第230回:一穂ミチさん

作家の読書道 第230回:一穂ミチさん

短篇集『スモールワールズ』が大評判となり、直木賞にもノミネートされている一穂ミチさん。文体も形式も人物造形も自在に操って読者の心を揺さぶる一穂さん、同人誌での二次創作からBL小説でプロデビュー、そこから一般文芸へと活動の場を拡張中。漫画も小説もノンフィクションも幅広いジャンルを読むなかで惹かれた作品とは? さらにはアニメや動画のお話も。リモートでたっぷりおうかがいしました。

その3「ファンタジー、SF、ミステリ」 (3/8)

  • 豹頭の仮面―グイン・サーガ(1) (ハヤカワ文庫JA)
  • 『豹頭の仮面―グイン・サーガ(1) (ハヤカワ文庫JA)』
    栗本 薫
    早川書房
    638円(税込)
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  • 王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)
  • 『王都炎上―アルスラーン戦記〈1〉 (光文社文庫)』
    田中 芳樹,山田 章博
    光文社
    544円(税込)
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  • 創竜伝1超能力四兄弟
  • 『創竜伝1超能力四兄弟』
    田中芳樹
    らいとすたっふ
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  • 星へ行く船シリーズ1星へ行く船
  • 『星へ行く船シリーズ1星へ行く船』
    新井素子
    出版芸術社
    1,540円(税込)
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  • グリーン・レクイエム 新装版 (講談社文庫)
  • 『グリーン・レクイエム 新装版 (講談社文庫)』
    新井 素子
    講談社
    737円(税込)
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  • 鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)
  • 『鏡は横にひび割れて (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
    アガサ・クリスティー,橋本 福夫
    早川書房
    880円(税込)
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――中学校時代はどのような本を読みましたか。

一穂:新井素子先生のSFシリーズなどを読みましたね。それと、栗本薫先生の『グイン・サーガ』シリーズにドはまりして。当時ですでに何十巻と出ていたと思うんですけれど、もう、図書館で一気読みしました。確か一度に8冊まで借りられたので、1巻から8巻まで借りて読み、次は9巻から借りて。続きが待ちきれなくて、すごく楽しかったですね。

――1冊1冊がわりと薄いからすぐ読めますしね。

一穂:そうなんです。しかも、毎回いいところで終わるんですよ。他には田中芳樹先生の『アルスラーン戦記』と『創竜伝』を読んでいましたね。

――新井素子さんは『星へ行く船』とかですか。

一穂:そうですね、『星へ行く船』。『グリーン・レクイエム』とかも好きでした。

――当時の新井さんといえばコバルト文庫ですが、他にコバルト文庫でハマったものはありませんでしたか。

一穂:藤本ひとみ先生の『まんが家マリナ』とか。あ、でもそれを読んだのは小学校5、6年生の頃だったかな。

――やはり本は図書館で探していましたか。

一穂:そうですね。図書館で「ヤングアダルト」の棚を見たりして、興味が惹かれるものを適当に手に取って、という感じでした。アガサ・クリスティーなんかもよく読んでいました。『鏡は横にひび割れて』という作品がすごく好きでした。当時の私には、写真のトリックが新鮮で面白く感じたんだと思います。タイトルも印象的でしたし。
 そこから海外ミステリにハマるということはなかったんですが、中学生くらいの時に母親がパトリシア・コーンウェルの「検屍官」シリーズを買って「すごく面白い」と言うので私も読んだら、やっぱり面白かったですね。それで結構読んでいました。あれでモルグという言葉をおぼえました(笑)。

――検屍官のケイ・スカーペッタという女性が活躍するシリーズですね。日本でも大ベストセラーになった。

一穂:そうです。スカーペッタが自分勝手だったり意地っ張りだったり、絶妙に性格が悪いところが人間臭くていいなと思っていました。それまで読んできた漫画は基本的に主人公をいい人に描きがちだったので、小説だとそうでもないのかなって。その違いはなにか、面白いなと感じていました。
 それくらいの頃に、母が高村薫先生の『マークスの山』を買ってきたんです。「これはすごく面白い」というので読んで、当時の私には難しい部分もあったんですけれど、すごく好きになりました。その時はハードカバーで読んだんですけれど、のちに文庫版で買い直したら高村先生がすごく手を入れられていて。私の一番好きだったシーンがカットされていて...。

