作家の読書道 第234回:青山美智子さん

今年、『お探し物は図書室まで』が本屋大賞で2位を獲得した青山美智子さん。14歳で作家になりたいと思い、ずっと書き続けるなか、卒業後はオーストラリアへ行き、帰国後は編集者&ライターとして奔走し…。そのなかで吸収してきた本たちとは? 作品や作者に対する愛があふれるお話、リモートでたっぷりうかがいました。

その1「衝撃を受けた絵本」 (1/8)

  • ももいろのきりん (福音館創作童話シリーズ)
  • 『ももいろのきりん (福音館創作童話シリーズ)』
    中川 李枝子,中川 宗弥
    福音館書店
    1,430円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)
  • 『ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)』
    なかがわ りえこ,おおむら ゆりこ
    福音館書店
    990円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ぐりとぐらのかいすいよく (こどものとも傑作集―ぐりとぐらの絵本)
  • 『ぐりとぐらのかいすいよく (こどものとも傑作集―ぐりとぐらの絵本)』
    なかがわ りえこ,やまわき ゆりこ
    福音館書店
    990円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • ふしぎなえ (安野光雅の絵本)
  • 『ふしぎなえ (安野光雅の絵本)』
    安野光雅
    福音館書店
    900円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • モチモチの木 (創作絵本6)
  • 『モチモチの木 (創作絵本6)』
    斎藤 隆介,滝平 二郎
    岩崎書店
    1,185円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • おしいれのぼうけん (絵本・ぼくたちこどもだ)
  • 『おしいれのぼうけん (絵本・ぼくたちこどもだ)』
    ふるた たるひ,たばた せいいち
    童心社
    1,430円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

青山:いろいろ読んでいたのですが、いちばん憶えているのは中川李枝子さんの『ももいろのきりん』です(と、モニター越しに本を見せる)。ひらがなが読めたということは、5歳か6歳くらいの頃だったと思うんです。絵が子どもっぽくなくてお洒落で、主人公の女の子の名前が「るるこ」という珍しい名前だったり、ピンクと言わずに「ももいろ」と表現しているところにときめきました。きりんといえば黄色の地に茶色の模様が入っているイメージなのにももいろで、他の動物たちもぶどういろやれもんいろで、すごく自由なところに衝撃を受けました。固定概念を崩されて、「これでいいんだ」って思いました。それが大人になってからの自分にも影響していますね。
 これは女の子が大きな紙をもらってももいろのきりんを作る話ですが、自分も大きなことがしたくなって、部屋のカーペットにクレヨンで絵を描いてすごく怒られた記憶があります(笑)。

――今お持ちの『ももいろのきりん』は、小さい頃からとってあったものですか。

青山:いえ、これは大人になって買いました。最初に読んだのは保育園かどこかにあった本で、家にはなかったと思うんです。これは大人になってから買いました。子どもの頃に読んで衝撃を受けた本を、大人になって買い直して読み返すことは多いです。

――中川李枝子さんといえば『ぐりとぐら』ですよね。青山さんの『お探し物は図書室まで』に登場しますよね。

青山:『ぐりとぐら』は誰もが知っているスタンダードなシリーズなので出しました。あのシリーズだと『ぐりとぐらのかいすいよく』で、「うみぼうず」が出てくるけれど、人間の姿をしているところなんかが面白かったですね。

――今日はあらかじめ、読んできた本のリストを作ってくださっているんですよね。ありがとうございます。リストを見ると、幼少期に読んだ本として、他に安野光雅さんの『ふしぎなえ』や斎藤隆介さんの『モチモチの木』が挙がっていますね。

青山:『ふしぎなえ』は文字のない絵本なので読書といっていいのか分かりませんが、見れば見るほど見てしまうというか。壁だと思っていたところが階段だったり、階段を下りていると思ったら上がっていたり。当たり前だと思っていたことがそうではないと気づく絵本ですよね。
『モチモチの木』は好きというより、怖くて怖くて(笑)。滝平二郎さんの切り絵が怖いけれど美しくて見てしまう。『おしいれのぼうけん』のように怖い話は他にもあったけれど、これは怖くしようとしていないのに怖いんですよね。怖がりの男の子、豆太がおじいちゃんのために頑張る姿に、どうなっちゃうのかハラハラして、壮大なアクション映画を観たくらいの衝撃がありました。ハッピーエンドでよかった(笑)。

――本は自分で選ぶことが多かったんですか。

青山:そうですね。親が、少年少女向けの文学全集をそろえたことがあったんです。『若草物語』とか『路傍の石』などが収録されている全集ですね。うちの経済事情からして決して安い買い物ではなかったと思うんですが、20冊くらい、ずらーっと並んでいました。でも、申し訳ないけれど食指が動かなくて。怒った母親が「どれか読んだの?」と訊くので、「読んだ」と嘘をついたら「どれを読んだの?」って。そういえばひらがなで『にんじん』ってタイトルがあったと思ってそう言ったら、「感想を言いなさい!」と言われたんですが、当然、読んでいないから感想が言えなくて怒られました。だから『にんじん』がちょっとトラウマになってしまいました。大人になって読んでみたら面白かったんですけれど。
 今だったらそうした全集も喜んで読むだろうけれど、強制的に与えられて「感想を言いなさい」と言われると、やっぱり読みたくなくなるんですよね。だから私、本を読みたくないという子の気持ちが分かります。よく「どうしたら本が好きになれますか?」と訊かれますが、好きになれないならしょうがないと思ってしまう。本と読者のマッチングってあるんですよね。お互い引き寄せあうものがあるかどうか。

