作家の読書道 第231回:佐藤究さん

今年『テスカトリポカ』が山本周五郎賞と直木賞を受賞、注目を集める佐藤究さん。幼い頃はプロレスラーになりたかった福岡の少年が、なぜ本を読み始め、なぜ小説を書き始め、なぜ群像新人文学賞受賞後に江戸川乱歩賞で再デビューしたのか。そしてなぜ資本主義について考え続けているのか。直木賞発表前の6月、リモートでおうかがいしました。

その1「プロレス好きの子供」 (1/8)

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  • 『だれも知らない小さな国―コロボックル物語 1 (講談社青い鳥文庫 18-1)』
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――まず、『テスカトリポカ』での山本周五郎賞受賞、そしてこの記事の掲載時には結果が発表になっていますが、直木賞のノミネートおめでとうございます。お忙しくされていると思いますが...。

佐藤:僕は小説以外の雑務が多いんですよ。個人的にTシャツのプロデュースに関わってまして。丸山ゴンザレスさんと一緒に制作協力した〈文豪レジェンドシリーズ〉の第二弾「小泉八雲Tシャツ」が、ちょうど昨日(6月10日)発売になったところです。メーカーはハードコアチョコレートさんですね。シリーズの第一弾は「江戸川乱歩Tシャツ」だったんですけれど。 山本周五郎賞の受賞が決定した前後は、日本推理作家協会の雑務をこなしていましたし。

――そんなことが(笑)。今日はよろしくお願いします。いつも、いちばん古い読書の記憶からおうかがいしています。

佐藤:いちばん古いのはこれかなと思って(と、モニター越しに本を見せる)。佐藤さとるさんの『宇宙からきたかんづめ』です。僕が持っているのはフォア文庫版で、村上勉さんがイラストを描いています。児童向けのSFで、この絵が好きなんですよね。引っ越しを重ねているうちに失くしちゃったので、これはしばらく前にネットの古書で買いました。

――佐藤さとるさんと村上勉さんといえば『だれも知らない小さな国』などの黄金コンビですよね。

佐藤:この『宇宙からきたかんづめ』は、少年がスーパーマーケットの棚にある奇妙なパイナップルの缶詰を見つけるところから始まります。缶の中から声が聞こえてくるんですよ。少年は缶詰を買って帰るんですが、姿の見えない謎の声は、自分の知っているとても風変わりなエピソードを少年に聞かせてくれるんです。いつ頃読んだのかあまり記憶がないんですけれど、小学校低学年であることは間違いないと思います。

――どこで見つけたんですか。

佐藤:どこだったかな。僕は1977年生まれなんですが、小学校の図書室に児童向けSFがいっぱいあった記憶があります。絵本だけど中身はSFという。ただ、この『宇宙から来たかんづめ』が家にあったということは、母親に買ってもらったんでしょうね。母親は子供に本を読み聞かせるということはあまりしなかったけれど、本は買ってくれました。
 昔、福岡の野間大池の近くにアピロスというダイエー系のスーパーがあって、その地下に食料品店なんかと並んで本屋があったんです。そこで夏目漱石なんかを買ってもらいました。児童向けの、ひらがなが多い文庫なんですが。でも『キン肉マン』の単行本を買ってもらおうとすると「駄目だ」と言われる(笑)。なかなか漫画を買ってもらえなかった。あの頃、そういう家は多かったんじゃないですか。僕の子供の頃は「週刊少年ジャンプ」が最強だった時代で、『北斗の拳』や『キン肉マン』、『キャプテン翼』とかが連載されていたんですけれど。『聖闘士星矢』、『魁!!男塾』もあって、あと『ジョジョの奇妙な冒険』ですよね。それでも僕のまわりでは、漫画の単行本に関しては、わりとリベラルな、お金に余裕のある家の子が買ってもらえる商品という感じでした。それをリベラルと呼ぶのかは、まあ僕も疑問なのですが(笑)。
 僕は福岡県福岡市の生まれで、父親はペンキ職人で、そもそも経済的にあまり余裕がなかったんです。漫画の単行本はどうしても自分の小遣いでは全巻コンプリートできないから、買えるときは欲しい巻をジャケ買いしていました。『キン肉マン』ならバッファローマンという好きなキャラが表紙になっている巻だけ買ったりして。ただ振り返ってみると、どの超人がいちばん好きだったのか、自分でも記憶が曖昧ですね。いずれにしても買えなかった過去の内容は自分で想像するしかなかったので、おかげで想像力が培われた気がします(笑)。
「週刊少年ジャンプ」は、毎週買っている友人に頼んで見せてもらっていました。朝、学校に一緒に行くときに家に持ってきてもらって、それに目を通したのちに、ようやく登校するわけです。持っていくと没収されますから。「まだ読んでるから先に行っていいよ」と友人に言って、僕だけ遅刻して怒られたりしていました。そういえばあの頃、『ジョジョの奇妙な冒険』の熱心なファンなんてほとんどいなかったな。第一部の愛読者は僕を入れてクラスに2人とか3人でしたよ。僕にはあの絵が刺さったんですよね。第二部が始まると、自分も波紋なら頑張ればできるんじゃないかと思うようになって、学校でコップを手にして真似したりしてました。結果、コップを床に落とすんですが、オールドファンなら理解できるはず(笑)。神砂嵐とか、そのあとのスタンドとかは最初から不可能だとわかるんですけれどね。
 ファミコンも買ってもらえなかったから、友人の家で借りて遊んでました。もちろんRPG のクリアなんてできませんよ。「ドラゴンクエスト」をセーブして、次の週に行くとパスワードをまちがえていてもう通用しなくなっているっていう。メカ生体「ゾイド」の組み立てキットに関しても、ゼンマイ仕掛けの安いのは買ってもらえたけれど、モーター駆動の高価なやつはめったに買ってもらえなくて、人脈を辿って持っている子の家に行って見せてもらうんです。ゾイドゴジュラスとか。大げさにいうと、そうやって、格差社会を生きる術を身に着けつつサバイバルしてきました(笑)。
 しばらく前ですが、弟と中野ブロードウェイに行ったら、当時のゾイドにプレミアがついて10万円とかになっているんですよ。それを見て弟がぽつりと「昔も買えねえ、今も買えねえ」といったんです。僕はいたく感心して「お前いいこというなあ」、と。あれは現代を象徴する名言でしたね。

