第230回:一穂ミチさん

作家の読書道 第230回:一穂ミチさん

短篇集『スモールワールズ』が大評判となり、直木賞にもノミネートされている一穂ミチさん。文体も形式も人物造形も自在に操って読者の心を揺さぶる一穂さん、同人誌での二次創作からBL小説でプロデビュー、そこから一般文芸へと活動の場を拡張中。漫画も小説もノンフィクションも幅広いジャンルを読むなかで惹かれた作品とは? さらにはアニメや動画のお話も。リモートでたっぷりおうかがいしました。

その8「新作について&好きな動画」 (8/8)

――「別冊文藝春秋」の5月号からは新連載「光のとこにいてね」が始まりましたが、これは長篇ですよね。連載開始にあたってのエッセイが載っていて、これがすごくおかしくて。最初はノーアイデアノープランで、着想を得た後も執筆が遅れて、その間ずっと編集者に謝りつつ、いろんな動画を見ていたことが分かる内容で(笑)。

一穂:本当に申し訳ないなと思いながら。でも、ちゃんと倍速で見ているんで(笑)。とはいえ2倍速で2本見ちゃうので結局同じでした(笑)。そして打ち合わせでは毎回、私が好きな芸人の話をして終わるという...。去年からおうち時間が増えて、動画に毒されています。

――魚を銛で突いて捌く動画とか、M-1グランプリとか、コンサート映像とか、いろいろ観ていますね(笑)。どんな内容が一番好きなのかなと思って。

一穂:三大好きな動画は、猫と、ホラーゲームの実況と、お笑い芸人です。猫はただただ癒されます。ホラーゲームは、私はファミコン世代なので最近のゲームが難しくて全然できなくて、上手い人がサクサクやっている実況を見るほうがストレスがなくて楽しいんです。

――ゲームは自分ではやらないんですか。

一穂:たまに試みます。でも、大学生の時に初代「バイオハザード」が出て、人がやっているのを見ていいなと思ってやってみたら全然できなくて。もうゾンビのビュッフェかっていうくらい齧られまくって、怖かったですね。人に「今ゾンビ来てるよ」と言うのは簡単なんですよね。「志村、後ろ」って言うのは簡単なんですけれど、自分が志村になった時にそんなことが本当にできるのかをもっと考えなければいけないなって反省したんです。それで、最近出た「バイオハザード ヴィレッジ」は発売直後からもう、毎日好きなYouTuberさんの実況配信を見ています。

――お笑いもお好きなんですね。好きな芸人さんはいますか?

一穂:かまいたちとか。和牛が好きなんですけれど、YouTubeはやってないんです。あとは空気階段ですね。お笑いとかコントがお嫌いじゃなければ、空気階段が今年やった「anna」っていう単独ライブがめちゃめちゃ面白かったのでぜひ。5月にDVDが出ています。
 芸人さんの単独ライブって、だいたいネタの合間にフリートークがあって、あとは事前に録っておいたVTRを流したりするんですね。でも空気階段の「anna」はずーっとコントを何本もぶっ続けでやって、しかも、全体の構成がすごかったんです。人様の素晴らしい表現に触れると「ああ、それに比べて自分は全然だな」と思うことがほとんどなんですけれど、それを見た後は「自分も頑張りたいな」って思いました。こんな面白いものを作るんだって、いい刺激をいただきました。

――それは非常に気になります。それにしても一穂さん、『スモールワールズ』がこんなに話題になっているのに、あまり自信がなさそうな印象が...。

一穂:なんでしょう、過分に褒めていただいて、なんかやばいな、って。公正取引委員会から何か言ってこないのかな、みたいな気がしてます(笑)。

――「光のとこにいてね」が本にまとまるのはまだ先ですよね。全然生活環境の違う幼い女の子2人が出会う話ですが、すごく不穏な感じがあって。この後、2人が成長して何があるのか、ドキドキしています。

一穂:私もドキドキしています(笑)。

――あはは。他に長篇の書き下ろしを執筆中とKさんからおうかがいしました。そちらのほうが先に刊行される予定だとか。

一穂:そうです。順調に滞っています(笑)。

(了)