
作家の読書道 第230回:一穂ミチさん
短篇集『スモールワールズ』が大評判となり、直木賞にもノミネートされている一穂ミチさん。文体も形式も人物造形も自在に操って読者の心を揺さぶる一穂さん、同人誌での二次創作からBL小説でプロデビュー、そこから一般文芸へと活動の場を拡張中。漫画も小説もノンフィクションも幅広いジャンルを読むなかで惹かれた作品とは? さらにはアニメや動画のお話も。リモートでたっぷりおうかがいしました。
その1「漫画もアニメも好きだった」 (1/8)
――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
一穂:たぶん、最初は世界名作童話などの系統でした。はっきり憶えているのは、小学1年生の時に習った『おおきなかぶ』ですね。「教科書にこんな話が載っているんだ」と思った記憶があります。
国語の教科書はもらった日にぶわーっと読んでいました。でも、全部を授業で取り上げるわけじゃないんですよね。先に面白く読んでいたのに授業ではやってくれなかったりして残念だったりしました。
――読むことは好きな子どもでしたか。
一穂:そうですね。あまり自分で「好き」と思ってはいなかったんですけれど、母親が結構本を読むタイプだったので、図書館に連れていってもらったりして。生活の中に読むことが自然にありました。
ただ、本というか、漫画ばかり読んでいる子どもでした。小学校に上がった頃は、ひとつ上の兄が買ってもらった「コロコロコミック」を読ませてもらっていて、やっぱり『ドラえもん』が好きでしたね。当時、ゴールデンタイムで『ドラえもん』や『忍者ハットリくん』など藤子アニメがいろいろ放送されていて、それもすごく好きで。
小学2年生くらいから、家に「週刊少年ジャンプ」がやってくるようになって私も読んでいました。『北斗の拳』が好きでしたね。そのうちに『ジョジョの奇妙な冒険』の連載が始まったんですが、「ジャンプ」あるあるで、私が「面白い」と思った漫画が打ち切られたりしていたんです。「あれ、尻切れトンボで終わっちゃったな」「私は面白いと思ったけれど、みんながそう思っていないと途中で続けられなくなるんだ」と衝撃を受けていました。そういう意味で「ジョジョ」が始まった時、古い劇画タッチだったので「すぐ終わちゃったらどうしよう」って心配していました(笑)。
――連載が終わってしまったものでは、どういう話が好きだったのですか。
一穂:当時好きだったのは、巻来功士さんの『メタルK』という漫画ですね。婚約者に騙されて殺されかけた女性が、サイボーグに生まれ変わって復讐する話です。だから、怖い話でしたね。それがわりとすぐに連載が終わってしまったのが残念でした。
――他に「マガジン」や「サンデー」などは読みましたか?
一穂:雑誌を買っていたわけではないですが、高橋留美子先生は好きでした。テレビで「うる星やつら」や「めぞん一刻」がやっていたので、それで知って。オタクなのでアニメはなんでも放送されていれば見ていたんです。
――少女漫画系の雑誌は読みましたか。
一穂:あ、「りぼん」と「花とゆめ」とかは読んでいました。キラキラした絵ももちろん好きで、ああいうものに憧れましたね。当時「りぼん」で『星の瞳のシルエット』という連載があって、そのキャッチコピーが「250万乙女のバイブル」だったのを憶えています。ちょうど「りぼん」が公称250万部だったんですよね。漫画の内容は、いってみれば友達と同じ男の子を好きになるというシンプルな話でした。
――ほかに、ゲームなど夢中になったものはありましたか。
一穂:当時はファミコンがブームで、兄が買ってもらったんです。「スーパーマリオブラザーズ」が国民的ブームの頃で、私も夢中になりました。親に「1時間言うたやろ」と叱られ、何度もACアダプターを捨てられそうになって「やめて」と泣き叫ぶという、あの頃どこの家庭でもあった修羅場が我が家でも繰り広げられていました(笑)。