――おうちでは、テレビでアニメなどは見られましたか。

佐藤:チャンネル権に関しては当然、父親が最強なんです。父親が「報道特集」を見ていると、「親父、どっか行かねーかなー」と思って。いや、「報道特集」もいい番組なんですが、子供にはわかりませんよね。見たい番組はぜんぜん噛み合わないけれど、唯一、父親と弟と3人そろって熱心に見ていたのが、土曜日のゴールデンタイムに放送されていた「全日本プロレス中継」でした。

――放課後は外で遊んだり?

佐藤:基本は外で遊んで、体力が落ちてくるとゲーム機を持ってる友人の家に行ってました。小学生の時に彼の家で「ドンキーコング」を見た時は衝撃でしたよ。ゲーセンでしか見られない光景だったから。

――プロレスごっこなんかもしてました?

佐藤:本当のプロレスファン同士は、そんなにプロレスごっこをやらないと思うんですよ。プロレスをやるのは、選ばれし本物のレスラーなわけで、神聖なものですから。まあ心底レスラーになりたい者同士だったらちょっと違いますけど。技を理解するためにプロレス好きの仲間とかけ合ったりはしましたね。当時は蝶野正洋のSTF(ステップオーバー・トーホールド・ウィズ・フェイスロック)が流行って、あれはめちゃくちゃ痛い。この技はやばいなと思ったりしてましたよ。
 中学校では水泳部だったんですけれど、親しかった柔道部に行って、無人の壁に向かってドロップキックの練習をさせてもらったりしていたんです。逆に柔道部の友人には「暑いから俺もプールに入らせてくれ」と真夏日に言われたりして。

――運動は得意でしたか。

佐藤:体を動かすのは嫌いではないですが、タイプ的に団体競技などには向いていないですね。チームプレイになるとサボろうとする。体育会系というよりは、博多の山猿系でしたね(笑)。今でも物書きの友達なんてほとんどいないですよ。パワーリフター、バンドマン、あと空手家。ごつい人が多いな。考えてみれば丸山ゴンザレスさんは物書きの友人ですが、ご存知の通りごついですよね(笑)。

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プロフィール

佐藤究(さとうきわむ)
1977年福岡県生まれ。2004年、佐藤憲胤名義の『サージウスの死神』で第47回群像新人文学賞優秀作となり、同作でデビュー。16年『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞を受賞。18年、『Ank: a mirroring ape』で第20回大藪春彦賞、第39回吉川英治文学新人賞を受賞。21年、『テスカトリポカ』で第34回山本周五郎賞、第165回直木賞を受賞。