第230回:一穂ミチさん

作家の読書道 第230回:一穂ミチさん

短篇集『スモールワールズ』が大評判となり、直木賞にもノミネートされている一穂ミチさん。文体も形式も人物造形も自在に操って読者の心を揺さぶる一穂さん、同人誌での二次創作からBL小説でプロデビュー、そこから一般文芸へと活動の場を拡張中。漫画も小説もノンフィクションも幅広いジャンルを読むなかで惹かれた作品とは? さらにはアニメや動画のお話も。リモートでたっぷりおうかがいしました。

その5「ノンフィクション、新本格、純文学」 (5/8)

  • 羊たちの沈黙(上) (新潮文庫)
  • 『羊たちの沈黙(上) (新潮文庫)』
    トマス ハリス,Harris,Thomas,浩, 高見
    新潮社
    737円(税込)
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  • 24人のビリー・ミリガン〔新版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
  • 『24人のビリー・ミリガン〔新版〕上 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)』
    ダニエル・キイス,堀内 静子
    早川書房
    1,100円(税込)
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  • 五番目のサリー 上 (ダニエル・キイス文庫)
  • 『五番目のサリー 上 (ダニエル・キイス文庫)』
    ダニエル キイス,小尾 芙佐
    早川書房
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――高校卒業後は。

一穂:大学に進学しました。社会学部です。文系だったんですが、心理学にちょっと興味があったので、それがカリキュラムにある学部ということで決めました。その時たぶん、『羊たちの沈黙』にハマっていたんですよね(笑)。

――映画化作品が公開になった頃でしょうか。

一穂:そうですね。映画を観て「おもしれえ!」と思って。当時、プロファイリングとかも流行っていたんですよね。ダニエル・キイスの『24人のビリー・ミリガン』なども評判になっていて。ああいうノンフィクションのは結構読みましたね。フィクションですが『五番目のサリー』とかもすごく好きでした。

――小説はどのようなものを。

一穂:学校に行く時も、空き時間があるなら一応本を持っていくか、という感じで読んでいました。大学時代は新本格と呼ばれるものにお世話になりました。綾辻行人先生、有栖川有栖先生、法月綸太郎先生、笠井潔先生、清涼院流水先生、それと森博嗣先生もすごく読みました。講談社ノベルスにはお世話になりました。
 その流れで古典的な名作も読むようになって、坂口安吾の『不連続殺人事件』がめちゃめちゃ面白くて。やっぱり読み継がれるものはすばらしいんだなっていう。中井英夫の『虚無への供物』も面白かったですし。
 それと、小池真理子さんの『恋』がすごく面白かったのを憶えています。最後の一文がすごかったんです。あのラストで痺れる感覚がものすごくありました。
 ミステリ以外では、大学時代に川上弘美先生を読むようになりました。『いとしい』から読んだのかな。「ああ、好きだー」と思って。川上先生の描く恋愛って、独特の感じがあるじゃないですか。冷めているような熱っぽいような、あのたんたんとした感じがすごく好きです。川上先生はSFっぽいものも好きですね。『大きな鳥にさらわれないよう』とか。最近のいちばんは『水声』。ひそやかだけどすごく不穏なあの空気感って、やっぱり川上さんにしかないんですよね。

――一穂さんは以前、エンタメ作品のようなオチがなくても、文章で読ませる小説が好きだとおっしゃっていましたね。

一穂:そうですね。文章がよくて、「分からないけれど好き」と思えるものが好きだったかもしれません。安部公房の『砂の女』とか。ちょっと怖い話が好きだったりしました。確か高校生の時に大江健三郎さんがノーベル文学賞を受賞されて、それではじめて大江さんの存在を知って、『燃えあがる緑の木』なんかも読んで。書いていることを理解できている気はしないのに、なにか面白いなと思っていました。大江先生って、ぬるっとした内臓感覚というか、独特の怖さがあるんですよね。安部公房を読んだ時と似た感覚があるなって勝手に思ったりしています。

――ご自身で二次創作を始めたのはいつですか。

一穂:大学時代です。オタクがこぞってホームページを作り始めた時代で、私も作りました。友達の家のパソコンを借りるという、迷惑なやり方で(笑)。HTMLとかが分かる友達だったので、形を作ってもらって。

――どういうものを載せていたのですか。

一穂:イラストとか小説とか。私は「ジャンプ」系だったので、毎週の「ジャンプ」の感想を書き散らして、掲示板でみんなで交流するという。当時の一般的なオタクの姿でした。

――あ、もうそこで小説を書きはじめていたのですか。

一穂:結局絵が得意ではなかったので、思いついた話を漫画では描き切れなかったんです。単純に、時間がかかるということもありました。漫画だと、同じ制服の襟を何回描かなきゃいけないんだっていう。二次創作って鮮度が命みたいなところがあって、はやくこの妄想をアウトプットしたいという勢い任せなものなので、そういう面で私にとって文章のほうが適性があるのかなと思いました。

  • 新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)
  • 『新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)』
    中井 英夫
    講談社
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  • 大きな鳥にさらわれないよう (講談社文庫)
  • 『大きな鳥にさらわれないよう (講談社文庫)』
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  • 燃えあがる緑の木〈第1部〉「救い主」が殴られるまで (新潮文庫)
  • 『燃えあがる緑の木〈第1部〉「救い主」が殴られるまで (新潮文庫)』
    健三郎, 大江
    新潮社
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