――高村さんは文庫化の際にかなり改稿されますよね。どの部分が削られていたんですか。

一穂:殺人者であるマークスと、年上の看護師との淡い出会いがあるんですよね。真知子って名前まで憶えているんですけれど。マークスが殺人を犯す一方、本人もその理由を認識できないまま、ぼんやりと、真知子は大事、真知子に何かしてあげたいという感情をおぼえるところがすごく切ないんですよね。そこで唯一、人間らしさを育てていく。でも、彼の起こした事件の絡みで真知子は怪我をして、病院に運ばれるんです。その真知子が、マークスを思いながら、「ひどい運命ね」ってつぶやくんです。「大丈夫よ」とか「好きよ」とかじゃなくて、「ひどい運命ね」。当時10代の私には分かりえない、すごく重い言葉だという気がして、それが忘れられませんでした。高村先生って硬い描写が多いからこそ、そういうふっと柔らかいところに持っていかれて、忘れられなくなるんですよね。高村先生の作品はそこから読み始めました。『リヴィエラを撃て』とか『黄金を抱いて翔べ』とか。それが中学3年生から高校にかけてくらいかな。

――中学、高校と何か部活はされていましたか。

一穂:中学は演劇部で、高校は帰宅部です。特にやりたいことはなかったんですが中学校は部活が強制で、運動部はしんどいから嫌だなと思っていた時に、わりとよく話していた友達が演劇部に入ったので。みんなと一緒にお芝居するのは楽しかったですね。

――でも、高校は帰宅部を選んだわけですね。

一穂:漫画を読みたかったので。それに、当時はだいたい夕方にアニメを放送していたので、それまでに帰宅したかったんです。相変わらず、放送していればどんなアニメも見ていたんですよね。「少年ジャンプ」が全盛期で、『幽☆遊☆白書』や『SLAM DUNK』がばんばん売れてアニメ化もされていたので、それを楽しみに生きていました。「ファンロード」という、イラスト投稿とかが載っているアニメ雑誌を熟読したりするのに忙しかったです。

――ご自身も投稿されていたんですか。

一穂:雑誌には投稿はしていませんでした。でもそういうオタク雑誌を介したサークルがいろいろあるんですよね。たとえば『幽☆遊☆白書』が好きな人みんなで会報を出しませんか、とかいって。同人誌の走りですね。まとめ役の人がいて、その人のところにイラストを送るとそれがコピーされて会報に掲載されて送ってもらえるみたいな制度が結構あったので、それ用にイラスト描いていたりはしました。まあ、当時の典型的なオタクです。
 あ、さきほどのコバルト文庫でいえば、桑原水菜さんの『炎の蜃気楼(ミラージュ)』がめちゃめちゃ好きでしたよ。コバルトなんですけれど男性同士の前世からの恋愛みたいなものが描かれていて。転生とか歴史とか、オタク心をくすぐるものがだいったい揃っている素敵なシリーズだったんで(笑)。それで、「『炎の蜃気楼』が好きな人、イラスト交換をしませんか」みたいな感じで文通したりとか。そういうのはやっていました。

――二次創作的なものを読みはじめたのもこの頃ですか。

一穂:そうです、そうです。イベントに行って同人誌を買ったりもしていました。

――そこで文章で創作したりとかは。

一穂:いや、下手なイラストを描くくらいで、小説を書いたりっていうのは特にしていないです。まだ全然、小説を書こうとは考えていないですね。

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  • 炎の蜃気楼 (集英社コバルト文庫)
  • 『炎の蜃気楼 (集英社コバルト文庫)』
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