第230回:一穂ミチさん

作家の読書道 第230回:一穂ミチさん

短篇集『スモールワールズ』が大評判となり、直木賞にもノミネートされている一穂ミチさん。文体も形式も人物造形も自在に操って読者の心を揺さぶる一穂さん、同人誌での二次創作からBL小説でプロデビュー、そこから一般文芸へと活動の場を拡張中。漫画も小説もノンフィクションも幅広いジャンルを読むなかで惹かれた作品とは? さらにはアニメや動画のお話も。リモートでたっぷりおうかがいしました。

その2「怖がりなのに怖いもの好き」 (2/8)

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――小学生時代、教科書に載っていたもの以外で、印象深かった本はありますか。

一穂:江戸川乱歩の「怪人二十面相」のシリーズですね。図書館で借りていました。怪人二十面相が小林少年を誘拐して落とし穴みたいなところに閉じ込めるエピソードで、朝ご飯を下ろすシーンがあって。未成年をさらって朝ご飯を食べさせて、「僕は君のことが可愛いんだよ」みたいなことを言っていて、子ども心に「この人、なにがしたいんだろう」と思いましたね(笑)。
 その流れでモーリス・ルブランの「アルセーヌ・ルパン」のシリーズを読んだりして。ドキドキワクワクするものが好きだったんですが、なぜかホームズよりもルパンのほうに行きました。ホームズは登場人物がみんな犬になっているアニメの「名探偵ホームズ」が好きでした。名作です。

――読む本は、図書館で借りることが多かったのですか。。

一穂:そうですね。それと、スーパーで、たまに古本のワゴンセールが出る時があって。漫画も小説もありました。その時に母親が、「なにか買ってあげる」と言って、『スケバン刑事』を買ってくれたんですよ。これが面白くて。ラストは悲しい終わり方でほろ苦くて、「ああ、こういうこともあるんだな」って。勝手に大人になった気持ちになりました。
 そうそう、ホラー漫画も好きでした。つのだじろう先生の『恐怖新聞』とかもめっちゃ読んでいました。『うしろの百太郎』とか。当時「ハロウィン」というホラー漫画の雑誌があったんです。それを昼間読んで塾に行って、終わる頃には暗くなっているので怖くて一人で帰れなくなって、母親に電話して「迎えに来て」と言って怒られたことがあります(笑)。

 

――怖がりなのに怖いものが好き感覚、ありますよね(笑)。一穂さんは関西育ちだそうですが、お笑い文化の影響ってありますか。

一穂:当時は土曜日は「半ドン」といって午前中に授業が終わったので、帰ってテレビの吉本新喜劇を見ながらお昼ご飯を食べるのは、当時の大阪の小中学生の「あるある」ですよね。
 自分ではお笑いに影響を受けていると思わないですけれど、東京の友人と話していて「ああ」と思うことはあります。私が誰かのことを「あの人、少しも面白いことを言わないね」みたいに言ったら、「そんなの言う必要ない。なんで人物評価に面白いことを言うか言わないかが入っているんだ」と言われて「あれっ」と思いました(笑)。

――外で遊ぶのと、家で本を読んだりするのと、どちらが好きだった子どもでしたか。今振り返ると、どんな子どもだったのかな、と。

一穂:断然インドアでした。教室ではもう、目立たなかったですね。教室の隅っこで延々とノートに漫画を描いているただの陰キャでした。

――漫画家になりたかったですか。

一穂:当時は漫画家になりたいと思っていました。

――自分で物語を空想するのは好きでしたか。

一穂:よく好きな漫画のその後とかを空想していました。当時から二次創作が好きだったんだなという(笑)。

――ふふふ。作文など文章を書くことは好きでしたか。

一穂:そうですね。好きというより、楽だと感じていました。別に得意ではないんですけれど、苦ではないという。作文って、「3枚以上書きなさい」とか言われると「えー」って、嫌がる反応をする子が多いじゃないですか。私は別に「何を書いたらいいか分からない」ということはなかったんです。でも、特別うまくもなく得意でもなかったとは思います。なので趣味で文章を書くということもなかったです。

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