それと、大学時代にすごく読んだのは安部公房。一番好きなのは『燃えつきた地図』で、探偵が人を捜すうちに迷い込んでしまうというか。
 他には村上春樹の流れで、フィッツジェラルドやカポーティもよく読みました。短篇が好きでした。カポーティなら「無頭の鷹」、フィッツジェラルドなら後期の、人生の陰を感じられるものが好きでした。看護師に当たり散らす話とか、これは初期の作品ですが、奥さんがクッキーを壁に飾り付けた話とか、初恋の女の子と再会する話とか...。

――読書以外に、何にハマっていましたか。

蛭田:インディーズバンドが出ているライブハウスによく行っていました。雑誌の後ろのほうの細かいページやミニコミ的なものにそういう情報があったし、5、6組の対バンの時にお目当て以外にも好きなバンドを見つけたりして広げていっていました。

――ロック系ですか?

蛭田:高校生の時にビジュアル系バンドブームがあって私も好きだったんですが、だんだんそこからずれて、白塗りでおどろおどろしいことをやるバンドが好きになって。グルグル映畫館とか、cali≠gari(カリガリ)とか。ただ、彼氏ができるとライブから足が遠ざかり、その後大学を卒業したらまた北海道に戻ったので、その後は追えていないんです。

  • 家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)
  • 『家畜人ヤプー〈第1巻〉 (幻冬舎アウトロー文庫)』
    沼 正三
    幻冬舎
    713円(税込)
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  • O嬢の物語 (河出文庫)
  • 『O嬢の物語 (河出文庫)』
    ポーリーヌ・レアージュ,澁澤 龍彦
    河出書房新社
    748円(税込)
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  • インディヴィジュアル・プロジェクション
  • 『インディヴィジュアル・プロジェクション』
    阿部和重
    講談社
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