――その頃、マッチングで合ったものといいますと。

青山:父の本棚にあった本です。親は特に読書家というわけではなかったんですが、流行りの本は読むという感じでした。私は文学全集は読まずに、夜中にこっそり父の本棚から本を持ってきてベッドの中で読んでいました。それで読んだのが、北杜夫さんの『どくとるマンボウ青春記』や畑正憲さんの『ムツゴロウの結婚記』、吉行淳之介さんの『砂の上の植物群』とか。

――ああ、なるほど。リストを拝見した時に、「小学生で『砂の上の植物群』!?」ってびっくりしたんですよ(笑)。主人公の男が若い女性との性に溺れる話じゃないですか。

青山:そうそう、エロいことがいっぱい書いてあって、犯罪の匂いもして。「大人ってこんなことするんだ―!」って思いました(笑)。話の展開も面白くてしびれました。ませた子どもだったのかもしれません。

――国語の授業は好きでしたか。

青山:文章を書くのは好きだったし、感想文も得意でした。でも他は苦手で、算数や体育は本当に駄目で(笑)。それで余計に国語が好きだったのかもしれません。教科書は学年のはじめに配られた時に全部読んでいました。便覧なども好きでしたね。

――今振り返ってみて、どんな子どもだったと思いますか。

青山:どちらかというと大人といるほうが楽でした。大人といっても先生とか友達のお母さんではなく、全然自分とは関係のない人。団地に住んでいたんですが、同じ棟の違う階に、結婚したばかりでお子さんのいない若い女性が住んでいて、その人のうちに行ってお話ししていました。日常のこととか旦那さんのこととか、本当に他愛もない話ばかりでしたが、大人のほうも子ども相手にガードが緩んでいたのか、ぽろっと言ってしまった、という感じのこともあって。それが自分の人生の参考になったりしたことはあります。
 同世代の仲良しグループもあったけれど、うまくやれている自信がなかったんです。小学生くらいの子って残酷で、ひどいことも言うし、態度がころころ変わったりする。距離の取り方が分からなかったですね。だから同級生とも遊んでいましたけれど、心の中では大人といるほうが楽しかったです。

――その頃、将来何になりたかったんでしょう。

青山:漫画家になりたかったんですよ。なるものだと思っていて、実際描いてもいました。漫画雑誌は「なかよし」から入って「りぼん」に移りましたが、だいたいその真似事でしたね。学園もので誰々君と誰々ちゃんがこうしてああして......という。それを友達と回し読みしていました。

――リストに漫画もたくさん挙げてくださっていますね。筆頭が藤原栄子さんの『うわさの姫子』。

青山:もう、『うわさの姫子』は大好きでした。7巻から読んだらそれがすごく面白くて、そこから集めました。当時は数百円しかもらえないお小遣いを「なかよし」か『うわさの姫子』に使っていました。
 自分と同じ小学生なのに、恋愛をしたり遠くに出掛けて冒険しているのが楽しくて。姫子は髪が長くておしとやかなんだけれども実はすごく強い。その二面性が好きでした。それと、姫子の親友たちが面白くて。私、主人公の親友が好きなんです。主人公よりも面白いキャラクターが多いから。『千と千尋の神隠し』でも千よりリンが好きです。
 山岸凉子さんの『日出処の天子』も大好きでした。すごく長いのに一度読み始めると最後まで読んでしまうという、禁断の書(笑)。私、あれはボーイズラブだと思っているんですけれど、厩戸王子がすごく切ないんですよね。あんなに美しくていろんなことができて世界を牛耳る人なのに、本当に愛して求めている母親や蘇我毛人には最終的に愛されない。想いが叶わない部分を、ちょっと自分に重ねているところもあったというか、理解できるなと感じていました。

――世代的に、その頃いがらしゆみこさんの『キャンディ・キャンディ』が流行っていたと思うんですよね。アニメ化もされて。

青山:ああ、あれは名作だけど、私は主人公のキャンディよりも、彼女に意地悪するイライザのインパクトが強くて、人にはこういう感情もあるよなって思っていました。そういえば、一回、イライザのお兄さんのニールがキャンディを好きになるんですよね...って、私、結構憶えていますね(笑)。キャンディの親友でカメを飼っているパティも好きだったし。

  • 若草物語 (角川文庫)
  • 『若草物語 (角川文庫)』
    L・M・オルコット,朝倉 めぐみ,吉田 勝江
    KADOKAWA
    836円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • にんじん (新潮文庫)
  • 『にんじん (新潮文庫)』
    ジュール ルナール,Renard,Jules,優, 高野
    新潮社
    539円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)
  • 『どくとるマンボウ青春記 (新潮文庫)』
    杜夫, 北
    新潮社
    649円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • うわさの姫子(1) (てんとう虫コミックス)
  • 『うわさの姫子(1) (てんとう虫コミックス)』
    藤原栄子
    小学館
  • 商品を購入する
    Amazon
  • 千と千尋の神隠し [Blu-ray]
  • 『千と千尋の神隠し [Blu-ray]』
    宮崎駿
    ウォルト・ディズニー・ジャパン株式会社
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS
  • 日出処の天子 完全版 1 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)
  • 『日出処の天子 完全版 1 (MFコミックス ダ・ヴィンチシリーズ)』
    山岸 凉子
    KADOKAWA/メディアファクトリー
    1,650円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

» その2「『シンデレラ迷宮』との出合い」へ

プロフィール

青山美智子(あおやま・みちこ)
1970年生まれ、愛知県出身。横浜市在住。デビュー作『木曜日にはココアを』(宝島社)が第1回宮崎本大賞を受賞。『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)が2021年本屋大賞で2位獲得。他の著書に『猫のお告げは樹の下で』『鎌倉うずまき案内所』『ただいま神様当番』『月曜日の抹茶カフェ』(すべて宝島社)など。