第234回:青山美智子さん

作家の読書道 第234回:青山美智子さん

今年、『お探し物は図書室まで』が本屋大賞で2位を獲得した青山美智子さん。14歳で作家になりたいと思い、ずっと書き続けるなか、卒業後はオーストラリアへ行き、帰国後は編集者&ライターとして奔走し…。そのなかで吸収してきた本たちとは? 作品や作者に対する愛があふれるお話、リモートでたっぷりうかがいました。

その2「『シンデレラ迷宮』との出合い」 (2/8)

  • なくしてしまった魔法の時間 (安房直子コレクション)
  • 『なくしてしまった魔法の時間 (安房直子コレクション)』
    直子, 安房
    偕成社
    2,200円(税込)
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  • シンデレラ迷宮 (集英社コバルト文庫)
  • 『シンデレラ迷宮 (集英社コバルト文庫)』
    氷室冴子
    集英社
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  • 【復刻版】なんて素敵にジャパネスク (コバルト文庫)
  • 『【復刻版】なんて素敵にジャパネスク (コバルト文庫)』
    氷室 冴子
    集英社
    704円(税込)
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  • 蕨ヶ丘物語 (集英社コバルト文庫)
  • 『蕨ヶ丘物語 (集英社コバルト文庫)』
    氷室冴子
    集英社
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――中学生時代、小説で好きだったものは。

青山:教科書に安房直子さんの「鳥」という短篇が載っていて、読んだ時に「この話めちゃくちゃ好き」と思ったんです。その記憶がずっとあって、デビューした後で読者の方から「安房直子さんのような表現力」と感想をいただいた時に「鳥」のことを思い出し、それが収録されている短篇集『なくしてしまった魔法の時間』を買いました。読み返してやっぱり、「鳥」が好きだと思った気持ちが自分の中に浸透していたんだなと思いました。読者さんに気づかされることは多いです。

――リストでは次に氷室冴子さんのお名前が挙がっていますね。

青山:氷室さんはもう、別格です。中1の冬に転校して、すぐには新しいクラスに馴染めず、ずっと教室の隅で本を読んでいたんです。家に読む本がなくなったので書店に行き、『シンデレラ迷宮』を見つけた瞬間をまだ憶えています。女の子の後ろ姿が描かれた表紙に惹かれたんですよね。利根ちゃんという女の子が異世界に行って、みんなが知っているいろんな物語のヒロインに会う話なんですが、実はこう思っていたとか、実はこんなことがあったということが語られていく。それが本当に面白くて。もう何度も読んで、主人公と友達のような気持ちになりました。これを読んで、「小説ってこんなに面白いんだ」「私も小説を書きたい」って思ったんです。それで、実際に書きました。『シンデレラ迷宮』は絵もすごくいいので、それも真似して自分で挿絵も描いていました。
 最近『シンデレラ迷宮』を読み返していて気付いたことがあって。私はよく小説で、あの人はこういう人に見えるけれど、違う視点で見るとまた違うということを書くんですが、それはこの本に影響を受けていますね。
 氷室さんの本はわーっと揃えていきました。コバルト文庫の氷室さんの本は背表紙がピンクなんですよね。ベッドサイドがピンクの本で埋まっていきました。『少女小説家は死なない!』、『なんて素敵にジャパネスク』、『蕨ヶ丘物語』や『なぎさボーイ』を書かれていた頃です。

――『なぎさボーイ』、懐かしいですね。『多恵子ガール』『北里マドンナ』の3部作。それぞれ、なぎさと、彼と幼馴染みの多恵子、彼の友達の北里の視点から描かれる。

青山:これも、視点を変えたら同じ出来事が違うふうに見えてくるということが顕著ですよね。今自分がやっていることと同じだなと思います。この3部作は野枝ちゃんが好きなんですが、彼女の視点がないのが残念です。
 私、氷室さんに手紙も書いたんです。そうしたらお返事をいただいたんです。イラスト付きの葉書で、ご本人の直筆で、サインつきで。決まりきった言葉ではなく、私の手紙の内容にも触れて、ちゃんと答えてくれていました。

――わあ、きちんとファンレター一通一通目を通してお返事を書かれていたんですね。『シンデレラ迷宮』の影響でご自身で書き始めた小説は、どんな内容だったのですか。

青山:『シンデレラ迷宮』を真似して、異世界に行く話でした。それが、最後までちゃんと書けたんですよ。小説を書くって面白いんだと思い、中2の14歳の時に小説家になろうって決めました。実際にデビューしたのが47歳なので33年かかりました。

――ところで、さきほど中学1年生の時に転校したとおっしゃってしましたが。

青山:千葉から愛知に越したんです。正確にいうと、生まれた場所は埼玉県なんですよね。母の実家が埼玉にあって、そこの病院で生まれたんですが1週間しかいなかった。愛知には中1から大学卒業までいたので、私の中では愛知が出身地です。

――当時、読書や執筆以外に打ち込んだことはありますか。部活とか。

青山:小学生、中学生の時に演劇クラブに入って、お芝居って面白いなと思っていました。高校は演劇部がなかったんですが、大学に入ってからまた始めて、社会人になってからもアマチュアの劇団にちょっとだけ入っていました。
 演技って、自分とは違う人の人生を生きるという点で、小説を書くのと近しいものを感じるんです。私は、小説家って大きく分けて2タイプいると思うんです。脱いで自分を出していくタイプの人と、着ていくタイプの人と。私は、自分は後者だと思っています。自分の内面や本当の自分を隠して、いろんな人のコスチュームを着て書いている感覚なんです。小学生の男の子のコスプレをしたり、おじさんのコスプレをしたり、ということを1冊の本の中でやっています。

  • なぎさボーイ ボーイ・ガールシリーズ (集英社コバルト文庫)
  • 『なぎさボーイ ボーイ・ガールシリーズ (集英社コバルト文庫)』
    氷室冴子
    集英社
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  • 多恵子ガール なぎさボーイ (集英社コバルト文庫)
  • 『多恵子ガール なぎさボーイ (集英社コバルト文庫)』
    氷室冴子
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  • 北里マドンナ ボーイ・ガールシリーズ (集英社コバルト文庫)
  • 『北里マドンナ ボーイ・ガールシリーズ (集英社コバルト文庫)』
    氷室冴子
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